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【連載】下水道の散歩道(81)今こそ上下水道関係者は「目線を上げよう」

上下水道インフラの未来への提案

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Ⅰ.はじめに
Ⅱ.上下水道は、国政の最重要政策の一翼を担う

  1. 国土強靱化安全保障の象徴としての上下水道
  2. 国民の命と暮らしを守る都市浸水対策・上下水道耐震対策は、「国土強靱化安全保障」という国政の最重要政策
  3. 最重要国策の一つ「官民連携・協働の推進」に上下水道は、水の官民連携(ウォーターPPP)として先導的に対応
  4. 下水道インフラは、「都市の油田」。合成生物学を駆使したバイオリファイナリーによる下水汚泥からのバイオマスナフサ製造
  5. 下水道インフラが食料安全保障・経済安全保障に貢献。肥料としてのリン確保
  6. 上下水道インフラがAXの鍵を握る。データセンターにおける冷却水確保問題
  7. 下水道政策は国家安全保障の一翼を担う。下水サーベイランスが感染症対策、麻薬対策、バイオテロ対策に貢献
  8. 上下水道の新技術立国への貢献

Ⅲ.「目線を上げる」とは
Ⅳ.「目線を上げる」効果
Ⅴ.おわりに

Ⅰ.はじめに

2026年6月25日夕刻、総理官邸で、高市総理出席のもと、令和8年9回目の経済財政諮問会議が開催されました。当日の主要議題は、「骨太の方針2026」の骨子案の提示でした。骨太の方針は、正式には、「経済財政運営と改革の基本方針」と呼ばれ、日本政府の国策の基本方針・最重要事項を提示するものです。これに沿って、各省庁が8月31日に財務省に翌年度の予算要求を提出します。

今回の「骨太の方針2026」では、中長期重要課題としても、「戦略的な社会資本整備の推進」が謳われており、社会資本整備が、比較的大きく取り上げられていることに注目です。
現時点における日本の国政の最重要政策は、以上からわかるように、

 .日本経済成長戦略
 .国家安全保障
 .経済安全保障
 .食料安全保障
 .エネルギー安全保障・脱炭素・GX
 .国土強靱化安全保障
 .健康医療安全保障
 .AX/DX戦略
および短期的な課題として
 .ホルムズ海峡封鎖による石油・ナフサの確保
 .物価高対策

――の10政策でしょう。

こうした国家の最重要政策に、今や、上下水道が深く関わっており、その一翼を担っています。かつては、必ずしも、上下水道が、そうした位置を占めていなかったものが、今、大きく変わりつつあります。

Ⅱ.上下水道は、国政の最重要政策の一翼を担う

「上下水道が国政の最重要政策の一翼を担い、国家・国民に貢献する。」
具体的には、次の諸点です。

1.国土強靱化安全保障の象徴としての上下水道

(上記最重要政策

2025年1月28日に発生した八潮市の下水管路老朽化起因の道路陥没事故は、国政に大きな影響を与えました。社会インフラの安全保障がいかに大切かを国民すべてが認識することとなりました。その象徴が上下水道です。

事故後に設置された家田委員会(下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会)では、インフラ全般に共通する課題について整理し、新たなインフラマネジメントに向けた「5つの道すじ」を示しました。

「見える化」、「メリハリ」、「現場にもっと光を」、「統合的マネジメント」「改革へのモーメンタム」

の5つです。

これを受け、今通常国会(第221回国会)で現在、「確実な老朽化状況の把握」、「下水道の複線化等戦略的再構築」、「道路管理者との連携強化」等を内容とし、「安全性確保を最優先する下水道マネジメントの確立」を目指す「大改正下水道法」が審議されています。このように、上下水道は、今後とも、「国土強靱化安全保障」の象徴として、国政の最重要政策の一翼を担い、国民の国土強靱化安全保障に貢献していくことになると思います。

2.国民の命と暮らしを守る都市浸水対策・上下水道耐震対策は、「国土強靱化安全保障」という国政の最重要政策

(上記政策

線状降水帯発生の頻発、台風の日本近海での発生増加等の影響による都市水害が頻発しています。下水道による都市浸水対策は、国政の最重要課題の一つです。また、2024年1月1日発生の能登半島地震では、半島特有の困難な条件があったとは言え、上下水道インフラの被害の大きさ・復旧の遅れが、他の社会インフラと比べ特に目立ちました。上下水道は、国民の命と暮らしを守る重要インフラです。上下水道の耐震対策も、国政の最重要課題の一つです。

