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【この一冊】“下水道ブルーカーボン”を知る《評》田村一郎

本書は、下水道での栄養塩類の供給管理が沿岸海域における炭素の吸収・貯留(ブルーカーボン)に貢献することを示し、その社会実装への道筋を紹介した意欲的な書籍である。

『豊かな海に貢献する栄養塩類供給管理~下水道ブルーカーボン構想~』
監修:田中宏明・桑江朝比呂

(日本水道新聞社 7月30日発売・2,000円)

下水道は、公共用水域の水質保全などを目的として整備され、河川での有機物や閉鎖性水域での窒素・りんの環境基準の達成に大きく貢献してきた。水域での水質環境が改善する一方で、窒素やりんなどの栄養塩類が不足する貧栄養の海域も出てきており、水産業などへの影響が懸念されている。このような中で、瀬戸内海などの一部の海域において冬季に下水処理水中の栄養塩類濃度を上げることで、不足する窒素やりんを水域へ供給する「能動的運転管理」の取り組みが進められてきている。

下水道由来の窒素やりんなどの栄養塩類は、海域や季節ごとにきめ細やかな供給管理を行うことにより、海域の水質環境を守りながら水産資源の持続的な利用や生物多様性の確保に貢献できる。それとともに、海草・海藻などのブルーカーボン生態系の成長に寄与し、CO2の吸収・貯留も促進される。

このように、下水道での栄養塩類の「能動的運転管理」がコベネフィットを生む大きなポテンシャルを有しているとともに、カーボンクレジット化とカーボンオフセットの活用などにより、カーボンニュートラルに向けての有効なネガティブエミッション技術ともなる。

本書の前半では、ジャパンブルーエコノミー推進研究会(BERG)の中に設置された「ブルーカーボン促進のための栄養塩供給管理プロジェクト」の研究成果として、「下水道ブルーカーボン構想」の実現に向けての課題の整理や必要な技術、ロードマップなどの紹介を行っている。後半では、「豊かな海とブルーカーボンへの取り組み事例」や、「科学的知見獲得と技術開発の取り組み」として、国や大学、民間での技術開発の取り組みを紹介している。

下水道とブルーカーボンの関わりについての理解に役立つ1冊である。

《評》株式会社東京設計事務所取締役 田村一郎