第3種郵便物認可 ら、確信を持てる答えはありません。ただし、まず言えることは将来の「見える化」です。例えば岩手中部水道企業団では、構成市町が今後も広域化しないで個別に事業を行うと給水原価や供給原価がどうなるか、30年先までの具体的なデータを見せたところ、危機感が共有され、広域化へ舵を切ったそうです。今が良いと不安はないから、将来を見せれば意識の高い人には刺さります。データが30年分ということがポイントで、10年間だと変化がない自治体もあるからです。岩手中部水道企業団による30年先の経営見通しイメージ県の課長が坂本龍馬になれるか 都道府県のリーダーシップが、危機感を共有する上で最も大事な要素になってきます。例えば広域連携のトップランナーとして有名な秋田県では、既にハード・ソフトの両面で様々な施策が動いていますが、これらの実現にあたっては、県の職員が市町村(相手の城)に自ら出向き、課題を分析し、解決策を提案するなど、地道な取り組みを根気強く続けたそうです。県が直接出向くというところが大事です。市町村の職員からすれば、県庁に呼びつけられると、江戸時代のお白洲ではありませんが、委縮してしまい、本音が出づらい状況になりがちです。その点、普段働いている職場では本音が出やすいというわけです。そこまで考えて行動する県の課長がいたのですね。 また、県が一番刺激を受ける相手は、他の県です。先進的な県に学びに行ける環境や、県同士の情報共有の場も、今後は必要になってくるのではないでしょうか。何事も普及するには、縦より横です。誰でも同じ立場の声を信用するのです。 薩長同盟を実現させるため各地を奔走した幕末の風雲児と言えば坂本龍馬ですが、広域連携の実現も「足を使う」ことが重要です。「県の課長は坂本龍馬たれ」とのコンセプトを送りたいと思います。規制も一考の価値はある 広域化を推進するフランスでは、「ノートル法」という法律ができました。他事業も含めた広域化を、期限を決めて促進しています。日本でも令和4年度までに広域化・共同化計画の策定を求めていますが、法律で定める方がより強制的です。さらに、フランスでは、広域化していない自治体に、補助金の配分を制限する措置をとっているところもあります。こうした規制や財政的誘導が日本の風土に合っているかどうかは分かりませんし、日本には日本のやり方があると思いますが、今後も広域連携の進捗が芳しくない、または一定進んだ後の停滞の脱却には導入を検討する価値はあると思います。まさに“危機感の共有”でしょうか。 先日、調査で訪れたフランスの某都市では、これから広域化を進めるところですが、はっきりと「周辺市町村が困っていてもノートル法がなければ広域化はやっていなかった」と笑いながら言い切っていたのが印象的でした。日本は、こうなっては情けないです。雨水管理の効率化という観点も 先日のフランス調査では、ナント市などで構成される人口約60万人のメトロポール(広域自治体)にも訪れました。ここで聞いて印象深かったのは、広域化により「雨水管理がしやすくなった」という話です。流域圏内の自治体が1つの単位になることで、河川の水質や水量の管理が一体的に行えるようになり、ひいては下水道と河川が連動して雨水管理の効率化にもつながっていると言うのです。これも広域連携によるバリューの1つですし、日本ではあまりない視点なので書き加えておきます。 それからナント市を見て思ったのは、中核市の存在の大きさです。広域連携が実現するまでは都道府県がリードし、いざ実現した後は、連携の中心となる中核市がリードしていかなければなりません。もちろん民間企業等の役割も大きいです。官民出資会社を設立して、そこがメインプレーヤーになるという方法もあります。しかしながら、日本では、これまで設計・建設から管理運営まで一気通貫で見てきたのは自治体だけです。そうした経験を豊富に持つ中核市などの自治体が、広域連携の中心的な役割を担うべきですし、そのための政策がポイントと考えます。 第1907号 令和元年12月3日(火)発行(31)
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