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連載「水道の話いろいろ」(25)震災後の水道管復旧

なぜ一気に直せないのか?「尺取虫」方式の真実

増子敦――日本オゾン協会会長・博士(工学)

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1.繰り返される断水と、見えない被害への挑戦

阪神・淡路、東日本、熊本、そして記憶に新しい能登半島地震。大規模震災のたびに、水道は甚大な被害を受け、広範囲に断水が発生してきました。断水地域には全国から応援部隊が駆けつけ、懸命に復旧作業が続けられますが、多くの住民からは「なぜもっと早く復旧できないのか」という切実な声が上がります。実は、水道管の復旧は、これまでの震災経験がものをいう世界で、水道ならではの特殊な手順があるのです。今回は、普段あまり語られることのない復旧作業の裏側をお話しします。

2.「通水」しないと被害箇所は見えない

震災復旧において最大のポイントは、「管路の被害箇所は、実際に水を通して圧力をかけなければ特定できない」という点にあります。断水した状態では、地下で継手が抜けていても、漏水がないのでどこで被害を受けているかわかりません。したがって、復旧作業は必ず取水場や浄水場といった「上流側」から順番に行う必要があります。全域に一度に工事班を投入して同時に直す、ということが物理的に不可能なのです。常に上流から水圧をかけ、一歩ずつ順番に復旧して有圧区間を増やしていくしかありません。復旧に時間を要する最大の理由は、ここにあります。

3.「尺取虫(しゃくとりむし)」方式の復旧手順

具体的な手順を、太い「配水本管」を例に説明します。まず、復旧させたい区間の下流側の弁を閉め、上流側の弁を開けて充水します。水圧がかかり、地表への噴き出しや漏水探知などで漏水箇所を見つけ出します。発見したら一度上流側の弁を閉めて排水し、管を空にしてから管の取り換えなどの修理工事を行います。修理後、再度充水して水圧をかけます。すると、その先の別の箇所でまた漏水が見つかります。これを何度も繰り返し、最終的にその区間の漏水がないことを確認して初めて、次の一歩(下流区間)へと進めるのです。まさに「尺取虫」のような地道な前進です。

4.配水支管・給水管へ続く、息の長い戦い

本管が通水してようやく、各家庭への給水管が繋がる「配水支管」の復旧に移れます。支管の延長は本管の10倍に及び、被害箇所も比例して多くなります。ここでも同様の「尺取虫」方式を繰り返し、同時に各戸への給水管の漏水も確認していきます。「直しては漏れ、また直す」という作業の繰り返しは、精神的にも肉体的にも過酷ですが、水道を待つ人々のために一歩一歩進むしかない、息の長い仕事なのです。

5.「水道屋」としての熱意と使命感

2007年の新潟県中越沖地震の際、私が所属していた水道局も要請を受けて被害地域の一部の復旧を担当し、私も現地で通水作業に携わりました。懸命に復旧に携わる職員や業者の皆さんの熱意と使命感に心打たれました。配水支管の通水が完了し、近隣の方々に「これでもう水道が使えますよ」と声をかけた時のことです。「本当ですか!ありがとうございます」と深く頭を下げられました。我々の仕事が人々に喜ばれるという、水道屋として生涯忘れることができない、胸が熱くなる貴重な体験でした。

6.レジリエンスの向上を目指して

震災復旧には、どれほど技術が進歩しても一定の時間が必要です。だからこそ、被害そのものを減らせる「管路の耐震化」が不可欠となります。同時に、迅速な復旧を支える資材の備蓄などあらゆる対策を行い、私たちの街を災害から守っていかねばなりません。

(c)Atsushi Masuko
「上下水道情報」2036号―2026年5月掲載 一部改

ますこあつし
【著者プロフィール】

増子敦(ますこ・あつし)1953年生まれ。博士(工学)。元東京都水道局長、東京水道サービス株式会社代表取締役社長。現在日本オゾン協会会長、YouTubeに「水道の話」を連載。著書に「誰もが知りたい水道の話」。

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