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【対談シリーズ】本多了×谷戸善彦

連載・下水道の散歩道(第68回)

 対談シリーズ第5回にあたる第68回は、金沢大学本多了教授をお訪ねし、お忙しい中、1時間を超えて、対談をさせていただきました。

 本多了教授は、水環境工学系教授として、膜分離活性汚泥法(MBR)、薬剤耐性菌等の研究に、先導的に取り組んでおられます(浸漬型MBRの発明者山本和夫東京大学名誉教授の愛弟子です)。上下水道工学の講義を通じて、未来を担う学生の教育にも積極的に取り組まれています。また、一昨年5月12日に発足した「一般社団法人日本下水サーベイランス協会」の理事と、併せて、昨年8月25日に発足した「全国下水サーベイランス推進協議会」の理事を務められており、下水サーベイランスの社会実装に向けての諸活動を石川県小松市等において、展開されています。お話をすると、話題が豊富で、新たな発想を次々と出されるクリエイティブな方です。今後の上下水道・環境工学の世界で日本のリーダーを担われる方だと思います。金沢大学の新進気鋭の教授として、今後の益々の活躍が期待されます。

 今回は、水環境工学系へ進まれた経緯をお伺いした後、上下水道インフラ行政の一体化への期待、次世代下水道インフラへ向けての技術革新テーマ、能登半島地震を受けての今後の対応、官民連携の今後、下水サーベイランスの社会実装に向けて、学生さんにとって魅力ある上下水道業界にするために何が必要か等について、幅広く、忌憚のないご意見を聞かせていただきました。【谷戸善彦】

本多 了
(金沢大学 地球社会基盤学系教授 大阪大学 感染症総合教育研究拠点連携研究員 (一社)日本下水サーベイランス協会理事 全国下水サーベイランス推進協議会理事)
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谷戸 善彦
(㈱NJS エグゼクティブ・アドバイザー(常任特別顧問) (一社)日本下水サーベイランス協会副会長 (公財)河川財団評議員 (一社)日本非開削技術協会理事)

滋賀県では小学生の頃から環境問題が身近に

谷戸 本多さんが水環境工学系へ進路を選ばれたきっかけ・経緯を教えてください。小学生時代を滋賀県で過ごされたことと関係があるでしょうか。

本多 小学生当時、滋賀県では無リン洗剤しか売っていない、そういう時代でした。確かに、滋賀県で育ったことは関係しているかもしれません。

谷戸 滋賀県は琵琶湖の富栄養化対策等水環境問題に、全国の先頭に立って取り組んでいます。滋賀県庁には、琵琶湖環境部という組織もあります。

本多 小学校の頃、琵琶湖に赤潮が発生したことを新聞で見かけたりしていたので、水や環境にはある程度関心があったと思います。

谷戸 滋賀県の小学生は、全員、泊りがけで県の所有の船に乗って、琵琶湖を回って琵琶湖や水問題を勉強する「フローティングスクール」に参加することになっていると聞いたことがあります。

本多 「フローティングスクール」はとても楽しかったことを覚えています。滋賀県の小学5年生は全員参加で、2、3校ごとに県教育委員会の所有する学習船「うみのこ」に一緒に乗って、琵琶湖を回って船上で1泊しました。正直、勉強の部分はあまり覚えていないのですが、日頃できない水環境に関する体験学習をしたのだと思います。それ以外でも、滋賀県は、県民みんなが水問題を考える環境にあったと思います。今になってこうしたことを感じますが、小中学校の頃は、そうした環境にいるとはあまり意識していませんでした。
 大学生になって、水環境工学系に進むきっかけは、進学振り分け(専門学科を決める)時に東京大学駒場校舎で先生方による各学科・コースの説明会があって、そこで環境工学もいいかなと思いました。味埜(みの)先生が都市工学科から説明に来ていらして、リン蓄積細菌の話をされていて、無リン洗剤などを知っていたので、微生物の力を上手く引き出すことによって、リン除去を解決するのはすごいなと思いました。味埜先生の話を聞いて、感化されて水環境の道へ進んだ感じですね。

谷戸 お話を聞いていると小学生時代に滋賀県に住み、無リン洗剤や富栄養化・水環境の話に触れておられたことは影響があったかもしれませんね。

本多 そうですね、子供の頃にそういった水に関する情報が自然に入ってきていたというか、刷り込まれたというか。その影響はあったと思います。

東大・山本和夫先生のもとMBRや薬剤耐性菌等を研究
MBRは処理場のエネルギー収支をプラスにできる

谷戸 都市工学科を選ばれて、その後、学部、修士課程、博士課程と進まれる中で、山本和夫先生(東京大学名誉教授)のもとで、光合成微生物、MBR、薬剤耐性菌の研究を続けてこられました。

