コンセプト下水道 第1回~20回
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(30)第1907号 令和元年12月3日(火)発行 果として一般的に言われるのがこの効率性です。ただ私はこれだけではないと思っています。 もう1つ、新たな価値(Value:バリュー)を生み出す効果も、広域連携にはあると考えています。今、国が推進しているのが、行政界を超えた広域連携です。これが進めば、異なる都市同士が一緒に仕事をすることになります。ある都市と別の都市が一緒に仕事をすると、1つの都市の中だけで培われてきた暗黙知が他の都市と共有される機会が増えてきます。知識と知識がぶつかり、補完し合う。これは新たなイノベーションが生まれる環境としては最適です。 この考えについては、岩手中部水道企業団を創設し推進されている菊池明敏さんとお話しをして、一層強くなりました。同企業団は、北上市、花巻市、紫波町の3市町で構成された一部事務組合として平成26年4月に設立され、水道の先進的な広域連携事例として有名です。設立準備の中心的な役割を果たしたのが菊池さんで、広域連携の効果として、効率性よりも、職員同士の切磋琢磨など、思いもよらなかったバリューの方に関心を持たれていたのが印象的でした。 効率性と新たな価値。この2つの英語の頭文字を並べて「EV(イーブイ)」。広域連携の効果を端的に表すコンセプトとして書き留めておきます。“危機感の共有”がカギ むろん広域連携、とりわけ行政界をまたいだ連携には多くのハードルがあり、実現は容易ではありません。国もマニュアルを作成するなどして支援しており、一部の地域で前向きな動きが見られるものの、全国的には、正直なところ、あまり進んでいるとは思えません。 では、広域連携を進めるカギとは一体何でしょうか。私は、県などがリーダーシップをとって、市町村の首長や幹部と“危機感を共有する”こと、これに尽きると考えています。国でも自治体でも同じですが、公務員は国境や市境の中で仕事をする運命にあります。この境を超えて、さらに将来の予防的な対応の仕事をするとなると、相当なモチベーションが必要です。もちろん先に書いた「EV」のような広域連携によって得られる効果もモチベーションの1つです。とはいえ、将来の経営不安のような予防的な仕事については、危機感を共有し行動するためのかなり戦略的な仕掛けが必要になります。 では、どうやって危機感を共有するのか。残念なが第3種郵便物認可イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第4回】~時間と空間の概念~「時間」と「空間」の両方を考えるべき施策 広域連携が大きなテーマになっています。その背景として、人口減少による使用料収入の減や職員不足などがあるのは言うまでもありません。国も最重要課題の1つに位置づけており、全ての都道府県に対し広域化・共同化計画の策定を求めたり、施設統廃合の目標値を設定したりと、広域連携の推進に力を入れています。 さて、哲学。世の中の事象は「時間」と「空間」が相まって構成されています。時間の中に空間があるのではなく、空間の中に時間があるのではない。でも、密着した関係です。だから、この2つは常に並列で考えなければなりません。広域連携でも、「時間」と「空間」の両方から考えてみます。 「空間」は、施設の統廃合など、規模を大きくすることで得られる利益(スケールメリット)をイメージすれば分かりやすいと思います。広域連携と言えば、まず、この「空間」が頭に浮かぶと思います。 一方、「時間」は少し説明が必要かもしれません。例えば広域連携が実現して、新たな組織をつくることになったと仮定します。しかし、組織を設立してすぐに広域連携の効果が表れるわけではありません。むしろ人が融合するまでは、一時的にコストが上がると一般的には考えられています。これが徐々に最適化されていき、将来的にはコストが下がっていくというわけです。このように、広域連携には「空間」だけでなく、「時間」の観念も必要になってくるのです。広域連携の効果は「EV(イーブイ)」にあり 広域連携の効果は、大きく2つあると考えています。 1つは、効率性(Efficiency:エフィシェンシー)です。ハードで言えば施設の統廃合など、ソフトで言えばICTを使った広域管理などにより、効率性が向上し、ダイレクトに経営改善につながります。広域連携の効広域連携加藤 裕之東北大学特任教授㈱日水コン技術統括フェロー

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