前回はオゾンと生物活性炭による高度浄水で水がおいしくなる仕組みをお話ししました。今回は、その高度浄水の実験を重ね、欧米の方式とは一味違う独自の新方式を開発してきたお話です。
まず、水道水がまずかった原因ですが、かび臭さが取れなかったこと、アンモニアと塩素が反応してカルキ臭さが出たこと、有機物が多かったこと、この3つです。これらを取り除くために、オゾンと生物活性炭を組み合わせた高度浄水の開発に取り掛かりました。
その高度浄水を行う位置が大切になります。左の従来の浄水では沈殿してろ過するというのが大まかな流れです。これに高度浄水を追加する場合、先行していた欧米では、ろ過した後に高度浄水を配置していました。しかし、新方式では沈殿後の水を高度浄水して最後にろ過する方式を考えました。最後にろ過があると、生物活性炭の中に繁殖した微生物が漏れてもろ過で止められるから安心です。ですから、微生物を十分に繁殖させることができて、いい処理ができます。生物が繁殖するから「生物活性炭」といいます。欧米方式のように最終工程にろ過がないと、洗浄を増やすなどして微生物をあまり繁殖させない処理になります。ですから名称も生物活性炭ではなく単に活性炭といいます。
沈殿後の水には濁りが少し残っています。これを普通の活性炭に通すと、活性炭の細かい粒が表面にあるので、すぐ目詰まりしてしまいます。目詰まりすると活性炭の層を毎日のように洗浄しなければなりません。洗浄とは、水を逆流させて水流で汚れを洗い流すことです。洗浄するごとに、せっかく繁殖した微生物が半分に減ってしまうし、毎日洗浄は大変不経済です。そこで、活性炭の粒を大きくして粒のそろった活性炭を開発しました。これで目詰まりしにくくなったので、洗浄間隔を4日に1回にまで伸ばすことができ、微生物を十分に繁殖させることが可能となりました。微生物を繁殖させても後にろ過があるから安心です。微生物がカビ臭さやアンモニアをなくし、有機物の少ない水にしてくれるため、この後に消毒用の塩素を入れても、カルキ臭さのないおいしい水ができます。微生物が活性炭についた汚れも食べてくれるので活性炭も長持ちします。こうして欧米とは違う独自の高度浄水が開発され、日本では現在この方式が主流になりつつあります。
高度浄水ができるまでには長い年月がかかりました。東京では昭和40年代の後半から、水道水がかび臭いという苦情が出始めました。そして昭和58年から6年かけて、さきほどの独自の高度浄水を開発しました。そしていよいよ、平成4年には金町浄水場の一部で、日本で最初のオゾンと生物活性炭による高度浄水が稼働しました。高度浄水の導入は大規模な工事のため、当初は、一つの浄水場で一期工事、二期工事と段階的に導入し、しかも浄水場も順番に導入していて、一気に全量導入とはいきませんでした。しかし、平成10年代の半ばから導入は一気に加速されました。水道水の評判が悪く、いっときの猶予も許されない状況だったからです。それと、大阪が高度浄水を一気に全量導入完了したことも大いに刺激となりました。特に後半のラストスパートの勢いは目覚ましく、ほとんどの浄水場で同時に大規模な工事を行いました。そして平成26年に、夢の全量高度浄水が実現しました。
以前、水道水質の満足度を調査したことがあります。高度浄水の導入を「知っている」と答えた人の7割は水質に満足していて、「知らない」と答えた人は4割しか満足していないという結果が出ました。PRはとても大切です。
最後に、高度浄水のコストですが、建設費と維持管理費合わせて、水道水1m3あたりにすると約10円です。水道料金が1m3 200円ぐらいなので、その5%になります。これで水道の快適性が格段に上がり、お客様に喜ばれるわけですから、決して高くはないと思います。
(c)Atsushi Masuko
「上下水道情報」2016号―2024年10月掲載 一部改
【著者プロフィール】
増子敦(ますこ・あつし)1953年生まれ。博士(工学)。元東京都水道局長、東京水道サービス株式会社代表取締役社長。現在日本オゾン協会会長、日本水道協会監事、YouTubeに「水道の話」を連載。著書に「誰もが知りたい水道の話」。
連載リスト(年月は「上下水道情報」掲載号)
(0)はじめに 2024.5
(1)琵琶湖疏水 2024.5
(2)安積疏水 2024.6
(3)緩速ろ過 2024.7
(4)急速ろ過 2024.8
(5)高度浄水の仕組み 2024.9