本多 子供の頃から研究者になりたいと思っていました。水環境に興味を持っていて、味埜先生の話も聞き、自分が研究して琵琶湖の富栄養化の問題を解決できたらいいなと思いました。しかし、授業を聞いていると、底泥にリンが溜まるので富栄養化問題の解決は結構難しい、大変だと分かってきました。その中で、光合成微生物の研究、その後、MBR、薬剤耐性菌の研究に従事しました。

谷戸 いずれも、先端的なテーマですね。私も山本和夫先生とは親しくさせていただいています。最近では、河川財団の評議員でご一緒しています。MBRと言えば、山本先生ですが、本多さんは、現時点で、日本におけるMBRの評価、将来への期待をどのように考えておられますか。

本多 MBRは水質が良く、安定していますね。スケールメリットがないという点はありますが、高いレベルの処理水質が求められる時には積極的に膜を使った方が良いと思います。現在の標準活性汚泥法は水をそこそこきれいにして川・海に戻していますが、たいしてきれいになってないよねという感覚を持っています。標準活性汚泥法は経済的に効率が良く、良い意味で熟した技術で信頼度も高い技術ですが、100年間、大きな変革がありません。やっぱり今後ブレークスルーを図っていくという意味では膜を使ったプロセスも肝になってくると思います。また、単純に処理だけではなく、エネルギー回収とか資源回収、水資源の再利用を考える時に、MBR法の方が一日の長があると思っています。藻類の発酵プロセスでは処理水の窒素、リンを使ってCO2を固定し、藻類を培養してメタン発酵します。全部利用できると従来の3倍ぐらいのガス回収が可能になります。単純に言うと出てくるバイオマス、汚泥の量が3倍になります。そうすると、全体的に下水処理場のエネルギー収支がプラスになるんです。UCLAの先生とそのプロジェクトを共同研究で続けています。後段にそういったいろいろな資源開発プロセスを組み込む時に膜を使った方が濁質もとれます。MBRはこうした良い面があると思います。

谷戸 今後の処理水質のあり方と言いますか、ほどほどのところで放流して良いのか、もっときれいな状態で、使う前の状態にまで処理して放流するべきではないか。以前から本多さんとも話していますが、大腸菌など結構、基準遵守が厳しい状態になってきている今日、コスト面はもちろんクリアしなければなりませんが、特に上水道水源の上流での下水処理場の放流水質は、もっと厳しく、もっと高い要求水準で良いのではないかと思います。標準活性汚泥法は、悪い処理法ではありませんが、水質のあり方についての議論がされる時がきているのではないかと思います。下水処理施設と上水道水源の地理的関係についても、最近議論に出ますが、上下水道行政が国土交通省に一元化されましたので、水質に対する考え方、MBRの認識も変わるのではないかと思っています。

本多 そうですね。人口減少により、小規模分散とか自動化にシフトしていくという中でMBRにメリットがあるのではないかなと思います。

上下水道インフラ行政の一体化について

谷戸 今年4月から上水道行政と下水道行政を一体化して国土交通省が所管していくことになりました。これについて今後への期待、率直なご感想・ご意見をお聞かせください。

本多 これまで下水の研究に携わり、下水の再利用などのプロジェクトを通して思うところは、取水し使用してから自然に戻すまでの過程を一連の水利用サービスとして捉えた方が良いということですね。上水道は独立採算制が可能な一方で、下水道は独立採算制が難しい中、一連の水利用サービスとして一体的に料金体系を構築した方が良いと思います。

谷戸 上下水道の会計を一つとし、全体で採算を取るということですね。上水道と下水道の料金体系は別ですが、負担論を再構築できれば、一緒に料金を徴収しているので、案外難しいことではないかもしれません。

本多 10年ほど前に調べたことがありますが、一世帯当たりの料金が万単位の市町村もありました。上下水道会計の一体化で、独立採算までは難しいと思いますが、料金体系の見直しや公費負担割合の最適化が可能となる市町村も多いのではないでしょうか。

谷戸 料金体系の改善の他に上下水道行政の一体化への期待や要望はありますか。

本多 水のサイクルを考える時にこれまで上水道と下水道が分かれていて、全体的なシステムとしての最適化の検討等がされていなかったのであれば、今後、最適化の検討・運営をしていければ良いと思います。

