【連載】アメリカにおける水インフラ事情(10) 米国の下水処理システムと設計思想(前編)
水道から蛇口へ、下水処理そして再利用
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本連載ではこれまで、米国における水インフラ事業の立ち上げ、計画、実施プロセスや、それを支える資金調達の仕組みについて紹介してきました。また前回は、浄水処理施設に焦点を当て、米国の代表的な処理フローの概要と日本との違いについて整理しました。本稿ではその続きとして、下水処理施設(wastewater treatment plants: WWTPs)を取り上げます。
下水処理は都市の水環境を支える基盤インフラであり、放流水質の確保に加え、水再利用や環境保全の観点からも重要な役割を担っています。米国の多くの施設では、一次・二次処理と消毒を基本とした標準的な構成に、砂ろ過やクロスメディアろ過(ろ布ろ過)などの三次処理が組み合わされており、近年は膜分離活性汚泥法(MBR)の導入も進んでいます。
本稿および次回の記事では、米国の下水処理施設における典型的なプロセスフローを整理し、日本の施設との共通点や相違点について簡潔に触れます。今回は水処理系統のフローを中心に整理し、次回は汚泥処理およびバイオソリッドや資源回収について扱う予定です。
1.米国の代表的な処理フロー
2.各処理プロセスの構成
3.終わりに
★1.米国の代表的な処理フロー
米国の下水処理施設における標準的な処理フローは、一般に「前処理」「一次処理」「二次処理」「三次処理」および「消毒」から構成されます。これらは段階的に懸濁物質や有機物、栄養塩などを除去し、最終的に放流水質基準を満たすことを目的としています。
また、処理の安定性を確保するため、均等化槽(調整槽)が設けられる場合もあります。これは日内変動による流入水質・水量の変動や、雨天時の流入・浸入水による負荷変動を緩和し、後段の処理プロセスを安定的に運転するための緩衝設備として機能します。特に流入変動が大きい施設においては、その有効性が高まります。
近年の施設設計では、敷地条件の制約や処理効率の向上を背景に、一次沈殿池を省略し、二次処理に統合する構成も増えています。このような設計は、設置面積の縮小だけでなく、運転の柔軟性や全体としての処理性能の最適化にも寄与しています。
★2.各処理プロセスの構成
前処理(Preliminary Treatment)
前処理は、下水処理プロセスの最初の段階として、後段の処理施設を保護し、全体の安定運転を確保する役割を担います。主な目的は、大きな固形物や無機性の砂分などを除去し、機械設備への負荷や摩耗を低減することです。
代表的な構成としては、スクリーン設備(格子スクリーンなど、写真1)とグリットチャンバー(沈砂池)が挙げられます。スクリーンでは布片、プラスチック、木片などの比較的大きな異物を除去し、沈砂池では比重の大きい砂や無機粒子を沈降分離します。

米国の下水処理施設においては、これらの前処理設備はほぼすべての施設に設置されており、基本構成は比較的標準化されています。一方で、近年はスクリーンの高度化や自動化の進展により、除去効率やメンテナンス性の向上が図られています。前処理は処理フローの中では最もシンプルな工程ですが、後段の一次・二次処理の安定性や設備寿命に直接影響する重要なプロセスです。
一次処理(Primary Treatment)
一次処理は、重力沈降を利用して浮遊物質および一部の有機物を除去する工程であり、下水処理フローにおける基本的な単位操作の一つです。一般的には一次沈殿池により構成されます。
一次沈殿池では、流入水中の比較的沈降しやすい固形物が除去されるとともに、後段の生物処理プロセスに流入する有機負荷を低減する役割を担います。これにより曝気槽における酸素要求量の低減にも寄与します。一方で、近年の高度窒素除去プロセスでは、炭素源の確保という観点から、一次処理の除去効率が運転に影響を与える場合もあります。
また、一次沈殿池は流量および水質の変動を緩和する緩衝機能も有しており、結果として後段プロセスの安定運転に寄与します。さらに、一次処理により発生する一次汚泥は有機物含有量が高く、汚泥の嫌気性消化によるエネルギー回収の観点からも重要な位置づけにあります。
米国の下水処理施設においては、一次沈殿池は依然として広く採用されています。ただし前述の通り、近年では施設のコンパクト化やプロセス統合の観点から、この過程を省略し、二次処理に直接導入する構成も一部で見られます。
二次処理(Secondary Treatment)
米国の下水処理施設における処理フローは多様ですが、その中核となる二次処理プロセスにはいくつかの代表的な方式が存在します。最も広く採用されているのは活性汚泥法を基本としたプロセスであり、嫌気・無酸素・好気条件を組み合わせたA/O法やA2O法に加え、Bardenphoプロセスのように多段構成により高度な窒素除去を図る方式や、長時間曝気法、純酸素を用いた方式など、施設規模や要求水質に応じてさまざまなバリエーションが存在します。
比較的小規模な施設では、回分式活性汚泥法(SBR法)や曝気式ラグーン法などのプロセスが採用される場合もあります。固定床式や接触曝気法、生物膜法も一部で用いられていますが、近年は運転管理の容易さや処理効率の観点から、活性汚泥法系のプロセスが主流となっています。
また、エネルギー効率や窒素除去性能の向上を目的として、嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)や好気性グラニュール汚泥といった新たなプロセス技術の研究・導入も進められていますが、現時点では適用範囲は限定的であり、従来型プロセスを補完する形での位置づけとなっています。
三次処理(Tertiary Treatment)
三次処理は、放流水質基準の高度化や水再利用ニーズの高まりに伴い、その重要性が増している工程です。特にリンに対する規制強化や再生水利用の拡大により、従来以上に安定した固液分離性能と高い処理水質が求められるようになっています。
従来は、砂ろ過や無煙炭ろ過、あるいはこれらを組み合わせたデュアルメディアろ過が一般的に採用されてきました。これらは比較的シンプルで信頼性の高い方式として広く利用されています。近年はより高いろ過性能と省スペース化を目的として、クロスメディアフィルター(ろ布ろ過装置、写真2)やディスクフィルターなどの採用が増加しています。また、再生水の水質要求が厳しい用途では、MBRが選択されるケースも増えており、微細懸濁物質の除去性能という点で優れた処理水質を実現しています。

