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連載「水道の話いろいろ」(20)オゾンの威力を活かす

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酸素原子が2つ合わさると酸素ですが、3つ合わさるとオゾンになります。

オゾンは、上空でオゾン層となって太陽からの有害な紫外線を遮っていることで有名です。これは大気中の酸素が紫外線によってオゾンへ変化し、そのオゾンがさらに紫外線を吸収するためです。

今回は、そのオゾンを人工的に製造し、水や空気の浄化などにその威力を活かしているお話しです。

まずはオゾンの歴史です。古くから雷のとき何か臭うとされてきましたが、これは空気中の酸素が雷の放電によってオゾンに変化したものでした。19世紀になってこの臭いは酸素からできていることが発見され、ギリシャ語の「臭うozein 」という言葉から「オゾンozone」と命名されました。

その後、放電によるオゾン発生器が発明されました。ガラスの二重管に高電圧をかけて放電させ、その中に空気を通して連続的にオゾンを発生させて作ります。これによって、飲料水中のコレラ菌などをオゾンで消毒する研究が進みました。

水道としては1906年にフランスのニースでオゾンを利用した浄水場が稼働を始め、現在その数はフランスだけで700か所を超えています。

一方アメリカを中心に塩素も普及してきますが、オゾンの方が病原性微生物(クリプトスポリジウム)やトリハロメタン、カビ臭対策の面で優れているため、多くの国でオゾンを利用する浄水場が増えています。

オゾンは特有の臭いがあるため、大気の環境基準0.1ppmぐらいになると、臭いですぐ分かります。オゾンの臭いは原料が酸素か空気かで異なります。酸素だと牧草の臭いですが、空気だと窒素の影響で魚の生臭い臭いになり、0.01ppmで臭う人もいます。

オゾンは新型コロナウイルスなどの消毒や部屋の脱臭で活躍していますが、その場合は、環境基準以下で使用するか、効果を上げたい場合は人のいない夜間などに濃度を上げて使用します。オゾンはすぐ分解して酸素になり、残留することがないため、食品に使用しても表示の義務はありません。

ここからはオゾンの様々な用途をご紹介します。まずは、高度浄水です。オゾンでカビ臭や有機物をバラバラに分解し、それを活性炭に繁殖した微生物が食べて水と二酸化炭素に分解し水をきれいにします。オゾン利用の浄水場は国内で60か所を超えています。

下水処理水をトイレ用水やせせらぎ用水などへ再利用する場合は、脱色、脱臭の観点からオゾンは不可欠となります。

半導体製造では、超純水にオゾンを溶解させて半導体を洗浄し、薬品や水の使用を減らしています。

塩素が必要なプールや温浴施設においては、塩素と汗や尿などが反応して有害なトリクロラミンができて強烈なカルキ臭が出ます。これは「目にしみて痛い、髪の毛が茶色くなってバサバサになる、肌が荒れる」原因物質です。オゾンを併用すると、これが大幅に減るほか、水の透明度が上がります。

また、温浴施設の循環ろ過器をオゾン水で洗浄すると、肺炎の原因となるレジオネラ菌の増殖を抑えられます。

食品業界においては、オゾン水は野菜、果物、鮮魚の洗浄に、また、オゾンガスは魚介類の干物を作るときや食品工場内の消毒に使われます。

タオル製造時にオゾンを使うと肌触りや吸水性がアップします。その代表の今治タオルは使い心地が良くて薬品使用量の少ないエコなタオルとして人気があります。

医療においても、オゾン水は手術用器具や内視鏡などの洗浄だけでなく、歯周ポケットの洗浄や白癬(水虫)の治療にも効果を上げています。

ここまでオゾンの利用が広まってきたのは、小型で安価で扱いやすいオゾン発生器が普及してきたことも大きな理由といえます。オゾン発生器は、オゾン協会認定品の方が安心です。

(c)Atsushi Masuko
「上下水道情報」2031号―2025年12月掲載 一部改

ますこあつし
【著者プロフィール】

増子敦(ますこ・あつし)1953年生まれ。博士(工学)。元東京都水道局長、東京水道サービス株式会社代表取締役社長。現在日本オゾン協会会長、日本水道協会監事、YouTubeに「水道の話」を連載。著書に「誰もが知りたい水道の話」。

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