【連載】アメリカにおける水インフラ事情(12) 米国の再生水インフラ
水道から蛇口へ、下水処理そして再利用
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人口増加や気候変動に伴う水需給の逼迫を背景として、米国では処理水を新たな水資源として活用する水再利用(water reuse)の導入が進められてきました。特に乾燥地域の多い米国西部や南西部では、水再利用は単なる環境対策ではなく、水供給の安定化を支える重要なインフラとして位置づけられています。
しかしながら、水再利用を実現するためには、従来の下水処理施設だけでは十分ではありません。再生水の貯留や送配水を行うための専用インフラや、高度処理を担う高度再生水処理施設(Advanced Water Purification Facility: AWPF)、さらには地下水涵養池や注入井戸など、用途に応じたさまざまな設備が必要となります(図1)。

(青:既存の上下水道施設、水色:水源・受水域、紫:再利用関連施設)
そこで本稿では、米国における水再利用インフラに着目し、非飲用再利用および飲用再利用を支える代表的な施設構成について紹介したいと思います。
1.非飲用再利用
2.間接飲用再利用
3.直接飲用再利用
4.終わりに
★1.非飲用再利用
非飲用再利用(non-potable reuse)は、米国において最も広く導入されている水再利用形態です。主な用途としては、公園やゴルフ場の灌漑、工業用水、冷却水、農業用水などが挙げられます。これらの用途では、人の飲用を目的としないことから、飲用再利用と比べて必要とされる処理水質のレベルがやや低く、インフラ構成が比較的シンプルとなります。
下水処理施設において適切な三次処理および消毒が行われていれば、追加の高度処理を必要としないケースも少なくありません。ただし、工業プロセス用水やボイラー給水など、より高い水質が求められる用途では、飲用再利用と同様にAWPFを併設し、さらなる処理を行う場合もあります。
また、非飲用再利用には、処理施設に加えて専用の送配水インフラが必要となります。一般的に、再生水は下水処理施設から再生水ポンプ場を介して再生水貯水タンクへと送られ、その後、再生水配水管網(いわゆるパープルパイプ)を通じて利用者へ供給されます(写真1)。この管は上水道との誤接続を防止するために紫色に着色されており、水再利用システムを特徴づける代表的なインフラの一つとなっています。また、パイプのみならず、ポンプや圧力タンク(写真2)なども同様に紫色に塗られることがあります。再生水配水系統では、上水道と同様に遊離塩素またはクロラミンによる残留消毒が行われることが一般的です。

(テキサス州サンマーカス市、筆者撮影)

(テキサス州サンマーカス市、筆者撮影)
さらに、大規模な再生水配水管網が必要となるプロジェクトでは、貯水タンクに代えて貯留池が利用される場合もあります。特に南カリフォルニア地域では、大規模な再生水供給システムが整備されており、複数の貯留施設や送水施設を組み合わせることで、広域的な再生水利用が実現されています。
★2.間接飲用再利用
間接飲用再利用(Indirect Potable Reuse: IPR)は、高度処理された再生水を貯水池や地下帯水層などの環境バッファ(environmental buffer)を介して飲用水源へ戻し、環境水と混合されたものを従来の浄水処理を経て飲料水として利用する方式です。
IPRでは、通常の下水処理施設に加え、一般的にAWPFが必要となります。AWPFは下水処理施設に隣接して建設されることが多いですが、敷地条件や既存インフラとの関係から、離れた場所に設置される場合もあります。AWPF内では、精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)、逆浸透膜(RO)、粒状活性炭(GAC)処理、オゾン処理、紫外線促進酸化処理(UV AOP)などを組み合わせた多重バリアプロセスによって高度な水質改善が行われます(写真3)。

(カリフォルニア州ピコ・リベラ市、筆者撮影)
高度処理後の再生水は、ポンプ場および送水管を介して環境バッファへ送られます。非飲用再利用で用いられる再生水配水システムとは異なり、IPRでは送水先が限定されるため、比較的シンプルな送水インフラで構成される場合が多くなります。
IPRは大きく、表流水補給(surface water augmentation)と地下水涵養(groundwater replenishment)の二つに分類されます。表流水補給では、高度処理水を既存の貯水池や湖沼へ導入し、浄水施設を経て飲料水として利用します。この方式では、主として送水施設の整備が中心となります。
一方、地下水涵養では、高度処理水を浸透池や注入井戸を用いて地下帯水層へ導入します。沿岸地域では、干ばつや地下水の過剰採水による海水侵入が問題になることがあります。その対策として、高度処理された再生水などを地下帯水層に注入して地下水位を維持し、海水侵入を抑制する注入井戸が利用される場合もあります(図2)。また、地下水位や水質を継続的に監視するため、観測井戸が併設されることが一般的です。浸透池では堆積物の除去、注入井戸ではスクリーンの洗浄など、長期的な維持管理も重要な運転項目となります。

