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【対談シリーズ】山本有二×谷戸善彦

連載・下水道の散歩道(第66回)

 対談シリーズ第3回にあたる第66回は、自由民主党政務調査会 下水道・浄化槽対策特別委員会委員長の山本有二衆議院議員をお訪ねし、お忙しい中、1時間強、対談をさせていただきました。

 山本有二議員とは、25年ほど前、私が国土交通省東北地方整備局の企画部長をしておりました頃に、道路行政を通じて意見交換をさせていただいたことが交流の始まりです。その後、国土交通省下水道部長、日本下水道事業団理事長時代を含め、長く、継続的に、国土交通行政・下水道行政について、議論をさせていただいてきました。我が国の将来・世界の将来について、常に、先を読み、出色の実行力で、日本を引っ張ってこられています。国土交通行政・社会資本整備に関して、国会議員の方々の中で、一番の政策通で、最も見識の高い方です。自由民主党道路調査会長、自由民主党治水議員連盟会長を務められ、下水道に関しましては、上述の自由民主党政務調査会 下水道・浄化槽対策特別委員会委員長のほか、自由民主党下水道事業促進議員連盟顧問もなさっています。最近では、我が国の下水サーベイランスの社会実装に力を入れておられ、一般社団法人日本下水サーベイランス協会の特別顧問も務めておられます。

 今回は、能登半島地震を受けての早急な対応、上下水道行政の一体化への期待、下水道インフラ政策の方向性、国土強靭化、下水サーベイランス等について、幅広く、率直なご意見を聞かせていただきました。【谷戸善彦】

山本有二
(衆議院議員 元金融担当大臣・元農林水産大臣 自由民主党政務調査会 下水道・浄化槽対策特別委員会委員長 自由民主党治水議員連盟会長 自由民主党下水道事業促進議員連盟顧問)
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谷戸 善彦
(㈱NJS エグゼクティブ・アドバイザー(常任特別顧問) (一社)日本下水サーベイランス協会副会長 (公財)河川財団評議員)

能登半島地震、復旧・復興に全力を

谷戸 年明けとともに、震度7の能登半島地震が発生しました。現在、国、県、市町村挙げて、官民協力のもと、復旧・復興に向け、支援が本格化してきています。

山本 能登半島地震でお亡くなりになった方々に対し、ご冥福をお祈りいたしますとともに、被害にあわれた皆様方に対し、深く、お見舞い申し上げます。国会・政府を挙げて、能登半島地震の対応に、全力をあげているところです。上下水道も大きな被害を受けました。特に、今回は、地盤変動により、道路下に埋設している上下水道管路が大きな被害を受けました。そのため、本格的な復旧には、時間を要することとなりそうです。国土強靭化の観点から、下水道施設と併せて、水道施設の耐震化についても、国土交通省移管を機に、強化する必要があると感じています。

谷戸 阪神・淡路大震災、東日本大震災では、海沿いの処理場等、重要下水道施設に壊滅的な被害が出ました。そのため、その後、下水道の重要構造物について、耐震対策・津波対策を、国土交通省・日本下水道事業団が前面に立って、真摯に着実に対応してきました。東日本大震災時、水道施設は海沿いにはなく山の手の方にありますので、構造物に対する津波の影響は下水道施設と比べ、少なかったです。

山本 今後、本格的な災害査定等を経て、復旧・復興が本格化します。国の組織が国土交通省に一体化されるこのタイミングの中、全力で早期復興に向け、対応してほしいと思います。その際、上下水道施設について、今回の教訓を活かしての構造物・管路の耐震化の徹底を図ってほしいと思います。また、これだけの家屋倒壊による被害の大きさを考えますと、一般の住宅再建にあたっても、耐震化に対しての充実した財政対応が必要だと痛感します。

上下水道行政の一体化は、プレゼンス(存在感)向上のチャンス

谷戸 令和6年4月、現在厚生労働省が担っている水道行政が国土交通省に移管され、いよいよ上下水道行政の一体化が実施されます。

山本 内閣府の資料によりますと、上下水道の一体化により、我が国の総社会資本ストック972兆円のうち、上下水道ストックは、道路に次ぐ第2位の164兆円、全体の17%を占めることになります。上下水道インフラの建設費・更新費、維持管理費等のフローと資産ストックが日本経済・国内外市場に与える影響は、非常に大きなものとなります。一体化のパワーを結集してのイノベーション・技術革新・制度改革等を進め、上下水道界のプレゼンス(存在感)を向上させる大きなチャンスです。

