第3種郵便物認可 1つ目が「サイエンス」です。コンポストを使うにしても、例えばトマトであれば品質としての甘さ。収量はこれだけ増えた、という効果について科学的な根拠が必要です。また、病害の減少や連作障害が減ることなども農家の理解を得るためには有効です。 2つ目が「広報・ブランド化」です。既存製品との差別化を図り、消費者へのアピール効果を狙う“ブランド化”が重要です。減農薬のPRや食べ比べ的なイベントも効果的ですね。 3つ目が「経済」です。例えば農家からすると収穫量が増え、品質も上がったうえに、化学肥料よりコストが下がった(佐賀市のアスパラ農家では80%減の事例も)、下水道管理者からするとセメントに比べ汚泥の処分費が下がったなど、その地域におけるお金の効果の見える化です。 ビストロ下水道をやっていると、しばしば「ビストロ下水道は広報なのか、技術なのか、どっちなんだ?」と問われるのですが、どちらも正解で、どちらも必要です。サイエンス、広報、経済。この3つのコンビネーションがビストロ下水道を成功させる鍵だと考えます。そして、これらの活動の原動力は「地域愛」のある人のチームワーク力。これにつきます。サクセス・ストーリーの伝搬と笑顔のチカラ ビストロ下水道では、他地域のストーリーを知ってもらうことの大切さも学びました。市役所、農家の方々がビストロ下水道の会議に集まり、同じ立場の人のアイデア・想いを聞いて刺激を与え合うことで、新たなサクセス・ストーリーが生まれています。 北海道岩見沢市では、峯淳一さんという農家の方が化学肥料による農業の持続性を案じて一人で始めた取り組みが実を結び、大きな広がりを見せています。峯さんは、自家製のコンポストで「ゆめぴりか」というブランド米の生産を行っています。下水道肥料を使った循環型農業の構築に成功するとともに、その手法を他の農家に広め、地域ぐるみで推進してきました。この取り組みは平成27年度の国土交通大臣賞を受賞し、全国に広く知られるようになりました。今年は、さらに、下水汚泥の有機質を活用した環境に優しい農業ということで「農水省ガイドライン・特別栽培農作物」の認証と、JGAP(生産工程の安全性評価の国家規格)をついに取られました。これは、日本の下水汚泥の農業利用において新たな一歩です。 実はビストロ下水道関連の取り組みで国土交通大臣賞を受賞したのは、岩見沢市だけではありません。佐賀市(平成24年度)、秋田県(同29年度)、そして今年度は、市役所、山形大学農学部、地元企業等の連携による山形県鶴岡市と、これまでに4件もあります。そのストーリーはそれぞれ異なりますが、農家の方が笑顔になる点は共通しています。農家の方の笑顔はその地域を笑顔にさせます。地域の笑顔は下水道職員のモチベーション向上につながります。ビストロ下水道の本質はここにあるのかもしれません。 コンポスト等の下水道の農業利用は昔からやっていたことです。ただ、これまでと光の当て方を変えて、新たなコンセプトをつくったことで変化が起きたと思っています。 第1905号 令和元年11月5日(火)発行(31)佐賀市におけるアスパラガスの収量と経費(29aあたり、人件費除く、出典:NPO循環型環境・農業の会)鶴岡市、山形大学の飼料米資源循環システム岩見沢市の峯さん一家
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