3.最重要国策の一つ「官民連携・協働の推進」に上下水道は、水の官民連携(ウォーターPPP)として先導的に対応

(上記政策

今通常国会(第221国会)冒頭の2026年2月20日の高市内閣総理大臣施政方針演説では、国政の最重要政策の一つとして、「官民連携による投資促進」が大きく謳われています。上下水道は、2023年6月より、「PPP/PFI推進アクションプラン(2024、2025、2026年度改定あり)」に基づき、すべての社会インフラ等の中で、先導して、官民連携に取り組んでいます。この国政の最重要政策への寄与は、国民等に、もっと広く知られてよい政策だと思います。

4.下水道インフラは、「都市の油田」。合成生物学を駆使したバイオリファイナリーによる下水汚泥からのバイオマスナフサ製造

(上記政策

ホルムズ海峡封鎖の影響により、石油及びあらゆる石油化学製品の元となるナフサの逼迫が生じています。下水汚泥からナフサを製造することは、難しくありません。超高温熱分解・ガス化と触媒反応技術を組み合わせた工業化学的な手法と合成生物学(ゲノム解析・編集を自由に駆使して新たなタンパク質等新物質を作る学問)によるバイオテクノロジー的手法があります。その中で、現在、合成生物学を使ったバイオリファイナリー(バイオマスを原料として、バイオ燃料や化学品を製造する技術)を活用し、コストスリムな下水汚泥からのバイオマスナフサ製造への期待が高まっています。高市内閣の日本成長戦略の17の戦略分野の中にも、合成生物学が入っており、期待は大きいものがあります。実用化が達成された暁には、下水汚泥を生み出す下水処理場は、「都市の油田」になるでしょう。

5.下水道インフラが食料安全保障・経済安全保障に貢献。肥料としてのリン確保

(上記政策

ホルムズ海峡封鎖関連で化学肥料の確保が厳しくなってきています。サウジアラビア等、中東から直接届く窒素系肥料(尿素等)の逼迫に加え、リン肥料の逼迫が発生しています。リン鉱石を肥料に加工するために不可欠な硫黄の多くがホルムズ海峡経由となっており、世界最大のリン酸肥料輸出国のモロッコで、硫黄不足で現地生産が滞っています。

下水汚泥の肥料化、とくに、堆肥化ではなく、農家等の利用者の抵抗も少ない下水及び下水汚泥からの「リンの回収」は、今後、本格的に強化する必要があると思います。現在、日本は国内で消費するリンの全量を輸入しており、その1割の量が家庭等を経て下水道に流入します。しかし、現在は、下水道に流入した量の約10%強が主にリン肥料として回収されているに過ぎません。化学肥料の価格や確保に一喜一憂せず、恒久的・継続的な対応が必要です。リン回収は、下水道インフラが国の食料安全保障、経済安全保障に貢献する重要な施策です。

6.上下水道インフラがAXの鍵を握る。データセンターにおける冷却水確保問題

(上記政策

AIの急速な発展・拡大(AX: AIによるトランスフォーメーション)に伴う世界中におけるデータセンター設置時の冷却水確保のための水問題がクローズアップされています。

この膨大な冷却水需要を下水道として、取り込むことができれば、下水道会計にとって、大きな恒常的安定的収入になります。そのためには、データセンターを計画段階から下水処理場の隣接地に呼び込む等、経済産業部局と下水道部局の緊密な連携が必須です。AI・半導体政策への上下水道の貢献は期待大であります。

7.下水道政策は国家安全保障の一翼を担う。下水サーベイランスが感染症対策、麻薬対策、バイオテロ対策に貢献

(上記政策

下水サーベイランスは、下水中の病原体等を下水処理施設の入り口等で、定期的・継続的に測定することにより、地域の感染症流行状況を集団レベルで、早期に正確に検知するものです。(ここ数年で分析精度が大きく向上し、現在は処理区域内に10万人に一人の感染者がいれば検知できる精度となっています。かつほとんどすべてのウイルス・細菌・麻薬等の化学物質を検知できます)。

現在、下水サーベイランスの手法を活用した、航空機排水サーベイランス・空港下水サーベイランスも、日本の主要空港等で継続的に実施されています。これは、海外から我が国に入る危険な新種のウイルス、ウイルスの変異株の早期把握のためであり、バイオテロへの備えも含め、国家安全保障、国家防衛に大きく貢献しています。また、地域の麻薬の蔓延状況の把握も、下水サーベイランスで可能で、韓国ではすでに実施されています。

現在開会中のサッカーワールドカップ北中米大会でも、感染症の蔓延監視に、下水サーベイランスが活用されています。米国ジョージタウン大学の公衆衛生の専門家らが中心に感染症の発生状況を下水サーベイランスで見守り、分析結果を日々解析し、各地の保健当局や医療関係者と情報共有しています。東京五輪、パリ五輪でも、下水サーベイランスは、活用されました。