谷戸 能登半島地震対応でも早速、上下水道インフラの連携、水道支援チームと国土交通省の連携が進んでいます。

山本 能登半島地震発生直後から、国土交通省下水道部は、しっかり対応してくれています。松原下水道部長の指令の下、堂薗下水道事業調整官、吉澤流域管理官が交互に現地に入り、一週間ごとに交替して、現地で総指揮をとってくれたと聞いています。また、岸田下水道事業課企画専門官、西下水道国際・技術室長が交替で、現地で、水道インフラとの調整に当たってくれたと報告を受けました。また、日本下水道事業団も、黒田理事長の指揮の下、素早く現地に入り、下水道の処理施設・ポンプ場等構造物系の被害状況把握をこなしてくれています。このあたりの対応の素早さは、阪神・淡路大震災・東日本大震災の経験を経て、見事なものがあります。上下水道インフラの復旧・復興のタイミングの調整等も今後、的確に進められると思います。また、全国の地方整備局に設置された水道インフラの4月以降の移管に向けての準備チームが現地に入り、自治体の水道支援チームと連携して対応に当たっているのも特筆すべきことです。地方整備局は、道路インフラも担当していますので、地震からの水道復旧に当たっての道路と水道の現場調整は、今後、極めてスムーズに進むと思います。

谷戸 4月からの水道行政の国土交通省移管を前に地方整備局等で準備していたことが、早速、活かされました。

山本 今回のような大きな災害への対応の場合、道路・河川・港湾・住宅・上下水道等の社会インフラ間の連携が極めて重要です。上水道インフラの国土交通省への移管により、社会インフラのほぼ全部が国土交通省へ所管一体化されたことが、有効に機能しています。これから、本格的な復旧・復興のステージに入ります。上水道インフラの災害査定等も、国土交通省に移管されたことで、よりスムーズに進むのではないでしょうか。

令和6年、上下水道インフラの最重要課題は、「国土強靭化」「官民連携」「新たな価値創造」の三点

谷戸 山本先生は、令和6年の上下水道インフラ政策の最重要事項として、「国土強靭化」「官民連携」「新たな価値創造」の三点を挙げられています。

山本 上下水道一体化のタイミングの中、推進すべき令和6年の上下水道インフラ行政の柱となる最重要事項として、「①防災・減災・国土強靭化の推進」「②ウォーターPPPを中心としたPPP/PFI等官民連携の推進」「③下水道インフラの『新たな価値創造』」の三点を挙げています。

谷戸 この三本柱について、狙い等、お教えください。

山本 第一の柱は、今回の能登半島地震で改めて明確になりましたが、地震・水害・噴火等の自然災害から国民の命・生活を守るために、国土を日頃から強靭化していかねばならないということです。起こってからの迅速な対応ももちろん大事ですが、「事前防災」が今後、益々重要となります。地震のほか、頻発する内水浸水被害の解消に向けての、また、来るべき噴火に備えての防災・減災・国土強靭化も重要です。
 第二の柱の官民連携では、「民に委ねるものはできるだけ民に」という考えとともに、「より官が深く関係するべき分野は、しっかりと官が対応・支援する」というメリハリが重要です。これは、能登半島地震で、改めて、再認識されたと思います。緊急時の官挙げての迅速な対応は必須です。
 第三の柱の「新たな価値創造」とは、上下水道ストックが全国で164兆円に達し、全国に上下水道インフラ網が張り巡らされた中、この膨大な上下水道ストックから、「国民からリスペクトされるような『新たな価値創造』を行おう」という考え方です。すでに、「新たな価値創造」として、下水中の新型コロナウイルスのRNAを分析することにより、新型コロナウイルスの地域内の流行動向を把握する「下水サーベイランスの社会実装」が始まっています。

谷戸 広瀬養父市長さんのお話が印象に残っておられると聞いています。

山本 広瀬養父市長が、昨秋、私のところに来られ、次のような話をされました。「養父市は、人口2万2000人の小規模な市です。しかし、この数十年、下水道インフラに膨大な投資をしてきました。市の支出の中で、最大の社会資本投資です。おかげで、ほぼ全域に下水道インフラが整備されました。その中で、私は、これだけの投資をして市内に張り巡らされた下水道インフラを、公共用水域の水質浄化、トイレの水洗化、都市の生活環境向上、という本来の目的だけでなく、さらに、もっと市民に貢献する・市民の安全安心に役立つ別の目的にも使えないか、効果的に活用できないかとずっと考えていました。その時、新型コロナウイルスの市内の感染状況をいち早く把握できる『下水サーベイランス』を知ったのです。これだと思いました。現在、市内4ヵ所の処理場で下水サーベイランス調査を実施し、市内の感染状況の把握と市民への周知に大きな成果が挙がっており、市民の皆さんから感謝されています」。このお話を聞いて、日本中でこれだけのストックを有する下水道インフラの「新たな価値創造」が大変重要と考えました。