谷戸 そうですね。今回の水行政の一体化は、水行政のあり方や将来像を議論する一つの契機になると考えています。

次世代下水道システム「下水道3.0」

谷戸 本多さんが日本下水サーベイランス協会の広報誌Vol.1に寄稿された論文の中で、「次世代下水道システム『下水道3.0』として期待される技術革新」について述べられています。これについて、ご紹介ください。

本多 次世代下水道インフラ構築に向けて、期待される技術革新テーマとして、次の4点を挙げています。

 ①管路ネットワークの活用
 ②放流水の水質向上
 ③エネルギー生産型下水処理
 ④資源回収・資源生産 

 具体的には、①では、ⅰ下水疫学による地域の感染症流行情報収集、ⅱ5G+IoTを利用した管路センシング、ⅲ内水氾濫早期検知、ⅳ管路内下水処理 を、
 ②では、ⅰ合流式下水道雨天時越流水負荷最小化、ⅱMBR導入による処理水質安定化、ⅲ放流先に合わせた処理水質デザイン、ⅳウイルスや薬剤耐性菌の除去性能管理 を、
 ③では、ⅰメタン発酵によるエネルギー回収効率向上、ⅱ微生物燃料電池、ⅲ浸透圧発電、ⅳアナモックスによる高度処理の省エネルギー化、ⅴ敷地利用による太陽光発電 を、
 ④では、ⅰ再生水として水資源利用、ⅱ汚泥堆肥や処理水を利用した食糧生産、ⅲ処理水による藻類バイオマス生産 を提案しています。
 人口減少社会において有収水量が減少する中でインフラを維持するために、これらの技術革新による下水道の付加価値向上は不可避だと思います。

谷戸 素晴らしいご提案ですね。下水道インフラは総資産100兆円規模であり、全国に張り巡らされた管路ネットワークを活用することは本多さんがおっしゃる通り大変重要と思います。また、ゴミなどは回収に手間・エネルギーがかかりますが、下水は家庭から排出されれば、自動的に処理場に集まってくる特異なインフラです。この特性を生かしたエネルギーや資源の効率的活用方法も広げていきたいですね。処理水質の高度化も、先に述べた通り、今後、注目する必要があると思います。

能登半島地震における上下水道インフラの震災後対応
―地元金沢から見て―

谷戸 能登半島地震における上下水道インフラの震災後対応について、地元金沢から見て、どのようにお感じですか。地震の強さ、地形等の特性を考慮しても発災から半年近くが経っての現状を見ると、阪神淡路大震災・東日本大震災の時等と比べ、行政などの対応が後ろ倒しになっていると感じるのですが、いかがですか。

本多 下水道インフラを含め公衆衛生インフラの有難みを感じるのは自然災害時だと思います。安全な水、衛生的な設備は感染症予防や健康を維持するために要となるインフラで、復旧・復興の緊急度は高いです。今回の能登半島地震では上下水道の復旧に非常に時間がかかっていて、2次避難が長引くことで将来の地域コミュニティの存続に影響することが危惧されています。生活基盤を支えるインフラが機能することで、人と人とのつながりが維持されているのだということを、地元金沢にいて強く感じます。
 また、能登半島地震で、ウォーターPPP等官民連携のあり方も、再考すべき部分があると感じました。ウォーターPPPは官民連携で経済効率を高める取り組みですが、災害時対応を必ず担保しておかなければならないと思います。経済効率にばかり目を向けてしまうと非常時の対応が脆弱にならないかと懸念しています。官と民でどのように非常時に対応するのか、施設更新の際に耐震化をどの程度行うべきか、などを契約書に記載しておく必要もあるかもしれません。また、民の技術者に頼り切りになると自治体内の技術者がいなくなってしまい、必要な時に対応できなくなる可能性もあるので、自治体内の技術者を確保することや民の役割、体制を決めておくことが必要と思います。今後も自然災害は必ず起こるので、ウォーターPPPでの検討課題の一つとして追加していただきたいと考えます。

谷戸 大規模自然災害からの復旧・復興は、一律の基準・マニュアル・方向性で決めることができるものではありません。災害の激しさ・規模、発災時期(季節等)、発災した地域の特性、上下水道に加えその他の重要インフラの普及状況・被害状況、地元の建設業者・上下水道関係業者の状況等地域・タイミングに即した対応が必要です。地震対応において、政府内に日頃から、経験豊富なメンバー固定の「上下水道大規模地震対策委員会」を常設しておき、発災後に現地にチームを派遣し、地元の委員を追加して、その場で現況を的確に把握し、対策・方針の最適解を求めるのも一つの考え方だと思います。