EUでは、昨年1月1日から、EU下水道法において、EUのすべての加盟国に対し、下水サーベイランスの実施が義務付けられました。EUの公衆衛生法や感染症法でなく、下水道法で義務付けられていることに注目です。

このように、下水道インフラは、「街の健康状況」を把握する「情報インフラ」であり、国家安全保障・健康医療安全保障に貢献しています。

8.上下水道の新技術立国への貢献

(上記政策

骨太の方針2026の骨子の中に、「新技術立国」が掲げられています。上下水道分野は、「技術の宝庫」です。現在、上下水道分野では、多くの課題を抱えています。その課題解決のための新技術が続々と生まれています。具体的には、管路の「No Entry」点検のための最先端ドローン(点検と同時に、将来の管路のデジタルデータ作成に繋がる3Dマップの作成ができるドローン等)やフィジカルAI技術を搭載した無人点検・無人工事用ロボット、BX・遺伝子工学を活用した新しい水処理・汚泥処理等が、近く次々とリリースされると期待しています。これらは、間違いなく、国の最重要政策の日本経済成長戦略に寄与すると思います。

以上のように、上下水道は、国家最重要政策に深く貢献しています。上下水道は、今や、「安全・安心」と「持続可能な発展」に直結する国家の重要基盤であります。

こうした中、上下水道関係者は、従来以上に、「目線を上げて」、「自信と誇りを持って」、上下水道界の進化にチャレンジしていただきたいと思います。

Ⅲ.「目線を上げる」とは

「目線を上げる」とは、物理的に立ち位置を上げ、視線を上げるだけでなく、「目標や基準(スタンダード)を高くする」、「広い視野で遠い先まで俯瞰し、全体像を把握する」、「思考をポジティブに切り替える」ことです。

「目線を上げる」ことを詠んだ有名な漢詩に、盛唐の詩人王之渙(おうしかん)の五言絶句「登鸛雀楼(かんじゃくろうにのぼる)」があります。

白日依山尽  白日(はくじつ)山に依りて尽き
黄河入海流  黄河海に入りて流る
欲窮千里目  千里の目を窮(きわ)めんと欲し
更上一層楼  更に上る一層の楼

現代語訳は、「夕日が山の端に沈み、黄河は海へと流れ去っていく。もっと遠く、千里の彼方まで見きわめようとして、さらに一階、上へ楼閣を登る」です。

今から、二十年以上前に、種々ご指導を頂いていた当時株式会社クボタの代表取締役社長だった幡掛大輔さんから教えていただきました。その後今日まで大切にしている言葉です。

Ⅳ.「目線を上げる」効果

「目線を上げる」効果としては、次の諸点があると思います。

  • ① 視野が広くなり、遠くまで見えることにより、全体状況を俯瞰できる
  • ② より高い目標、より先の目標が持てる
  • ③ 基準(スタンダード)が高くなる
  • ④ 未来が見える
  • ⑤ 自信と誇りを持てる
  • ⑥ 物事に挑戦しやすくなる
  • ⑦ 視界が広がり、攻めやすく、防御しやすくなる
  • ⑧ 蛸壺からの脱却が図れる
  • ⑨ 他分野の人達との連携がとりやすくなる
  • ⑩ 視野が広くなり、新たなアイデアがでやすくなる

Ⅴ.おわりに

上下水道政策が国政の最重要政策に深く関わり、その一翼を担い、存在感が高まっている今日、上下水道関係者は、従来以上に、「目線を上げて未来を読み」、「自信と誇りを持って」、上下水道界の輝かしい未来に向けて、チャレンジをしていただきたいと思います。未来を読むにあたっては、「世界の情勢を読む」、「国民ファースト・カスタマーファースト」を、常に意識していただきたいと考えます。そうした努力が報われ、将来、子供たち・孫たちが上下水道に関心を持ち、上下水道の世界に飛び込んできてくれることを心から待ち望んでいます。

2026年(令和8年)6月記


【筆者略歴】(やと・よしひこ)東京大学工学部都市工学科卒業。建設省入省。1987年西ドイツカールスルーエ大学客員研究員、その後、京都府下水道課長、建設省下水道部下水道事業調整官、東北地方整備局企画部長、国交省下水道事業課長、国交省下水道部長、日本下水道事業団理事長(公募による選任)、㈱NJS取締役技師長兼開発本部長等を歴任。2022年3月より㈱NJSエグゼクティブ・アドバイザー(常任特別顧問)、現在に至る。他に(一社)日本下水サーベイランス協会副会長、(公財)河川財団評議員等を務めている。技術士(上下水道部門(下水道))。著書に「21世紀の水インフラ戦略(理工図書 書き下ろし)」がある。

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「上下水道情報」2038号(2026.7)掲載

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