谷戸 下水道インフラの「新たな価値創造」として、下水サーベイランス以外での可能性はいかがでしょうか。

山本 今後、「新たな価値創造」として、下水道インフラでは、全国1600万基ある下水道マンホール蓋にセンサーチップ等を設置し、今後普及が進む空飛ぶ自動車、ドローン等の自動飛行誘導電波発信基地とすることや、下水道管路内への電線・通信線の敷設による都市景観保護、下水道処理施設敷地内への核シェルター設置等が考えられるでしょう。

谷戸 ありがとうございました。多様な方向性ですね。こうしたことで、国民の皆さんの上下水道への関心・上下水道へのリスペクトが進むといいですね。

国土強靭化は益々重要に 高知水害が下水道マンホール安全対策の契機に

谷戸 地震対策と併せ、浸水対策も引き続き、極めて重要です。山本先生は、かつて、ご自宅で床上浸水をご経験されたと聞きました。

山本 平成10年9月の高知市を襲った内水による大水害の時のことです。時間最大雨量112mmの雨でした。高知の自宅の一階で畳の上に布団を敷いて寝ていましたら、夜中に突然、身体が布団ごと浮き上がりました。寝室まで、水が入ってきたのです。あわてて、二階に上がり、何とか難を逃れました。今から考えても、大変危険な命に関わる体験でした。その後、内水による浸水対策、治水対策に力を入れていますのも、この自らの経験が契機になっています。

谷戸 その高知市の水害では、下水道のマンホール蓋が吹っ飛び、空いていたマンホール開口部にお二人の方が落ちて、亡くなられるという事故が発生しました。

山本 そのとおりです。私は、衆議院議員当選3期目でした。発災の後、すぐに、建設省(当時)下水道部等を呼び、事故原因の早急な解明と抜本的な対応策を指示しました。

谷戸 私も担当の下水道事業調整官として、先生のところに何度もお伺いして、ご説明させていただき、飛散防止用チェーン設置等、この際、徹底的に安全を考えた全国のマンホール蓋の大改革を行いますと、宣言いたしました。下水道界にとっては、後の道路行政における「笹子トンネル崩落事故」と同じくらいの衝撃的な出来事でした。平成10年9月の発災の後、建設省下水道部では、10月に「下水道マンホール緊急対策検討委員会」を立ち上げ、12月、「下水道マンホール緊急安全対策」を自治体に緊急通知、翌11年3月、「下水道マンホール安全対策の手引き」を発出しました。これにより、マンホールの浮上・飛散対策は、ようやく緒につくこととなりました。下水道マンホール安全対策は、山本先生の御指導をいただいた中、高知事故の教訓から、始まりました

下水サーベイランスの社会実装に向けて

谷戸 下水道インフラの「新たな価値創造」として、下水サーベイランスの社会実装は注目です。下水サーベイランスの社会実装に向けて、下水サーベイランスの特長・効果・有効性、下水道界にとっての意味、今後の方向性等先生のお考えをご教示ください。

山本 下水サーベイランスは、本当に素晴らしい施策だと心から思っています。そうした中で、社会実装の推進を図るべく、自らの意思で、昨年2月に、衆議院予算委員会で国会質問いたしました。

谷戸 予算委員会で質問された日の2週間ほど前、私の携帯電話のショートメッセージに「近く衆議院予算委員会で下水サーベイランス推進の質問をすることに決めた」とご連絡があった時は、びっくりしました。

山本 下水サーベイランス調査は、「その地域の感染症の蔓延状況の傾向が、いち早く的確にわかる」「新型コロナだけでなく、今後拡大する可能性のあるほとんどすべてのウイルス・細菌の感染動向がわかる」「個人情報でなく、情報の匿名性が高く、感染者のプライバシーの問題が生じにくい」「人に検査の肉体的負担をかけず、実態を把握できる」「日本が発明した新たな分析方法により、従来の分析精度が100倍高まり、今や処理区の中で14万人に一人の患者がいれば感染を把握できる」「個別のPCR検査を全員対象に実施するより、断然コストが安い」、という多くの特長・有効性を有しています。

