連載「水道の話いろいろ」(19)塩素に対する誤解
水道の塩素は、必ずしも正しく理解されていないようです。
まず、水道の塩素は2種類あって、臭いも2種類あることからお話しします。
1つは遊離塩素で、一般にこれを塩素と呼んでいます。その代表が次亜塩素酸で、消毒力が非常に強くて、濃度が濃いと塩素臭がします。しかし、水道水に含まれている濃度は極めて薄いので、全く臭いません。
もう一つが結合塩素です。塩素がアンモニアやアミノ酸などと結合してできます。中でも窒素に塩素が3つ付いたものがトリクロラミンで、これが悪者です。鼻を衝く強烈な臭いがします。これがカルキ臭です。

さて、いい水に塩素を入れても臭いません。日本全国おいしいと言われる水道はたくさんありますが、水道である限り塩素は十分に入っています。でも、塩素の臭いは全くしません。これはトリクロラミンがないからです。高度浄水を導入している水道でも、アンモニアなどがなくなるので、塩素を入れてもトリクロラミンはできず、カルキ臭はしないのが普通です。ちなみに、高度浄水のコストは1m3 10円、水道単価が200円として、その5%ですのでとてもお薦めです。
以前、街角で高度浄水した水道水と、人気のボトル水を並べて、どちらが水道水と言わずに、皆さんに飲み比べてもらい、どちらがおいしいか言ってもらったことがあります。20万人以上の方に飲み比べてもらいましたが、水道水がおいしいという人が半分いました。この水道水は朝蛇口から汲んだもので塩素は十分に入っているので、その塩素は臭わなかったということです。

一方、アンモニアやアミノ酸などがちょっとでも入っている水に塩素を入れるとトリクロラミンが生成されて、カルキ臭が出ます。トリクロラミンは水質基準がなく統計がないので推定になりますが、そういう水道は依然としてあります。
プールも、たいてい強烈なカルキ臭がします。これは人の汗や尿が塩素と反応してトリクロラミンができるからです。よく塩素があるから「目にしみて痛い、髪の毛が茶色くなってバサバサになる、肌が荒れる」などと塩素を悪者にしている人がいますが、これらは全てトリクロラミンのしわざです。遊離塩素にそういう働きはありません。

最近は脱塩素シャワーといって、シャワーに塩素を取るカートリッジがついているものがあります。確かに、トリクロラミンがあってカルキ臭のある水道ではこれは有効です。しかし、トリクロラミンがない水道ではこれは意味ありません。遊離塩素による悪影響はないからです。
次は野菜のビタミンCに関する濡れ衣です。浄水器やウォーターサーバー、ボトル水を売る人は、水道水の悪口を言います。例えば塩素は野菜のビタミンCをなくすなどと、塩素がいかに悪いかを宣伝します。これがすごく迷惑で、消費者をミスリードしています。これではまるで水道水を使うとビタミンCがかなりの部分なくなってしまうかのように誤解してしまいます。
しかし、水道水の塩素はごく微量なので、ビタミンCがなくなるのもごく微量です。大半のビタミンCは残ります。これを具体的に数字でお話します。水道水0.5㍑でビタミンCが豊富なブロッコリーを100g茹でるとします。水道水の塩素濃度は0.4mg/㍑なので、0.5㍑だと塩素は0.2mg含まれます。私の実験では塩素は1分の沸騰でなくなりますが、仮にこの塩素全てがビタミンCを消費するとしてもそれはたった1mgです。一方元のブロッコリーのビタミンCは170mgもあり、大半に影響しません。

このほかに、野菜を水道水で洗うとビタミンCが減ることも宣伝に使われます。これは20年以上前の、ある大学の実験が元です。大量の水に野菜を30分つけておくとビタミンCが1~3割減るというお話です。ビタミンCは水に溶けやすいので、30分もつければ減ります。しかし、30分つけたことには触れずに「水道水で洗うと減る」と宣伝します。

水道水で白米を研いだり炊いたりすると、ビタミンB1が減るとの宣伝もあります。そもそも白米にはビタミンB1がほとんどないことは脚気で有名です。少しあっても研いで水に流れ出て、炊くとほぼゼロです(0.02mg/100g)。そこが彼らの狙いです。微量だと塩素で減る量は僅かでも、その割合%は大きく出るからです。

一口に塩素といっても、遊離塩素とトリクロラミンは全く別物です。トリクロラミンはなくしたいものです。
(c)Atsushi Masuko
「上下水道情報」2030号―2025年11月掲載 一部改

【著者プロフィール】
増子敦(ますこ・あつし)1953年生まれ。博士(工学)。元東京都水道局長、東京水道サービス株式会社代表取締役社長。現在日本オゾン協会会長、日本水道協会監事、YouTubeに「水道の話」を連載。著書に「誰もが知りたい水道の話」。