
連載「水道の話いろいろ」(18)沸騰時間とポットの継ぎ足し
水道水を沸かすとき、どのくらい沸騰させたらいいかをまずお話します。浄水器や宅配水、ボトル水を売る人は、水道水にはトリハロメタンが入っていて、沸騰させるとそれが増えて危ないかのように宣伝します。
トリハロメタンは消毒用の塩素が有機物と反応してできる物質です。生涯飲んでも健康に影響ない厳しい基準に設定されています。実際の水道水の濃度はこの基準よりもずっと低く、水道統計によると全国9300地点の9割が基準の2割以下の水準です。

さて、問題の「沸騰させると増える」という話は、45年も前に大阪市の水道水が悪かった時の試験が元になっています。その内容は、トリハロメタンは沸騰して5分で3倍に増え、10分以上沸騰させないと除去できないというものです。この大昔の話が今でもあらゆる宣伝に使われています。しかし、大阪市の水道は、とっくの昔、2000年にオゾンと活性炭を使う高度浄水に全て替わっています。
その高度浄水の水を沸騰させてトリハロメタンがどうなるか、大阪市環境科学研究所が試験を行って2005年に日本環境化学会誌に発表しました。その結果は、水道水を沸かすとトリハロメタンは逆に減少し、沸騰で半減、沸騰1分で完全になくなるという明快なものでした。

また、高度浄水でなくても昔と違って塩素は沈澱の前でなく後に入れる場合が多くトリハロメタン濃度は低水準です。その場合も先ほどの学会誌で発表していて、トリハロメタンは沸かすと少し増えますが、沸騰前に減り、沸騰2分でなくなるということです。つまり、沸騰で増えることはなく、沸騰時間を気にする必要は全くないということです。

次は、沸騰時間によるおいしさの違いです。沸騰後1分ごとのお湯を冷まして飲み比べたところ、沸騰直後は沸かす前の蛇口の水と似て爽やかです。1~2分沸騰すると少し柔らかみが出ます。

5分を過ぎると味に少し違和感が出て、10分も沸騰すると濃縮されて硬度も上がり明らかに味が落ちます。

また、紅茶で飲むなら、茶葉をジャンピングさせる溶存酸素が、沸騰30秒で激減するので、沸騰直後がお勧めです。沸騰近い温度で溶存酸素があると茶葉がジャンピングして紅茶をおいしく入れることができます。
要するに、長い沸騰は不要で、沸騰直後や沸騰1~2分がお勧めということです。

次は保温ポットの継ぎ足しについてです。以前、保温ポットの残り湯を捨てないで、沸かしたお湯を継ぎ足したとき、お湯がカルキ臭くなることに気が付きました。

そこで、実験を何回も繰り返して確かめました。実験は電気ケトルの蓋を取ってお湯を沸かし、保温ポットに、①沸騰直後のお湯を入れた場合と、②沸騰1分のお湯を入れた場合、の両方行いました。

数時間後に継ぎ足すお湯も、沸騰直後のお湯と沸騰1分のお湯です。

結果です。ポットに沸騰直後のお湯が入っている場合は、沸騰直後のお湯を継ぎ足しても、沸騰1分のお湯を継ぎ足しても、まったく臭いはせず、おいしく飲めました。

ところが、ポットに沸騰1分のお湯が入っている場合は、沸騰直後のお湯を継ぎ足したときと、沸騰1分のお湯を継ぎ足したときで、それぞれ異なるカルキのような臭いがしました。ポットのお湯を沸騰2分、沸騰5分のお湯に変えても同様でした。理由は不明ですが、これは新しい発見でした。

結論の1です。ポットに常に沸騰直後のお湯を入れていれば、継ぎ足してもおいしく飲めます。

結論の2です。残り湯を捨てて、継ぎ足しをしなければ、沸騰時間を気にする必要がなく、おいしく飲めます。

(c)Atsushi Masuko
「上下水道情報」2029号―2025年10月掲載 一部改

【著者プロフィール】
増子敦(ますこ・あつし)1953年生まれ。博士(工学)。元東京都水道局長、東京水道サービス株式会社代表取締役社長。現在日本オゾン協会会長、日本水道協会監事、YouTubeに「水道の話」を連載。著書に「誰もが知りたい水道の話」。