(テキサス州ウィチタフォールズ市、筆者撮影)
さらに、窒素除去の高度化を目的として、ろ過と脱窒を組み合わせた脱窒ろ過(写真3)が導入される場合もありますが、炭素源としてメタノールなどが必要となり、その適用は特定の要件に応じたもののみとなっています。

消毒(Disinfection)
消毒は、三次処理を経て得られた処理水中の病原微生物を不活化し、放流水質基準を満たすための最終工程です。米国の下水処理施設では、主に塩素消毒が広く用いられています。特に二次処理で十分な硝化が進んでいない場合は、クロラミンによる消毒が選択されることがあります。
一方で、近年は消毒副生成物の抑制や運転の簡素化といった観点から、紫外線(UV)消毒(写真4)の採用が増加しています。UV消毒は薬品添加や残留塩素管理が不要であるため、後段処理を含めた運転の簡略化にも寄与します。ちなみにオゾン消毒は一時期導入が進んだものの、現在では適用例は限定的となっています。

再曝気と放流・再利用(Reaeration & Discharge, Water Reuse)
消毒後には溶存酸素(DO)を確保するための再曝気が行われる場合もあり、受水域への影響の低減が図られます。また、塩素系消毒を採用する場合には、放流前に残留塩素を除去するため、二酸化硫黄、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどを用いた脱塩素処理が必要となります。
さらに、近年では消毒工程は単なる放流水質確保にとどまらず、水再利用プロセスの一部としても重要性が高まっています。非飲用再利用では人が再生水に接触する可能性があることから、放流よりも厳しい消毒基準が適用される場合や、配水管網での残留塩素の維持が求められることがあります。加えて、間接的あるいは直接的な飲用再利用においては、マルチバリアの考え方に基づく高度な微生物制御と消毒が不可欠となります。
★3.終わりに
本稿では、米国の下水処理施設における水処理系の典型的なプロセスフローについて整理しました。一次・二次処理を中心とした標準的な構成に加え、三次処理や消毒の高度化、さらには水再利用への対応などが近年の特徴として挙げられます。
これらの基本的な処理フローは日本の下水処理施設とも多くの共通点を有していますが、規制の考え方や再利用の位置づけ、設計・運用上の重点にはいくつかの違いも見られます。次回はこうした点にあらためて触れるとともに、今回取り上げなかった汚泥処理およびバイオソリッドの管理に焦点を当てます。一次・二次汚泥やろ過逆洗水由来の固形物の処理、堆肥化などの有効利用、臭気対策、さらにはバイオガス回収といった資源化の取り組みについても整理する予定です。
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(c) Keisuke Ikehata
「上下水道情報」2036号―2026年5月掲載 一部改
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☆ 著者プロフィール ☆
池端慶祐(いけはた・けいすけ)
1974年生まれ。奈良県出身。
博士(土木環境工学)、技術士(アリゾナ州・アルバータ州)。テキサス州立大学理工学部工学科准教授。
1997年、大学院留学のため日本を離れ、カナダ・ケベック州モントリオール市へ。その後アルバータ州エドモントン市のアルバータ大学で博士号取得。2009年にカナダからアメリカ・カリフォルニア州ファウンテンバレー市に移住。2019年7月よりテキサス州立大学でアシスタント・プロフェッサーを務め、2025年9月より現職。
国際オゾン協会パンアメリカングループ副会長、同協会理事などを務める。
趣味は水泳(幼少期より)、マラソン(大学時代より)、サーフィン(2年前より)。
