【連載】アメリカにおける水インフラ事情(11) 米国の下水処理システムと設計思想(後編)
水道から蛇口へ、下水処理そして再利用
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前回は、米国の下水処理施設における水処理系統の代表的なプロセスフローについて整理しました。一次・二次処理を中心とした標準的な処理構成に加え、三次処理や消毒、水再利用への対応など、近年の下水処理施設に求められる役割について概観しました。本稿ではその続きとして、下水処理施設における汚泥・固形物処理および資源回収について取り上げます。
下水処理施設では、水処理の過程で多量の固形物や汚泥が発生するため、その適切な処理・処分が重要になります。また近年では、従来の「廃棄物処理」という位置づけに加え、バイオガス回収やバイオソリッドの有効利用など、資源・エネルギー回収施設としての役割も注目されています。
そこで、米国の下水処理施設における代表的な汚泥処理フローや資源回収の考え方について整理するとともに、日本との共通点や相違点についても簡潔に触れたいと思います。
1.各処理工程から発生する汚泥・固形物
2.汚泥の濃縮・安定化・脱水
3.資源回収 (Resource Recovery)
4.終わりに
★1.各処理工程から発生する汚泥・固形物
下水処理施設では、水処理系統において発生する夾雑物、沈砂、各種汚泥などの固形物を適切に処理・管理する必要があります。これらは腐敗や悪臭の原因となるほか、衛生面の観点からも安定化・減容化が求められます。また、汚泥処理は施設全体の運転コストやエネルギー消費にも大きく関わる重要なプロセスであり、下水処理システムの中核的な構成要素の一つと位置づけられています。
これらの固形物・汚泥は、以下の水処理系統の各工程から発生します(図)。

前処理(Preliminary Treatment)
前処理工程では、スクリーン設備により除去された夾雑物(布片、プラスチック、木片など)(写真1)や、除砂設備(グリットチャンバー)で除去される砂分・金属片・無機物などが発生します。これらはポンプや配管設備の保護を主な目的として除去されるものであり、一般的には洗浄・脱水後に埋立地等へ搬出され、処分されます。

(テキサス州ポートイザベル市、筆者撮影)
一次処理(Primary Treatment)
一次沈殿池では、沈降性の高い有機物を中心とした一次汚泥(primary sludge)が発生します。一次汚泥は有機物濃度が比較的高く、嫌気性消化によるバイオガス回収との相性が良いという特徴があります。一方、近年では施設のコンパクト化やプロセス簡略化の観点から、一次沈殿池を設置しない構成も一部で採用されています。
二次処理(Secondary Treatment)
二次処理工程は、基本的に活性汚泥法などの生物処理プロセスと二次沈殿池で構成されており、微生物群から構成される汚泥が二次汚泥として発生します。活性汚泥法では、沈殿池から曝気槽へ返送される返送汚泥(return activated sludge: RAS)によって微生物濃度が維持されており、その一部が余剰汚泥(waste activated sludge: WAS)として引き抜かれます。余剰汚泥は概して含水率が高く、脱水性にも課題があるため、濃縮や安定化処理が重要となります。
三次処理(Tertiary Treatment)
三次処理工程では、ろ過設備の逆洗排水に由来する固形物が発生する場合があります。これらは一般的に水処理系統の前段へ返送されますが、施設構成によっては沈殿設備や汚泥処理系統へ導入される場合もあります。
★2.汚泥の濃縮・安定化・脱水
下水処理施設から発生する一次汚泥や余剰汚泥は、そのままでは含水率が非常に高く、腐敗や悪臭の原因となるため、通常は濃縮・安定化・脱水などの処理が行われます。これらの処理は、汚泥量の削減、輸送・処分性の向上、衛生性の改善などを目的として実施されます。
まず濃縮工程では、重力濃縮槽や加圧浮上濃縮(dissolved air flotation: DAF)などを用いて汚泥中の水分を低減し、数%程度まで固形分濃度を高めることで、後段処理の効率向上が図られます。特に余剰汚泥は沈降性や脱水性に課題を有する場合があり、ポリマー添加と機械濃縮が採用されるケースもあります。
続く安定化工程では、汚泥中の有機物分解や病原性微生物の低減を目的として、嫌気性消化や好気性消化が用いられます。このうち嫌気性消化は、バイオガス回収によるエネルギー利用が可能であることから、大規模施設を中心に広く採用されています(写真2)。一方で、中小規模施設では運転管理の簡便性から好気性消化が用いられる場合もあります。

最後に脱水工程では、ベルトフィルタープレス、スクリュープレス、遠心脱水機などを用いて含水率をさらに低減し、搬出・処分や有効利用に適した状態(脱水ケーキ)へと処理されます(写真3)。機械脱水後の固形分濃度は15〜30%程度であり、施設規模や汚泥性状に応じて複数の脱水方式が使い分けられています。

