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【連載】下水道の散歩道(83)上下水道建議 ― 5つの提案 ―

上下水道インフラの未来への提案

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Ⅰ.はじめに

2026年10月7日、東京理科大学名誉教授の硤合憲三さんがノーベル化学賞を受賞しました。
硤合さんが世界で初めて発見した「不斉自己触媒反応(硤合反応)」は、生命の起源の謎に迫り、今後、人類の未来を切り拓く可能性のある画期的な研究です。

昨今のノーベル賞が実用的で、目先の活用に資する研究が多かった中、硤合さんの研究テーマは、従来からの延長線を超えた革新的な内容です。

上下水道分野においても、政策面、技術面において、「従来からの延長線を超えた発想」が求められています。

「建議」という言葉があります。

「答申」が、「諮問に対する答申」と言うように、聞かれたことに対して意見を述べるのに対し、「建議」は、聞かれていないことも含め、意見を言うことです。道路行政においては、1992年より、1997年、2007年、2017年と概ね10年に一度、道路行政の未来に向け、従来からの延長線を超えた建設的な提言を行う「道路建議」が発出されています。本年9月、国土交通省の社会資本整備審議会道路分科会で、来年夏に向け、新「道路建議」をまとめることが決定し、積極的な議論が始まっています。

上下水道の分野では、10月19日、2024年11月から議論されてきた「上下水道政策の基本的なあり方検討会」の第12回会議が開催され、最終の第3次とりまとめに向けての骨子等が示されました。最終とりまとめに向け、「建議」を打ち出す意欲で、積極的・建設的な提言をお願いしたいと思います。

従来からの延長線を超えた上下水道の未来に向けて、私は、次の5点の基本姿勢を私なりの「上下水道建議」の一つとして、提示したいと思います。

1.究極の基本姿勢として、「世界の中核を担う強い日本」を我が国が目指すにあたり、その日本の挑戦とシンクロし、貢献するよう、上下水道政策の立案・上下水道関連技術開発を行う。

2.上下水道蛸壺からの脱却。上下水道の殻に閉じこもっていては進化はない。多様な分野との連携が必須。

3.いま、上下水道界は、本当に多くの課題を抱えている。大胆な優先順位をつけることが重要。「命を守る」政策に注力すべきではないか。

4.子供達・若者達が関心を持ち、将来の進路として志願する上下水道界になるために、何をすべきかを考える。これが、上下水道界をサステイナブルに発展させていく基本中の基本。

4-1.4のためには、マイナスをゼロに、また、起こったことへの事後的な対応だけの政策では不可能。
4-2.4のためには、上下水道の新たな価値の創造が鍵の一つ。

5.技術開発・技術革新は要。上下水道界での技術開発・技術革新を日本発の独自技術で。技術開発・技術革新への二つのアプローチ

Ⅱ.「世界の中核を担う強い日本」に向けての我が国の挑戦・進化に上下水道が貢献

現在、日本のGDPは、米国、中国、ドイツに次いで、世界第4位です。しかし、IMF(国際通貨基金)は、来年には、インド、英国に抜かれ、世界第6位になると予想しています。とはいえ、このまま衰退していく日本には絶対したくありません。そのためには、やはり、日本の技術力の発掘・進化・向上を目指し、世界における存在感を増大することが重要です。圧倒的な存在感を有する技術分野をいくつか持つことが最重要です。

上下水道政策、上下水道分野の技術開発を考える時、世界での日本の存在感を増大させることにその上下水道政策が資するのか、その上下水道関連技術開発が繋がるのかを今後、是非、考えてほしいと思います。官学民とも、今まで、そのような発想はなかったと思います。しかし、上下水道の予算規模・ストック規模は大変大きく、日本の国益に大きく影響を与えうる規模なのです。ぜひ、発想を変えていただきたいと考えます。

Ⅲ.上下水道の殻に閉じこもっていては進化はない――多様な分野との連携

従来、上下水道分野の政策立案、技術開発は、上下水道関係者だけで、殻に閉じこもって、行われてきました。上下水道分野以外の人達にとって、上下水道への関心は、非常に小さいものでした。しかし、昨年の八潮の道路陥没事故以降、国民全体の上下水道への関心が高まりました。今年の熊本地震、千葉豪雨により、さらに、上下水道への国民の関心は高くなっています。そうした中、いままで、上下水道に関心の薄かった他の業界からの上下水道への技術連携等の話が急速に増加しています。今後、他分野との連携・協働を強く進めていかねばなりません。政府レベルでも、国土交通省は、他省庁との連携・協働を早い段階から提案し、進める必要があります。蛸壺からの脱却です。

