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連載「水道の話いろいろ」(4)急速ろ過

水をゆっくりろ過する緩速ろ過に対して、最大30倍も速くろ過する方法が急速ろ過です。1896年アメリカで始まり、大量の水も大雨で濁った水もきれいにできて、世界の水道を支えています。今回は急速ろ過のお話です。

砂の層にゆっくりと水を通す緩速ろ過では、層の表面に微生物の膜ができて、これできれいになります。しかし、水を通す速度を速くすると膜ができず、濁りの粒は小さいので砂の粒子の間をすり抜けて出てきてしまい、水はきれいになりません。

濁りのほとんどは土の粒子で、電気的にはマイナスを帯びていて、互いに反発しあい、静止しても大きなもの以外は下に沈まず水中に浮遊したままでいます。

そこで、このマイナスをプラスのイオンで中和します。プラスをたくさん持っているイオンで扱いやすいのがアルミAℓ3+と鉄Fe3+で、アルミが多く使われます。プラスイオンを入れてかき回すと土の粒子のマイナスは中和されて、互いに反発することがなく、プラスイオンを仲立ちにして、逆にくっつきあって粒が大きくなり沈みやすくなります。

このため、急速ろ過では、その前段で沈澱池を設けて、沈みやすくなった濁りのほとんどをプラスイオンと共に沈めてしまいます。

僅かに残った濁りだけを急速ろ過で取り除きます。軽くて大きい濁りの塊は砂と砂の間で引っかかります。小さい濁りは砂と砂の間の空間に比べると圧倒的に小さいので引っかかりません。しかし、既に電気的に中和されているのでこれらは全て砂粒の表面にくっついてしまい、完璧に取り除かれます。

塩素はろ過の前で入れます。そうすると、水中に溶けている鉄やマンガンなどが塩素で酸化されて水に溶けない物質になって砂の表面に蓄積されて除去されます。その他の不純物も塩素で酸化されたり消毒されたりして、小さな濁りと一緒に砂の表面にくっついて取り除かれます。こうして濁りの一切ない安全な水道水が出来上がります。

コレラや赤痢などの水系感染症の原因は飲み水に含まれていた病原菌やウイルスです。これらも塩素で死滅します。塩素消毒された水道水は、我々を水系感染症の不安から解放してくれました。

ろ過を続けると砂の層に濁りが溜まるので、毎日1回、水を逆流させて砂をよく洗浄します。

高度浄水を導入している場合はろ過の前にオゾンと生物活性炭があります。オゾンで有機物を分解し、それを活性炭に棲む微生物が炭酸ガスと水に分解してくれます。そのため、活性炭の洗浄は4日に1回で、砂ろ過の洗浄は2週間に1回で済みます。

最初に入れたプラスのアルミイオンは全て沈殿やろ過で除去されるため、水道水に出てくる量はほとんどゼロで安心です。その濃度は元の川の水の1/10、水質基準に対しても1/10というレベルです。

また、プールや浴場などの循環水の砂ろ過においても、微量のプラスのイオンは必須です。入れないと砂ろ過していても何も取れないので注意が必要です。

急速ろ過は、プラスのイオンを上手く利用して濁りや不純物を取り除く画期的な方法です。このお蔭でわれわれは豊かに水を使う生活を送ることができます。

(c)Atsushi Masuko
「上下水道情報」2013号―2024年8月掲載 一部改

ますこあつし
【著者プロフィール】

増子敦(ますこ・あつし)1953年生まれ。博士(工学)。元東京都水道局長、東京水道サービス株式会社代表取締役社長。現在日本オゾン協会会長、日本水道協会監事、YouTubeに「水道の話」を連載。著書に「誰もが知りたい水道の話」。


連載リスト(年月は「上下水道情報」掲載号)

(0)はじめに 2024.5

(1)琵琶湖疏水 2024.5

(2)安積疏水 2024.6

(3)緩速ろ過 2024.7

(4)急速ろ過 2024.7

(5)高度浄水の仕組み 2024.7