【連載】アメリカにおける水インフラ事情(7) 水インフラ事業はこうして生まれる(後編)
水道から蛇口へ、下水処理そして再利用
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前回のコラムでは、事業の立ち上げから資金計画までの流れを整理し、米国の水インフラプロジェクトにおけるコンサルティングエンジニアの役割などを紹介しました。後編では、その続きとして、詳細設計から施工、運転開始に至る流れ(図1)を段階ごとに整理するとともに、プロジェクトの進め方に大きく影響する契約・デリバリ方式についても触れ、実際の建設・運用がどのように進むのかを解説します。
1.詳細設計と許認可(Final Design & Permitting)
2.入札・契約(Procurement)
3.建設(Construction)
4.試運転、運転・維持管理(Commissioning, Operations & Maintenance)
5.プロジェクト・デリバリ方式(Project Delivery Methods)
6.まとめ
★1.詳細設計と許認可(Final Design & Permitting)
資金計画が整い、プロジェクトが実行段階に入ると、詳細設計と各種許認可が並行して進められることが一般的です。詳細設計では、基本計画や予備設計で定められた処理フローや施設構成をもとに、実際の建設に必要な図面や仕様書が作成されます。具体的には、各単位プロセスの設計条件、機器仕様、配管・計装図(P&ID)、構造設計、施工条件などが詳細に検討され、入札や建設に耐えうる設計成果物へと落とし込まれていきます。また、期待される水質基準や放流規制、環境影響に関する要件は州や連邦レベルで定められており、設計内容がこれらの規制を満たしていることを文書として示す必要があります。
米国の水インフラプロジェクトでは、この詳細設計と許認可手続きの段階においても、コンサルティングエンジニアが中心的な役割を担います。プロジェクトの規模や技術的な難易度に応じて、必ずしも一社のみが設計を完結させるとは限らず、複数のエンジニアリング会社が関与するケースも少なくありません。特に高度処理施設や飲用再利用、淡水化施設などの先進的なプロジェクトでは、膜分離やオゾン処理など特定技術に精通した専門コンサルタントが、部分的に設計を担当することもあります。
許認可手続きでは、設計内容を踏まえた技術資料の作成や、規制当局との事前協議、コメント対応などが行われますが、これらも多くの場合、コンサルティングエンジニアが事業体を代表して担います。設計と許認可は相互に影響し合うため、両者を一体として進めることが、プロジェクトを円滑に進める上で重要になります。
詳細設計は、後続する入札・施工段階の成否を大きく左右する重要なフェーズです。この段階での設計判断や調整は、建設時の設計変更リスクやコスト増を抑える上で大きな意味を持つため、時間と労力をかけて慎重に進められることが一般的です。また、許認可の進捗はプロジェクト全体のスケジュールに直接影響するため、詳細設計の初期段階から規制要件を強く意識した設計が行われます。そのため、この段階では、事業体、設計者、機器ベンダーなど関係者間の情報共有や調整が、プロジェクト全体の品質やスケジュールを左右する重要な要素となります。
★2.入札・契約(Procurement)
米国の水インフラ事業では、入札・契約段階において一定の事前審査が行われることが一般的です。建設業者や主要機器ベンダーは、過去の実績や技術力、財務状況などをもとに、発注者である事業体、あるいはその代理となるエンジニアから参加資格の確認を求められる場合があります。案件によっては、こうした審査を通過した事業者のみが入札に参加できる仕組みが採用されます。この事前審査の条件や評価項目は、事業体の方針やプロジェクト特性に応じて設定され、コンサルティングエンジニアがその設計や運用を支援するケースも多く見られます。