(Water Replenishment Districtの資料※を参考に著者作成、
※https://www.wrd.org/lvl )
★3.直接飲用再利用
直接飲用再利用(Direct Potable Reuse: DPR)は、高度処理された再生水を貯水池や地下帯水層などの環境バッファを介さずに飲用水源として利用する方式です。IPRと比較して環境中での滞留時間が大幅に短くなるため、より高度な処理設備や監視体制が求められます。そのため、DPRは飲用再利用の中でも最も高度な形態として位置づけられています。
DPRにおいても中核となる施設はAWPFですが(写真4)、IPRのように環境バッファによる滞留時間や希釈効果を活用できないため、より複雑なプロセス構成と高度な運転管理が求められます。例えばIPRではUF―RO―UV AOPといった高度処理の組み合わせで対応可能な場合が多いのに対し、DPRでは水質変動への対応性や運転安定性を向上させる目的で、オゾン―生物活性炭(BAC)処理などの追加プロセスが採用される場合があります。

(テキサス州ビッグスプリング市、筆者撮影)
また、DPRでは水質異常を早期に検知するためのオンライン監視システムが重要な役割を担います。現在のところ、病原性微生物や微量化学物質をリアルタイムで直接測定する技術には限界があるため、濁度、導電率、全有機炭素(TOC)、紫外線透過率などの水質指標を用いて、原水、各処理工程、最終水などの重要管理点(critical control points)で連続的に監視し、運転管理を行っています。さらに、水質異常時には自動的に送水を停止または迂回させる制御システムも導入されます。
DPRは施設構成により、原水生産型(raw water production)と直接配水型(direct distribution)に大別されます。原水生産型では、高度処理水を浄水施設の原水として利用するため、AWPFに加えて貯水タンクや小規模な貯留施設などの工学的バッファ(engineered buffer)が設けられます。その後、既存の浄水施設へ送水され、最終的な飲料水として供給されます。
一方、直接配水型では、高度処理水が飲料水配水システムへ直接導入されます。この方式では開放型の貯留施設を利用できないため、密閉型の貯水タンクや調整施設が重要な役割を果たします。また、既存の浄水施設を経由しないことから、処理設備および監視システムに対してさらに高い信頼性が求められます。
DPRは依然として新しい取り組みであり、適用事例は米国でもまだ限定的です。しかし近年では、複数の州において規制やガイドラインの整備が進められており、水資源確保の有力な選択肢として注目を集めています。
★4.終わりに
最後に、水再利用インフラの整備においては、単に処理技術だけでなく、送配水、貯留、監視・制御などを含めたシステム全体の設計が重要となります。非飲用再利用、IPR、DPRのいずれも処理水を有効活用するという共通の目的を有していますが、必要となるインフラ構成や運転管理の考え方は大きく異なります。そのため、地域の水需給状況や既存インフラ、規制要件などを踏まえ、それぞれの地域に適した方式を選択することが重要です。
一見すると、非飲用再利用は最も導入しやすい選択肢のように思われます。しかし、再生水専用の送配水管網や貯留施設の整備には多額の投資が必要であり、既存の上下水道インフラとの誤接続リスクなどの課題も伴います。一方で、IPRやDPRは高度処理施設や監視システムへの投資が必要となるものの、新たな水源開発が困難な地域においては有力な選択肢となり得ます。このため、米国では複数の再利用手法を組み合わせながら、水資源の有効活用を図る事例も見られます。
水再利用は単なる水不足対策にとどまらず、既存の都市水循環を再構築するためのインフラ整備とも言えます。今後も地域ごとの課題に応じた多様な取り組みが進められていくものと考えられます。
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(c) Keisuke Ikehata
「上下水道情報」2038号―2026年7月掲載 一部改
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☆ 著者プロフィール ☆
池端慶祐(いけはた・けいすけ)
1974年生まれ。奈良県出身。
博士(土木環境工学)、技術士(アリゾナ州・アルバータ州)。テキサス州立大学理工学部工学科准教授。
1997年、大学院留学のため日本を離れ、カナダ・ケベック州モントリオール市へ。その後アルバータ州エドモントン市のアルバータ大学で博士号取得。2009年にカナダからアメリカ・カリフォルニア州ファウンテンバレー市に移住。2019年7月よりテキサス州立大学でアシスタント・プロフェッサーを務め、2025年9月より現職。
国際オゾン協会パンアメリカングループ副会長、同協会理事などを務める。
趣味は水泳(幼少期より)、マラソン(大学時代より)、サーフィン(2年前より)。
