(42)第1940号 令和3年4月6日(火)発行 から大喜びしている気持ちは同じです。ですけど……」と、ルールを守るよう呼びかけた警視庁機動隊員のことですが、このDJポリスが若者たちに支持されたのは、上から目線で注意するのではなく、自らもサッカーファンであることを公言するなど、若者たちと同じ立場なんだと感じさせることで共感されたからという分析があります。同じ立場で同じ視点に立ったことが、信頼の獲得につながったわけです。 市民と手を携えて地域のために共に考える市民科学は、まさに「価値共有・共感」に該当する、だから信頼関係につながると前述のゼミで教えていただきました。そして、市民科学以外にも、地域資源を活かして元気なまちをつくろうという価値観を掲げ「農業勉強会」を通じて農家や市民とその価値観を共有する佐賀市のビストロ下水道なども、信頼の3要素をすべて満たした取り組みではないかと考えています(この関係性については日本下水道協会が発行する「再生と利用」No.165に投稿しました)。信頼学は下水道経営の柱、PPPにも では、なぜ信頼学が今の下水道事業にとって必要なのか。下水道管理者と市民の関係を考えた時、冒頭に紹介した滋賀県のエピソードのような場面で新規事業が円滑に進みやすくなるという点はもちろんあります。一方で、人が減り、お金が減り、今後ますます厳しくなる下水道経営においても、信頼学は大いに知っておくべきというか、長期的な経営の基盤だと確信しています。 分かりやすい一例は下水道使用料です。良好な下水道経営を維持するには適切な使用料の設定が不可欠ですが、市民からの納得を得られず、使用料をアップするのに苦労している自治体が多いです。もちろん、使用料が上がって喜ぶ人はいないのですが、私の滋賀県での失敗と同じように経営の厳しさや職員の努力について説明する人物が信頼されていないと理解を得られないのは間違いないです。逆に、日頃から信頼関係が築けていれば、「あの人が地域のために必要なことと言っているならば……」と理解いただけるのではないでしょうか。 下水道事業はお客さんが決まっている地域の独占事業です。税金そして使用料を負担している市民の信頼感を得られれば、経営としてこれほど強いことはありません。逆に地域からの信頼がないと、新たなお客さんを呼び込めない下水道事業は破綻します。また、災害発生等の不測の事態が起きても、市民からの信頼があれば、BCPの実行や一時的に下水道を使用できない等の不便をかけることになっても市民の理解と協力が得られると思います。 これは市民と自治体の関係だけでなく、増加しつつあるコンセッション等のPPP(官民連携)における市民と企業の関係でも言えることです。PPPに限らず、民間企業の活躍への期待が高まりつつあります。これまでは市民と直接に接する機会のなかった民間企業の社員も、市民に信頼されるにはどうしたらよいかを考え、行動を始めていく必要があるのではないでしょうか。そもそも、市民に「信頼される水会社」になるにはどうしたら良いかについて、真剣に考えるべき時だと思いますし、市民から信頼される会社こそがこれからの下水道事業の顔でありリーダーとなるべきです。相手を判断できるリテラシーがチャンスを掴む 過去の研究成果によれば、人は信頼できるかどうか判断できない相手の提案に対しては首を引っ込める傾向があるとのことです。これは犯罪などに巻き込まれないためには安全な行動ではありますが、従来のやり方を変えない、冒険しなくなることで、チャンスを逃すことにもなりえます(専門的には機会コストを払う、という言い方がされています)。 例えば前述したPPPの導入についてですが、民間に水事業を任せることの是非を判断する情報や知識がない市民は首を引っ込める、すなわち変化に対して反対の声をあげる傾向につながると考えられます。これは、自治体を信頼しているというよりも「これまでどおりで問題がなかったから、何をするかわからない民間に任せないで、別に現状維持のままでいいよ」という消極的な理由である可能性もかなりあるのではないかと私は考えています。しかしながら、ご存じのように効果的なPPPの導入はコストカットや新たなイノベーションを地域にもたらし、結果的にそのメリットは市民にも還元されます。民間は信頼できるかわからないという理由で安易に効果的なPPPについて反対してしまうと、こうしたメリットを市民は逃すことになるのです。ですから市民のために効果的なPPPを導入し継続しようと考えるならば、まずは、説明する自治体、そして 第3種郵便物認可
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