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連載「水道の話いろいろ」(5)高度浄水の仕組み

まず、水の飲み比べについてお話しします。街角で水道水と人気の国産ボトル水の飲み比べをしました。コップの水を二つ並べて、どちらが水道水とは言わずに、どっちがおいしいかを言ってもらうのです。これまで20万人にこの飲み比べをやってもらいましたが、水道水の方がおいしいという人が半分います。

この水道水は高度浄水したものでした。高度浄水を入れる前の水道水はとてもまずかったです。かび臭くて、カルキの臭いがあって、お客様から大変不評でした。でも、今は高度浄水が入って格段においしくなりました。高度浄水とは従来の沈殿、ろ過にオゾンと生物活性炭を加えた浄化の方法を言います。これについて順次ご説明します。

まずオゾンについてです。左の酸素原子が二つくっついたものが酸素です。ご存知の通り、空気中に2割ほど存在します。空気に高電圧をかけると酸素の一部が変化して、酸素原子が三つくっついたものができます。これがオゾンです。浄水場ではこのオゾンを含んだ空気を使います。

オゾンの特徴ですが、強力な酸化力を持ち、ウイルスや細菌の不活化、有機物の分解、消毒、脱臭、脱色に優れています。しかし、周りのものを酸化した後は酸素に戻ってしまうので安心です。
オゾンは強力でありながら、品質や環境に与える影響が少ないため、最近は様々な用途で使われています。水道のほか、プールや水族館、浴場の水の浄化、食品工場やスーパーマーケットでの消毒、ホテルの部屋の脱臭などにも使われています。

さて水道における使い方ですが、オゾンを含んだ空気を、この写真のように、細かい気泡にして水中に吹き込みます。そうすると、オゾンが素早く水中に溶け込み、臭いや有機物を分解します。有機物は大きいままだと、この後の生物活性炭の中の微生物がこれを食べられません。微生物が食べられる程度までオゾンで小さくします。

オゾンの後の水は生物活性炭の層へ入ります。まず、活性炭がその優れた吸着能力で臭いや有機物を吸着します。活性炭は表面に細かい穴があいていて、とても表面積が広く、わずか小さじ1杯1グラムほどの活性炭で表面積の合計が1000平方メートル、体育館ほどの広さがあるといわれています。

次に微生物ですが、活性炭の層に繁殖した微生物の数を調べると、活性炭1グラムで1億から10億個もあるとのことです。これが臭いや有機物を食べて、炭酸ガスと水に分解してしまいます。厚さが2.5mある活性炭の層をおよそ15分かけてゆっくりと通って、きれいな水になっていきます。

この微生物ですが、もともとは川から運ばれてきたものです。皆さん、川に入ったとき川底の石の表面がヌルヌルしているのを経験していると思います。これが微生物の塊です。川の水や地下水が浄化されるのはこの微生物のおかげです。これを自然の浄化作用と呼んでいます。この微生物が浄水場に入ってきて、活性炭の層に棲みつき繁殖します。微生物にも種類があって、アンモニア酸化古細菌といってアンモニアを酸化してくれる微生物や、臭いや有機物を分解する様々な微生物がいて、まことに多様です。

こうしてきれいになった、いい水なら、塩素を入れても臭いません。左側の従来の浄水ですが、アンモニアや有機物が多いため、塩素の量が多くなります。アンモニアと塩素が反応してカルキの臭いの原因となるトリクロラミンという物質ができます。これに対し、右側の高度浄水ですと、アンモニアのない、有機物の少ない水に塩素を入れるので、その量も少なくて済み、カルキや塩素の臭いがないおいしい水ができます。

日本全国、名水や地下水を水源としておいしいといわれる水道がたくさんあります。これらはみな水道である限り塩素は十分に入っているのですが、その臭いはしません。いい水に塩素を入れても臭わないのです。

世界の中で、カルシウムなどが多すぎない軟らかな「軟水」が蛇口から安心して飲めるのは希少です。これが、日本人の健康長寿だけでなく、日本の和風出汁をはじめとする和食文化を育んできたのです。高度浄水で、ボトル水や宅配水の購入、浄水器のカートリッジ交換から解放されます。炊事、洗面、うがい、シャワーも快適です。これで私も浄水器をやめました。

さて、最初にお話した水の飲み比べですが、私はどちらがボトル水かがわかります。ボトル水は僅かに香料のような甘みを感じるのです。これはペットボトルの容器からしみ出たアセトアルデヒドの臭いです。あまりいいものではありませんし、ボトルは環境へ負荷をかけます。水道水を飲みましょう。

(c)Atsushi Masuko
「上下水道情報」2015号―2024年9月掲載 一部改

ますこあつし
【著者プロフィール】

増子敦(ますこ・あつし)1953年生まれ。博士(工学)。元東京都水道局長、東京水道サービス株式会社代表取締役社長。現在日本オゾン協会会長、日本水道協会監事、YouTubeに「水道の話」を連載。著書に「誰もが知りたい水道の話」。


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