本多 災害の復旧に限らず、インフラシステムに一律の水準を定めることも国土の均衡発展の観点からは必要かもしれませんが、その地域に最適で、人口減少の中でもサービスレベルを落とすことなく効率よく継続的にマネジメントできるインフラシステムを再設計することは、ウォーターPPPで民間の発想が役に立つ場面だと思っています。上水道の管路を引かず、水を運んで供給することに変更した限界集落もあります。現状に合わせたインフラシステム全体の再設計を考えるのに良いタイミングかもしれません。

谷戸 災害対策として、移動式水洗トイレや兵庫県養父市が保有している移動式コインランドリー、イタリアのキッチンカーなど移動式設備が今後注目されるのではないでしょうか。

官民連携、2つの「B」のギャップを埋める

谷戸 今後、官民連携(PPP/PFI)を進めるにあたってどういったことに注意していけば良いとお考えですか。

本多 欧米では失敗した例もあり、再公営化に戻した取り組みもあるので、日本ではその二の舞を演じないようにすることが重要だと思います。失敗した原因など分析して、日本での取り組みに生かしてほしいですね。ウォーターPPPを活用すれば、同じサービスを低コストで提供できる可能性があり、利用者にとっても良いことです。ただ、利益を追求する民間企業にとっての「B/C(費用対効果)」の「B(Benefit)」は「収益」であるのに対し、利用者にとっての「B/C(費用対効果)」の「B(Benefit)」は「サービスの質」です。PPPが企業と利用者の両方にとって有益であるためには、2つの「B」のギャップを埋めるためのガバナンスが重要と思います。通常の財・サービスの場合、この2つの「B」は連動していて、例えば、スマートフォンやホテルでは、より良い質の製品・サービスを提供することで利用者はより高い価格を支払ってくれるので企業の収益に結びつきます。しかし、公共インフラの場合、質の高いサービスを価格に転嫁することが難しいため、B/Cを高めるためにサービスの質を下げて「C(Cost)」を低くするインセンティブが働きやすい構造にあります。そのため、サービスレベルに関する明確な基準を契約の段階で仕様に落とし込んだり、経営・運営に行政や一般市民が参画したりする体制などが必要と思います。ガバナンスをしっかりしないと他国と同じ失敗をするのではないかと思っています。

谷戸 「B/C」の考え方は大変参考になります。民間企業にとっては、収益が最大の関心ごとであり、企画、資料作成など公募にかかる日数や労力は相当なものであり、受託できなかった場合は、損害が大きく、また受託した場合も利益が大幅には見込めないため、難しい面があります。

本多 ウォーターPPPとなった場合、民間企業は収益を上げなければならないので、逆に料金は上がるのではないかと思っています。行政内で人員の再配置が進んだり、業務効率化が図れたりするなどのメリットはあるでしょうが、料金が安くなるというメリットが出るケースは少ないのではないかと思っています。
 先ほども言いましたが、民間に頼り切ってしまうと、自治体に仕様書を作成できる人材もいなくなるのではないかと懸念しています。仕様書を見ても理解できなくなると民間企業の言いなりになる可能性もあります。第三者の監査集団を立ち上げる必要があるではないでしょうか。

谷戸 日本下水道事業団がその役割を果たしてきましたし、今後も果たせると思います。一方で、上水道には、同じような組織がないので、日本下水道事業団の活動範囲を上水道事業にも広げる制度改正をするべきではないか(日本上下水道事業団とする)と思っています。

本多 ウォーターPPPの契約段階での仕様書のチェック機能とかが上下水道事業で広がっていくと良いですね。

下水サーベイランスの社会実装に向けて
ノロウイルス検出や放流水の安全性確認での活用も

谷戸 下水サーベイランスの社会実装に向けての課題などがあれば教えてください。

本多 今後、感染症の流行や院内感染の抑止、医師の診断の精度が上がるなどの効果を数値で示すことができたら良いと思います。また、下水サーベイランスを新型コロナウイルス検出だけではなく、ノロウイルス検出や放流水の安全性確認にも活用できたらと思います。特に下流で上水道の水源がある地域では、感染症の流行状況に連動した運転管理によって放流水の衛生的安全性の確保ができれば、下水道の価値向上にもつながると思います。

谷戸 日本下水サーベイランス協会立ち上げ当初に比べれば、だいぶ認知度は上がってきたと思います。5月に、厚生労働省の感染症対策部に伺った際、医師である感染症対策部長さんをはじめ厚生労働省の皆さんの下水サーベイランスに対する見方が変わりつつあると感じました。

