第3種郵便物認可 プレイヤーとなる民間企業が市民から信頼を得られるような行動を取ることがとても大切になります。 実は、これは市民だけでなくビジネスの社会でも同じです。「ビジネス社会は信頼できない人ばかり。ノウハウを盗まれるだけになるかも知れないから大人しく引っ込んでおこう」という態度でいると、外との関係がつくれずに大きなビジネスチャンスを逃す可能性があります。下水道事業は変革期にあります。これからは単純な「モノづくり」でなく、様々な人とつながりながら、新たなValueを創り出す時代ですし、総合マネジメントを担うためには他社とのアライアンスによりチーム体制を組む必要があります。引っ込んでいるだけではジリ貧で取り残されます。最も大切なことは、相手を信頼できる者であるかどうか判断できるリテラシーを鍛えて積極的に外との関係をつくることです。ESG施策について少し 民間企業が顧客や市民から信頼を得るための活動は、ESG施策との関係が密接です。ESG施策とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視した企業活動のこと。社会的な課題解決に貢献するとともに、自社のブランドアップによる投資の呼び込みや職員のモチベーション向上をめざすもので、世界の潮流になっています。もしESG施策を推進するならば、本来業務と薄くでも関わっているテーマをお勧めします。世界的にも成功している企業のESG施策はそのようなテーマを選んでいるとの研究報告があります。下水道界なら、地域の資源循環のためのビストロ下水道や市民科学に取り組むことはESG施策としても適格なのです。もちろん、成功するためには取り組みに対する経営層のリーダーシップが求められます。脳科学によるモチベーション向上 信頼を得るために市民と共感しあえるような場をつくることは、職員や社員のモチベーションを上げるという効果もあります。市民から直接、感謝される機会が増えるからです。モチベーションがアップすれば仕事の能率も上がりますし、人も育ち、結果的に下水道経営の改善につながると考えられます。 脳科学の研究によると、ヒトの脳の大脳皮質では神経科学物質のオキシトシンが分泌される時に共感力が高まっているとのこと。オキシトシンは不安感を和らげるとともに、「もっと頑張ろう」という気持ちを増幅する効果があるドーパミンの調整に関わっています。逆に支配的な上司の行動は、部下のメンバーのオキシトシンの分泌を阻害し、モチベーションを低下させるとの研究成果があります。さらには、自分のオキシトシン分泌が高まると、相手のオキシトシン分泌も高まり共感することで信頼関係を素早く構築できるという研究成果もあります。このような脳科学の働きを考えると、組織内の信頼感の構築により、職員の脳内にオキシトシン分泌が高まる活性化ルートが形成され、本人のモチベーションアップだけでなく、職員が交流する組織外の市民のオキシトシン分泌につながり、市民との信頼感の形成にも貢献するということが考えられます。 さて、最後になりますが、地域と共感する場づくりのテーマは何でも良いと思います。その地域に合ったテーマが必ずあるはずです。昨年、秋田県庁の若手職員と議論する機会がありましたが、下水処理場の新たな上部利用として「秋田竿燈まつり」に使う竹を栽培するというアイデアを出した職員がいて、面白いなと感心しました。「地域の人たちが喜ぶことは何か?」、そして、「自分もワクワクすることは何か?」。これを考えることが信頼関係をつくる第一歩です。 今回は主に市民からの信頼関係に焦点をあてましたが、このほかにも下水道政策では、行政界を超えた広域連携を進めるための自治体同士の信頼関係など、あらゆる場面で信頼学は応用できると考えています。確かに出前講座やポスター制作などの広報活動は大事です。ただ、安定した下水道経営の生命線である“市民の信頼”を獲得するためには、広報から一歩踏み出して、「信頼学」の理論を活用した関係構築が大切だと思います。一緒に考えてみませんか。【参考文献(一部)】◦ 『信頼の構造 こころと社会の進化ゲーム』(山岸俊男著、東京大学出版会)◦ 『信頼学の教室』(中谷内一也著、講談社現代新書)◦ 「再生と利用」No.165「普及理論・社会心理学・市民科学から考察する下水汚泥の農業利用~先進都市・佐賀市の分析~」(加藤裕之、日本下水道協会発行)◦ Harvard Business Review 第44巻第12号48p「神経科学が解き明かす信頼のメカニズム」Paul J.Zak 第1940号 令和3年4月6日(火)発行(43)
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