Ⅳ.「命を守る」政策に注力

能登半島地震、八潮道路陥没事故、熊本地震、千葉豪雨、と上下水道に関連する災害・事故が連続し、上下水道を取り巻く政策課題は、山積しています。さらに、線状降水帯の頻発等、気象条件の変化も激しく、雨の降り方も予測がつかず、上下水道を取り巻く政策課題にどのような優先順位で取り組むべきか非常に難しい局面です。

私は、まず、「命を守る」政策に注力すべきと考えます。具体的には、「エアーハンマー対策」としてのマンホール蓋の安全化徹底、水道の「テロ対策」や「下水サーベイランスによる我が国へのバイオテロ対策」等上下水道国家安全保障政策、大口径重要管路の陥没対策、下水管路内への「NO ENTRY対策」等です。特に、道路冠水の多発の中、エアーハンマー等によるマンホールの破壊・蓋の飛散による事故の発生を危惧しています。マンホール蓋の安全対策は急務と考えます。

Ⅴ.子供達・若者達が関心を持ち将来の進路として志願する上下水道界になるために何をすべきか

現在、上下水道界は、八潮の道路陥没事故に端を発した「上下水道の全面的点検」、「上下水道老朽化対策」、能登半島地震・熊本地震を踏まえての「上下水道耐震対策」、千葉豪雨等を踏まえた「下水道浸水解消対策」で、当座の事業量が非常に大きく、他の社会資本分野より、活気があるように見えます。しかし、その内容は、マイナスをゼロにする政策が中心で、新たなポジティブな展開施策が少ないのが現状です。

これでは、当座の上下水道界は、何とか横ばいとしても、子供達・若者達が関心を持ち、将来の進路として志願する上下水道界にしていくのは、到底不可能でしょう。

「えー、そんなこともできるの。上下水道って面白いね。」「上下水道分野でノーベル賞、すごいなあ。」といったテーマがありません。他の部門で見られる「火星衛星探査機MMX打ち上げ成功、すごいなあ。将来、宇宙開発に携わりたいなあ。」といった子供達・若者達の関心を呼ぶ前向きでポジティブなテーマ・話題がないのです。

こうした子供達・若者達に関心を持ってもらうためには、「上下水道の新たな価値の創造」は、大変有効です。具体的には、次の諸点があります。

1.上水道施設・下水処理施設の敷地内または隣接地へのデータセンター立地。上下水道施設から冷却水・電力を供給でき、ウィン・ウィンの関係を築けます。都市計画も含め、国土交通省と経済産業省の早い段階からの連携が必須です。

2.下水サーベイランスによる「街の健康診断」・「感染症の天気予報」の実現。下水道は、情報インフラです。下水サーベイランスの活用により、感染症の早期把握による感染症拡大の防止への貢献、バイオテロ対策という国家安全保障への貢献、市中における麻薬拡大の把握等が可能となります。子供達・若者達もびっくりです。

3.下水・下水汚泥よりリンの抽出等コンスタントな肥料の確保。下水道インフラは、食糧安全保障に貢献します。

4.下水汚泥からナフサ製造。下水道インフラは、石油代替インフラになります。

5.下水道は、資源エネルギーの宝庫。下水道は、宝の山です。

6.下水道は、バイオテクノロジーの最先端技術を活用できます。ゲノム編集・合成生物学により、将来、水処理技術の効率は劇的に進化を遂げる可能性があります。

7.日本中の下水処理施設敷地の地下に核シェルターを設置。水、電気の確保もでき、既に管廊等の地下構造物も存在するので、既存施設をうまく使っていけば、核シェルターの候補場所としては、最適です。

Ⅵ.上下水道界の技術開発・技術革新が要。日本発の独自技術を。二つのアプローチ

技術開発・技術革新は、上下水道の輝かしい未来のため、また、子供達・若者達が関心を持って上下水道界を志願してくれるための要です。

技術開発を進めるには、課題がどこにあるかを把握し、その解決のための技術開発を進める「ニーズオリエンテッドアプローチ」とシーズから進める「シーズオリエンテッドアプローチ」があります。

それぞれのアプローチから攻める上下水道関連の技術開発テーマは以下です。

1.ニーズオリエンテッドアプローチ
(解決したいテーマ)