谷戸 感染症対策としての特徴・有効性のほか、下水道界にとっての意味について、どうお考えになっていますか。

山本 「下水道インフラでこんなことまでできるのか」と、国民から、リスペクトを持って注目されています。これは、下水道界にとって、極めて大きいことと思います。今までなら、「台所やトイレから流して終わり、あとは関心なし」という下水道インフラへの国民の関与・関心から脱却して、下水道インフラへの関心が着実に高まっていると思います。国民の安全・安心にダイレクトに貢献しているところもすごいですね。

谷戸 まだまだ、下水サーベイランスは、緒についたばかりです。今後の下水サーベイランスの社会実装に向け、ロードマップ等、お考えをお聞かせください。

山本 全国下水サーベイランス推進協議会の札幌市さん、宮橋小松市長さん、広瀬養父市長さん方、また、日本下水サーベイランス協会の会員企業の皆さんや特別会員の館田先生、本多先生、北島先生、井原先生、原本先生の御尽力で、全国の自治体、特に、保健衛生部局、医療部局での下水サーベイランスに対する理解がかなり進んできました。北島先生が昨秋、東京都医師会の尾﨑会長ほか東京都の医師会の幹部に下水サーベイランスの話をされたところ、感染症法の五類にも指定されていないものの、子供が重症化する恐れがあり、昨夏流行った「ヒトメタニューモウイルス」の蔓延状況を下水サーベイランスで把握できるという話に深く関心を持たれ、大いに評価されたという話を聞いています。活用いただく側の方々への理解が進んでいるのは心強いことです。
 その中で、全国の下水処理場数百ヵ所をモニタリングポイントとして指定し、定常的な下水サーベイランスモニタリング体制をいかにして構築するか、その分析費用をどう捻出するかがポイントと考えています。下水道管理者側で採水・分析し、全国共通プラットホームを構築して、データを集約し、保健衛生部局・医療部局・危機管理部局・下水道部局・大学研究所・民間企業等で情報を活用し、ダッシュボードで世界に公表・公開するというスキームも考えられるでしょう。

電線地中化に下水道活用を

谷戸 景観保全等の観点から、電線の地中化が進められていますが、なかなか進みません。国土交通省道路局も、道路側溝に電線を敷設する対応も始めています。下水道インフラの新たな価値創造として、下水管への電線挿入による電線地中化の推進はいかがでしょうか。

山本 現在、道路側溝への電線敷設も進み始めています。電線・通信線を下水道管内に敷設することは、十分考えられると思います。技術的な課題は少ないのではないでしょうか。

谷戸 光ファイバーは、下水道法の改正を平成8年に行って、下水道管の中に、すでに、敷設されています。電線・通信線も敷設可能です。下水道管路の管理のためには、下水道管の底部にケーブルを這わせるのでなく天井部にケーブルを懸架してほしいとの意見もあり、その天井部へのケーブル敷設を容易に行えるロボットもすでに開発・実用化されています。

上下水道一体化への期待 「上下水道ビジョン」の早急な策定を

谷戸 先ほどもお話がありましたように、本年4月より、水道行政の大部分が国土交通省に移り、上下水道行政が一体化されます。上下水道一体化への期待と注文をお聞かせください。

山本 先ほども言いましたように、能登半島地震対応で、早速、上下水道一体化の効果が出てきています。4月に一体化になった後、国の「上下水道ビジョン」を作ることが、まず、必要ではないでしょうか。新たに創設される「上下水道審議官」の下で、上下水道インフラの将来像、脱炭素への道のり、上下水道DXの推進、建設・維持管理費用の負担の在り方、官民の役割分担、官の中での国と自治体の役割分担、技術開発の方向性、海外展開等を内容としたしっかりした「上下水道ビジョン2050」の策定に是非、着手してほしいですね。

谷戸 幅広く、お話しいただき、誠にありがとうございました。

【略歴】山本 有二(やまもと・ゆうじ)氏
高知県越知町出身。早稲田大学法学部卒業。弁護士。高知県議会議員を経て、平成2年、衆議院議員初当選。以降、現在まで11期連続当選。この間に、金融・再チャレンジ担当大臣、農林水産大臣などを歴任する。そのほか自民党建設部会長、自民党経理局長、自民党道路調査会長、財務副大臣、衆議院予算委員長など内閣、国会、党における数々の要職において活躍。現在は、衆議院予算委員、憲法審査会委員、自民党税制調査会副会長、自民党治水議員連盟会長、自民党政務調査会 下水道・浄化槽対策特別委員会委員長等を務める。