(36)第1909号 令和2年1月14日(火)発行 レンツェのメディチ家の存在が大きかったと言われています。メディチ家ではボッティチェリやレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロなど、画家や彫刻家、建築家など様々な分野の芸術家を後援していましたが、こうした異分野の芸術家が交流する場としても機能していました。異分野が交わることで化学反応が起き、その後の大きなムーブメントにつながったのです。 言うなれば「水の天使」も異分野交流から生まれました。とある勉強会で私が偶然、ミス日本の事務局と知り合ったのがきっかけでした。それからとんとん拍子で「水の天使」の創設まで進んだのですが、今では下水道の広報だけでなく、下水道関係職員の一致団結する気持ちや、元気の源に欠かせない存在になっています。思いもよらない分野との交流が新たな価値をつくった例として紹介しておきます。アーリーアダプター(早期採用者)を探せ 新たなアイデアが生まれたら次はそれを水平展開しなければなりませんが、下水道の世界では、モデルはつくるけど、水平展開の方法論が確立されているとは言えません。どうして、新たな政策に取り組む団体と、懐疑的な団体がいるのか。そこで私なりにこの方法論を勉強し考えていました。 まず最低限の常識として、イノベーションは当初は多くの人に受け入れられないことを知っておくべきです。エベレット・ロジャースというアメリカの社会学者も言っていますが、はじめからイノベーションを受け入れる割合は全体の1割に届きません。 一方で、いち早く採用する“アーリーアダプター”と呼ばれる人たちも数パーセント存在します。このアーリーアダプターをいかに探すか。最初はこれに全力を傾けることが重要です。アーリーアダプターが見つかれば、彼らにユーザーになってもらい、好意的な声を広めてもらう。シェアが半分を超えれば、今度は懐疑派や無関心だった人も“取り残された”という感覚を抱き、自ずとイノベーションを受け入れてくれるはずです。 仮にアーリーアダプターが全く見つからなければ、例えば自治体によそ者を派遣するなど、他から持ってくることも一考すべきですが、基本的にはその必要はないと思います。アーリーアダプターは必ずどこかにいるはずです。第3種郵便物認可イラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第5回】~その起こし方と普及理論~利他の心と交差点 新たな技術や価値を創造するイノベーションには大きく2つの肝があります。1つはそれをいかに起こすか。もう1つはそれをいかに広げるか。この2つがセットでイノベーションと言ってもいいでしょう。今回は、この2つの視点からイノベーションの成功のヒントを、実体験も交えつつ紹介できればと思います。 まず、1つ目のテーマ、イノベーションを起こす方法です。コンセプトは「利他の心と交差点」。利他の心とは、自分のためではなく、世のため、人のためにという気持ちのことで、一見、偽善的な響きもありますが、イノベーションを起こす上では非常に重要な考え方だと思っています。というのも、“自分のため”と“人のため”では、人間の脳の働き方が異なることが最新の科学で証明されているからです。“人のため”と思う方が、脳が活性化され、新しいアイデアがうまれやすいというのです。利他の心を持って、そのために何をすべきか、強い構想を持つ。まずは、これが大事だと思います。 事実、佐賀市のビストロ下水道では、発起人である前田純二さんの“市民のために”という思いが取り組みを成功に導きました。前田さんは、市民の健康維持を第一に何ができるかを考え、無農薬である下水汚泥由来肥料などのアイデアにたどり着きました。ビストロ下水道により、下水処理場も、それまでの迷惑施設から市民に愛される施設に変貌を遂げました。まさにイノベーションですが、その源が“市民のため”であったことは忘れてはいけません。 利他の心と、もう1つ、イノベーションに欠かせないのが異分野との交流です。これを、いろんな分野の人々が行き交う“交差点”と表現しました。歴史上、大きなイノベーションとして有名なのが14世紀にイタリアで始まったルネサンスですが、この背景にはフィイノベーション加藤 裕之東北大学特任教授㈱日水コン技術統括フェロー
元のページ ../index.html#9