技術や機器を導入する際には、米国市場では価格だけでなく、これまでの適用実績や現地でのサポート体制が重視される点が特徴的です。そのため、現地の建設業者やエンジニアリング会社との協業や、事前審査への対応を通じて、プロジェクト関係者にその技術や機器が認知されることが、入札以前の重要なステップとなる場合があります。こうしたプロセスは、プロジェクト全体のリスク低減と品質確保を目的としたものと位置付けられています。
飲料水用途や飲用再利用に関連する機器・技術については、JIS規格に類似するNSF Internationalによる認証への適合や、州規制当局による承認が求められる場合があります。これらの承認プロセスでは、第三者機関による性能試験や評価報告書の提出が必要となることも多く、設計段階や入札以前からの準備が求められる点が特徴です。一方、下水・雨水分野では、飲料水用途ほど統一された認証制度は存在せず、性能実績や第三者評価、州・自治体ごとの基準への適合が重視される傾向があります。そのため、技術そのものの優劣に加え、どの地域でどのような実績や評価を有しているかが、採用判断に大きく影響します。
★3.建設(Construction)
建設段階では、コントラクター(請負業者)が中心となり、詳細設計でまとめられた図面・仕様書に基づいて、施設の建設や機器の据付が進められます。土木・建築工事に加え、機械・電気・計装設備の設置が段階的に行われ、複数の専門業者が関与することが一般的です。
この段階においても、コンサルティングエンジニアは重要な役割を担います。エンジニアは発注者である事業体の代理として、設計内容が適切に反映されているかを確認し、施工状況のレビューや品質管理、設計変更への対応などを行います。一方、事業体は全体の進捗やコスト、リスク管理を監督する立場にあり、エンジニアやコントラクターとの定期的な協議を通じて、プロジェクト全体の方向性を管理します。また、主要機器やプロセスを提供するベンダーは、機器製作や現地据付、試運転準備などを通じて建設段階に関与します。特に高度処理施設や特殊なプロセスを含む場合には、ベンダーの技術支援が施工品質や後続の運転開始に大きく影響します。米国の水インフラプロジェクトでは、こうした複数の関係者が明確な役割分担のもとで連携し、設計意図を維持しながら建設を進めることが重視されています。
★4.試運転、運転・維持管理(Commissioning, Operations & Maintenance)
建設工事が完了すると、施設は試運転および運転開始の段階に移行します(写真1)。

この段階では、各設備や単位プロセスが設計どおりに機能しているかを確認し、実際の運転条件下での性能や安全性を検証します。個別機器の単体試験に加え、システム全体としての連続運転試験が行われることが一般的です。試運転には、事業体、コンサルティングエンジニア、施工者、主要ベンダーが関与します。エンジニアは設計意図との整合性を確認し、性能確認や調整を支援します。一方、ベンダーは機器の調整や操作指導を行い、事業体の運転担当者は将来の本格運転を見据えた運転習熟を進めます。飲料水用途の施設では、試運転段階で得られた水質データをもとに、州規制当局と協議を行い、規制要件への適合が確認された後に正式な供給開始が認められるのが一般的です。特に高度処理施設では、試運転期間が比較的長く設定されることもあり、この段階が円滑な運転開始の成否を左右します。
試運転を経て施設が正式に引き渡されると、プロジェクトは運転・維持管理(O&M)の段階に入ります。多くの場合、日常運転や保守管理は事業体が担いますが、米国では施設の規模や契約形態によって、民間事業者がO&Mを受託するケースも見られます。運転開始後も、一定期間はエンジニアやベンダーが技術的サポートを行い、運転条件の最適化やトラブル対応を支援することが一般的です。こうした初期運転支援を通じて、施設は徐々に安定運転へと移行していきます。運転・維持管理は、建設で完結するものではなく、長期にわたって施設価値を維持するための重要なフェーズとして位置付けられています。
★5.プロジェクト・デリバリ方式(Project Delivery Methods)