本多 関係各所で下水サーベイランスから有用な情報が得られることは理解が進みましたが、国民にとってお金を出すほどの価値があるか判断材料が不足しているように感じます。

谷戸 その点で、6月20日に、早稲田大学・東京大学から発表された下水サーベイランスによる感染症対策に対して一定のお金を支出して良いという国民の方々のアンケート結果の声は、大変大きな一歩ですね。6月21日に閣議決定された「骨太の方針2024」で、「下水サーベイランスを含めた施策の活用で、次なる感染症危機への対応に万全を期す」と記載されたことと併せ、今後の下水サーベイランスの社会実装の推進につながると思います。

上下水道の魅力を発信し、学生にアピールすべき

谷戸 最後に上下水道界が学生にとって魅力ある業界となるにはどうすれば良いでしょうか。

本多 上下水道インフラが整備されているからこそ、意識が向かないのではないかと思います。上下水道業界の問題点が見えづらいため、解決してみたいという思いが湧かないのではないでしょうか。
 人の行動原理はなんだろうと考える時に承認欲求かなと思います。社会を支えている、やりがいを感じられる、誰かの役に立っているといったことを周囲から認められる、自身でも思えるかどうかだと思います。加えて、進歩している業界に関わりたいと思うはずなので、上下水道もIoTやドローンなど新しい技術を取り入れていることを教員含め、学生にアピールしていけたらと思います。社会を良い方向へ変えていけるという魅力を発信していきたいですね。

谷戸 今回、上下水道が一体化したことは大変意義のあることだと思っています。下水道インフラは技術の宝庫、資源の宝庫ではありますが、一般的には、下水道のイメージは「汚い」というイメージです。上水道と一緒に取り上げてもらうことにより、「汚い」イメージよりも「大切なインフラの一つ」として見てもらえるのではないかと期待しています。

本多 以前、上下水道学A、Bだった学部講義演目を上水道学と下水道学に分けたんですが、戻した方が良いですかね。下水道インフラも、これまで良い仕事をしてきたというだけでなく、むしろまだまだ課題や問題がたくさんあることをアピールした方が学生に関心を持ってもらえるのではないでしょうか。それを解決する新しい技術やアイデアを取り入れるためには、次世代のあなたの力が必要ですといったメッセージが必要かもしれません。

谷戸 ワクワク感も必要ですね。私自身が取り纏めた冊子「下水道インフラの未来への提言(下水道の散歩道より)」にも書きましたが、B-HAG(ビーハグ:ワクワクする大胆な目標)を持って、チャレンジングな課題があって、それに対する面白いドラスティックな解決に向けた技術も進んできていて、あと少しのところにあなたの知識が役立つといったことをアピールすると良いかもしれませんね。

本多 下水サーベイランスを始めてから興味を持って研究室へ入ってくる学生も増えました。新型コロナウイルスを自分自身で経験したことがきっかけとなっています。

谷戸 外部に発信していく、アピールしていくことは本当に大切ですね。今日は長時間、どうもありがとうございました。

本多 了(ほんだ・りょう)氏
東京大学工学部都市工学科卒業、同工学系研究科都市工学専攻修士課程・博士課程修了。東京大学サステイナビリティ学連携研究機構特任助教、東京大学環境安全研究センター特任助教、2012年金沢大学理工研究域サステナブルエネルギー研究センター助教、2017年金沢大学理工研究域環境デザイン学系准教授、2019年米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部客員准研究員等を経て、2021年金沢大学地球社会基盤学系教授、現在に至る。現在、金沢市環境審議会委員、一般社団法人日本下水サーベイランス協会理事、全国下水サーベイランス推進協議会理事等を務める。趣味は、美酒・美食探訪、城巡り、コテンラジオ、音楽・絵画鑑賞。

谷戸 善彦(やと・よしひこ)氏
東京大学工学部都市工学科卒業、建設省入省。1987年西ドイツカールスルーエ大学客員研究員、その後、京都府下水道課長、日本下水道事業団工務課長、建設省下水道事業調整官、国土交通省東北地方整備局企画部長、同下水道事業課長、同下水道部長、日本下水道事業団理事長、㈱NJS取締役技師長兼開発本部長等を歴任。現在、㈱NJS常任特別顧問、一般社団法人日本下水サーベイランス協会副会長、公益財団法人河川財団評議員、一般社団法人日本非開削技術協会理事等を務める。趣味は、読書、車、鉄道、山、犬、広島カープ等。