★3.資源回収(Resource Recovery)
近年の下水処理施設では、汚泥や副生成物を単なる廃棄物として処理するのではなく、エネルギーや資源として回収・利用する「資源回収施設(resource recovery facility)」としての役割が強く認識されるようになっています。特に嫌気性消化によるバイオガス回収や、バイオソリッドの有効利用は、その代表的な取り組みです。
嫌気性消化とエネルギー回収
下水汚泥の資源回収において中心的な役割を担うのが嫌気性消化プロセスです。嫌気性条件下で有機物を分解することにより、メタンを主成分とする「バイオガス」が生成され、汚泥の安定化と減容化が同時に達成されます。また、レストラン等で発生する食品由来の有機性廃棄物を添加し、メタンガス生成量の向上を図る共消化(co-digestion)も一部の施設で導入されています。
生成されたバイオガスは、多くの場合、下水処理施設内でのエネルギー利用に供されます。最も一般的な形態は、ガスエンジンやガスタービンを用いた熱電併給(combined heat and power: CHP)であり、発電に加えて消化槽の加温など施設内の熱源としても活用されます。一方で、余剰ガスや利用条件を満たさない場合にはフレアによる燃焼処理が行われ、安全性および環境面での管理が図られます。
近年では、バイオガス中の不純物除去やメタン濃度の調整を行い、都市ガス代替として利用可能なバイオメタンへと精製するアップグレーディング技術も導入されつつあります(写真4)。これにより、施設内利用にとどまらず、外部エネルギー網への供給を通じたエネルギー回収の高度化が進められています。

(カリフォルニア州ヴィクターヴィル市、筆者撮影)
さらに、一部の大規模下水処理施設では、嫌気性消化によるバイオガス発電に加え、太陽光発電などの再生可能エネルギーを組み合わせることで、施設全体としてのエネルギー自立化を達成する取り組みも見られます。このような動きは、下水処理施設を単なる処理施設から、エネルギー生産拠点として再定義する流れの一環といえます。
バイオソリッドの利用
汚泥処理によって得られる脱水ケーキは、従来「下水汚泥」として廃棄物的な位置づけで扱われてきました。一方で米国では、適切な安定化・処理が行われた汚泥については「バイオソリッド(biosolids)」という名称が用いられることがあります。この用語は単なる言い換えではなく、汚泥を「処分対象の廃棄物」としてではなく、「管理された有機資源」として位置づけ直すという考え方を反映しています。特に嫌気性消化や高度な安定化処理が施されたものについては、堆肥化(コンポスト化)などを経て、農地への利用や一般への配布が行われるなど、有効利用が進められており、資源循環の一部として扱われています。
ただし、すべての汚泥が無条件にバイオソリッドとして利用されるわけではなく、米国環境保護庁(US EPA)が定める40 CFR Part 503(Biosolids Rule)の基準を満たす必要があります。この規則では、病原性微生物の低減、重金属濃度、およびベクター(ハエやげっ歯類等)による病原体伝播リスクの低減(Vector Attraction Reduction)の観点から利用基準が定められています。
バイオソリッドは病原性微生物の低減レベルに応じてClass AおよびClass Bに分類されます。Class Aでは、糞便性大腸菌群数が乾燥重量当たり1,000MPN/g未満、あるいはサルモネラ菌が乾燥重量4g当たり3MPN未満であることなどが求められます。これに対しClass Bでは、要求される病原体数の低減レベルはClass Aと比べて緩いものの、利用においてはより厳格な管理条件が適用されます。
Class Aバイオソリッドを製造する方法としては、コンポスト化のほか、熱乾燥、加熱処理、熱好気性消化、アルカリ安定化などが用いられています。このため、コンポスト化バイオソリッドはClass Aバイオソリッドの代表的な形態の一つだと言えますが、Class Aバイオソリッドのすべてがコンポストというわけではありません。
近年では、重金属に加え有機フッ素化合物(PFAS)などの新たな微量汚染物質に対する関心も高まっており、規制や管理手法の検討が進められています。
★4.終わりに
最後に、米国と日本の下水汚泥処理および資源回収の位置づけについて簡単に触れておきます。嫌気性消化によるバイオガス回収や汚泥の脱水・安定化といった基本的なプロセス構成は、両国で大きな違いはありません。また、再生可能エネルギーの活用やエネルギー回収の重要性についても共通して認識されています。
特徴を挙げるとすれば、米国では処理汚泥を「バイオソリッド」として明確に資源として位置づけ、農地利用や一般配布などを含めた有効利用が制度的に整理されている点です。実際には、汚泥の40〜50%程度が農地利用や土地改良等の有効利用に供されており、鉱山跡地や造成地の緑化などの用途にも利用されています。また、埋め立て処分が20~30%、焼却処理が15〜25%程度を占めており、複数の処理ルートが併存しています。
一方、日本では汚泥の大部分が焼却処理され、その後の焼却灰が建設資材等へ利用されるケースが中心となるなど、資源回収と再利用の形態に違いが見られます。このように、米国と日本では汚泥処理および資源回収のアプローチに違いは見られるものの、水・エネルギー・栄養塩を含む資源の回収を通じて環境負荷を低減し、下水処理システムの循環型への転換を進めていく方向性は、共通していると言えます。
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(c) Keisuke Ikehata
「上下水道情報」2037号―2026年6月掲載 一部改
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☆ 著者プロフィール ☆
池端慶祐(いけはた・けいすけ)
1974年生まれ。奈良県出身。
博士(土木環境工学)、技術士(アリゾナ州・アルバータ州)。テキサス州立大学理工学部工学科准教授。
1997年、大学院留学のため日本を離れ、カナダ・ケベック州モントリオール市へ。その後アルバータ州エドモントン市のアルバータ大学で博士号取得。2009年にカナダからアメリカ・カリフォルニア州ファウンテンバレー市に移住。2019年7月よりテキサス州立大学でアシスタント・プロフェッサーを務め、2025年9月より現職。
国際オゾン協会パンアメリカングループ副会長、同協会理事などを務める。
趣味は水泳(幼少期より)、マラソン(大学時代より)、サーフィン(2年前より)。