米国の水インフラ事業では、プロジェクトの規模、複雑性、スケジュール制約、ならびにリスク分担の考え方に応じて、多様なプロジェクト・デリバリ方式が採用されます。代表的な方式としては、従来型の設計・入札・施工を段階的に進めるDBB(Design-Bid-Build)や、設計と施工を一体化したDB(Design-Build)が挙げられます。これに加えて、CMAR(Construction Manager at Risk)は、設計段階から施工者が関与し、コストや施工性を早期に検討できる点が特徴です。さらに、DOB(Design-Build-Operate)やDBOF(Design-Build-Operate-Finance)は、民間事業者が設計・施工に加えて運転、さらに資金調達まで担う方式であり、米国では公民連携(PPP)の一形態として位置付けられることが多く、長期的な性能保証やリスク移転を目的として採用されます。
これらの方式では、コンサルティングエンジニア、建設会社、技術ベンダーなどが単独または共同企業体(Joint Venture)を形成して参画することがより一般的です。特に先進的な処理技術を含むプロジェクトでは、技術ベンダーが設計や性能保証に深く関与する場合も多く、デリバリ方式の選択は関係者間の役割分担や責任範囲を明確にする上で重要です。
★6.まとめ
本稿では、前回に引き続き、米国の水インフラ事業がどのような流れで進むのかを、入札・建設・運転開始の主要ステップを概観しました。各フェーズでは、技術的判断だけでなく、規制対応、利害関係者との調整、リスク分担などが深く関わっており、事業が形になるまでには多くの関係者の協働が必要です。
読者の皆さんには、どのステップが特に関心のある分野でしょうか。今後は、プロジェクト・デリバリ方式、コンサルティングエンジニアの役割、公共の意見形成、PPP、パイロット試験、設計・建設の実務などをより詳しく掘り下げていきたいと考えています。
(再掲載)水インフラプロジェクトの各段階と主要関与団体
| プロジェクト段階 | 主な内容 | 主な関与団体 |
| 課題認識 | 課題整理、需要・リスクの把握 | 事業体、規制当局 |
| 代替案評価・予備設計 | 技術比較、ベンチスケール・パイロット試験、予備設計 | 事業体、コンサルティングエンジニア、ベンダー、技術提供会社、規制当局 |
| マスタープランと市民参加 | 計画整理、合意形成 | 事業体、自治体、州議会、市民、コンサルティングエンジニア |
| 初期資金計画と資本整備計画(CIP) | 資金計画、承認 | 事業体、自治体、州議会、資金提供機関、コンサルティングエンジニア |
| 詳細設計 | 詳細設計、仕様決定 | 事業体、コンサルティングエンジニア、技術提供会社、ベンダー、規制当局 |
| 入札・発注 | 入札、業者選定、発注 | 事業体、施工業者、技術提供会社、ベンダー、コンサルティングエンジニア |
| 建設 | 建設、施工管理 | 施工業者、事業体、ベンダー、技術提供会社、コンサルティングエンジニア |
| 試運転、運転・維持管理 | 試運転、運転開始、運転・維持管理 | 事業体、施工業者、技術提供会社、ベンダー、規制当局 |
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(c) Keisuke Ikehata
「上下水道情報」2033号―2026年2月掲載 一部改
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☆ 著者プロフィール ☆
池端慶祐(いけはた・けいすけ)
1974年生まれ。奈良県出身。
博士(土木環境工学)、技術士(アリゾナ州・アルバータ州)。テキサス州立大学理工学部工学科准教授。
1997年、大学院留学のため日本を離れ、カナダ・ケベック州モントリオール市へ。その後アルバータ州エドモントン市のアルバータ大学で博士号取得。2009年にカナダからアメリカ・カリフォルニア州ファウンテンバレー市に移住。2019年7月よりテキサス州立大学でアシスタント・プロフェッサーを務め、2025年9月より現職。
国際オゾン協会パンアメリカングループ副会長、同協会理事などを務める。
趣味は水泳(幼少期より)、マラソン(大学時代より)、サーフィン(2年前より)。