①老朽化対策
・微生物の遺伝子情報・下水サーベイランスを活用した管路危険度マップ作成
・フィジカルAI
・NO ENTRY技術、人の命を守る技術
・耐硫化水素の長期耐用コンクリートの採用
②浸水対策
・人の命をまず守る対応・技術
・エアーハンマー対策急務、マンホール蓋の安全化
・ポンプゲートシステム
③水の官民連携
・超広域化
④個別汚水処理・合併浄化槽
・水処理抜本的技術開発
⑤広域化
⑥直轄上下水道
⑦日本上下水道事業団
⑧合流改善
⑨省資源・省エネルギー・省スペース
⑩創資源・創エネルギー
⑪地球温暖化対策
・セメントレスコンクリート採用
⑫肥料化
⑬下水道の生み出す資源エネルギー・空間等有効利用
・データセンターの処理場内空間への立地
⑭下水道の新たな価値創造
・下水サーベイランス
⑮DX・AX
⑯健康・長寿
・電解水素水
・下水サーベイランス
⑰防衛
⑱食料安全保障
⑲健康医療安全保障

2.シーズオリエンテッドアプローチ
(シーズ(保持している強み、技術開発の萌芽))

①水を扱っている価値
②汚泥・有機物
③下水内微生物情報
④AI
⑤フィジカルAI、ヒューマノイド
⑥量子力学、量子コンピュータ
⑦核融合発電
⑧バイオテクノロジー
⑨遺伝子工学
・水処理の抜本的改革
・汚泥処理の抜本的改革
⑩水処理技術
⑪汚泥処理技術
⑫微生物燃料電池
⑬全固体電池
⑭蓄電コンクリート
⑮処理場空間
・核シェルター

上下水道界において、こうした二つのアプローチからの技術開発・技術革新の未来戦略・タイムラインを策定し、着実に具現化することが望まれます。その際、日本発の技術、日本独自の技術の開発に今後は大きな力を注ぐべきです。その中から、ノーベル賞に繋がる技術開発が出る可能性もあります。

また、開発された技術が速やかに実用化されるためには、直轄上下水道事業の創設、JSの日本上下水道事業団への再編、水の官民連携における新技術活用推進策の提示等が望まれます。

Ⅶ.おわりに

「はじめに」で述べた硤合憲三さんは、私の大学時代の同級生で、大学時代の五指に入る親友です。一緒に入学し、クラスは違いましたが、寮の関係で親しくなり、意気投合しました。大学時代、授業・勉学以外の時間を一番長く過ごした友人の一人です。

四年間、活発に議論し、旅行、登山、スキーにもよく行きました。私は、建設省から奈良県庁に出向しているとき、若くして結婚したのですが、大学院の博士課程一年の彼は、大阪まで、わざわざ結婚式に来てくれました。憲三という名前は、昭和22年5月3日の日本国憲法施行日からちょうど3年目の昭和25年5月3日に硤合さんが生まれたので、学校の先生をされていたお父様が憲三とつけたそうです。

いま、テレビで見る彼は、大学時代そのままです。誠実、表裏無し、他人への優しさ、ホスピタリティー、意外性のあるユーモア、強い好奇心、集中力、粘り強さ、しかし楽天家。昔から、変わっていません。性格は、私とかなり違いますが、楽天主義のところは、似ており、一緒にいて、まったくストレスを感じない友人です。ノーベル賞受賞は、本当に嬉しいです。

家で、古いアルバムを整理しましたら、二人が写った数十枚のスナップ写真が見つかりました。添付の写真がその一部です。二人とも成長していないと見え、あまり風貌は変わっていません。硤合さんの人柄から、ほのぼのとした写真が多いです。


硤合さんと筆者。大学の寮内での写真。硤合さんの引っ越しの手伝い


尾瀬山行時の写真


尾瀬山行時の避難用山小屋での写真


大学の寮の敷地内にて

ストックホルムでのノーベル賞授賞式までは、忙しさでとても会えそうにありませんが、年が明けましたら、会っていろいろ話をしたいと思っています。

上下水道関係から、将来、ノーベル賞が出る日を心から待ち望んでいます。

2026年(令和8年)10月記


【筆者略歴】(やと・よしひこ)東京大学工学部都市工学科卒業。建設省入省。1987年西ドイツカールスルーエ大学客員研究員、その後、京都府下水道課長、建設省下水道部下水道事業調整官、東北地方整備局企画部長、国交省下水道事業課長、国交省下水道部長、日本下水道事業団理事長、㈱NJS取締役技師長兼開発本部長等を歴任。2022年3月より㈱NJSエグゼクティブ・アドバイザー、現在に至る。他に(一社)日本下水サーベイランス協会副会長、(公財)河川財団評議員等を務めている。技術士(上下水道部門(下水道))。著書に「21世紀の水インフラ戦略(理工図書 単著 書き下ろし)」がある。

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「上下水道情報」2044号(2026.12)掲載

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