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連載「水道の話いろいろ」(24)水道管の耐震化はなぜ進まないか

増子敦――日本オゾン協会会長・博士(工学)

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1.能登半島地震が突きつけた課題

2024年元旦に発生した能登半島地震では、各地で水道管の継手が抜ける被害が相次ぎ、完全復旧までに数か月を要しました。

マスコミ報道では「耐震化がなぜ進まないのか」が連日のように取り上げられ、その多くが「人手がない」、「お金がない」を理由に挙げました。その裏には以前は考えられなかった深刻な現実があります。今回はそれをデータでお示しします。

2.更新の急減

水道管の耐震化は、既存の管を「耐震管」へ更新することではじめて達成されます。ところが、全国の管路更新量は急激な右肩下がりが続いていて、現在は20年前の半分以下という危機的な状況にあります。管種別で見ても、主力のダクタイル鉄管は20年前の40%の水準、樹脂管(ポリエチレン管・塩ビ管)も合計で49%にまで減少しています。

管路延長に対する年間の「更新率」で見ると、20年前には全国平均で年1.4%ありましたが、近年では0.6%台にまで低下しています。

この結果として水道管の耐震化率はなかなか上がりません。比較的高い政令20市でも耐震化率は平均30%で、それ以外の水道事業体の平均はこれより低いのが現実です。仮に耐震化率30%としても、更新率が年間0.6%台だと、残りの管を耐震化するのにあと100年以上かかります。

3.「耐震管」と「耐震適合管」の決定的な差

ここで重要なのが、「耐震管」と「耐震適合管」は違うということです。「耐震管」は抜け出し防止機能があって、今回の震災でもほとんど被害がありませんでした。これに対して「耐震適合管」には、非耐震管であっても「地盤が良好」という理由で耐震性ありと判定されたものが含まれます。残念ながら今回の地震では激しい揺れにより、こうした「地盤頼みの耐震適合管」で継手の抜け出しが頻発しました。現行の耐震評価指標は、この二者が混在していて極めて分かりにくいのが実情です。今後は評価指標を「耐震継手管の率」に一本化し、真の耐震化を明確にすべきです。

4.阻害要因①:更新単価の急騰

耐震化を阻む要因の一つは、更新単価の急騰です。東京都を例に挙げると、管路1メートルあたりの更新単価(年間更新費÷更新延長)は、20年前の2.5倍に達しています。これでは、20年前と同等の予算を投じたとしても、更新できる延長は当時の4割程度に留まります。背景には、人手不足や採算悪化による「入札不調」の常態化があり、それが工事費の上昇を招いています。

5.阻害要因②:水道料金収入の減少

もう一つの決定的な要因は、原資となる水道料金収入の減少です。全国の水道料金収入は、過去20年間で3兆円から2.6兆円へと、約12%も減少しました。その理由は、人口減、一人当たりの使用量の減、単価の高い大口の減、そして長年据え置かれてきた料金改定の先送りです。

電力費等の維持管理コストが増大する一方で収入が減る現状では、更新投資を先送りせざるを得ない経営判断に追い込まれているのです。

6.次世代への責務

大地震は、今後必ず発生します。更新を遅らせることは、将来の長期の断水リスク、事故リスクを確実に高め、致命的な事態を招くことになります。事業体は、震災時でも市民が水を使えるよう、事前対策に最善を尽くす責務があります。そのためには、将来のリスクとコストを市民に正直に伝え、料金改定について、丁寧かつ粘り強い説明を尽くしていく必要があります。


(c)Atsushi Masuko
「上下水道情報」2035号―2026年4月掲載 一部改

ますこあつし
【著者プロフィール】

増子敦(ますこ・あつし)1953年生まれ。博士(工学)。元東京都水道局長、東京水道サービス株式会社代表取締役社長。現在日本オゾン協会会長、YouTubeに「水道の話」を連載。著書に「誰もが知りたい水道の話」。

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