コンセプト下水道 第1回~20回
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第3種郵便物認可 すことに理解を得るために動いたりと、一人で優先順位をつけて自ら復旧活動がやれてしまう人でした。のちに私が訪問した時のことを聞くと、「忙しい中で、この人と現場について話したところで大して役に立たないだろうが、せっかく東京から現場まで来た人だから話してみるか」くらいの気持ちだったようです。その後、現場の早期復旧の手順などを教えていただき、他の被災地にも活用しました(大船渡市は国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」で東日本震災の早期復旧が認められ表彰されています)。復旧の目途が立ってきたころ、そんな熊井さんから「復興に力を貸してほしい」と言われたことは嬉しかったですし、それが“大船渡モデル”と呼ばれる先進的なPPP/PFI、施設改良付包括運営事業につながり、今でも情報交換しています。 復興と言えば、象徴的な仙台市の南蒲生浄化センターを取り上げないわけにはいきません。同センターは、津波による壊滅的な被害を受けて機能を喪失した教訓から、省エネと創エネを組み合わせた「エネルギー自立型」の処理場をめざしています。「自立型」と書きましたが、「自律型」と書く場合もあります。「自立」と「自律」の違いについて、私のイメージだと、「自立」は自らで完結しますが、「自律」は周囲を巻き込むようなもっと広い概念があると思っています。自らの「自立」だけでなく、余ったエネルギーを地域に配ってサポートする。そんな「自律型」の処理場こそ、本当の意味で理想の処理場と言えるのかもしれません。大災害は他人事ではない 私は「災害が人を育てる」と考えています。普段はぼんやりしていても、ひとたび災害対応となると目を輝かして頑張る人を何人も見ましたし、東日本大震災を経験した若手がぐんぐん成長したという話もよく聞きます。 南海トラフ地震が今後30年以内に起こる確率は70~80%と言われています。東日本大震災ではおよそ2万人もの人が犠牲になりましたが、より広域的な被害が想定される南海トラフ大地震の犠牲者は32万人と見込まれています。30年以内となると、いま20代の若者であれば自分たちが社会の中心となって働いている間に起こる計算になります。大災害は決して他人事ではありません。常に自分の身にも起こりうることを忘れないでほしいと思っていますし、私も東日本大震災での絆を大切にしつつ、教訓を伝え続けていくつもりです。 第1938号 令和3年3月9日(火)発行(47)陸前高田市で活躍したモバイル型膜処理システム大船渡市の熊井さんとの出会い 東日本大震災では人との出会いも印象深いです。冒頭でも触れましたが、東北大学の大村先生をはじめ、その後の私の人生に影響を与えるような出会いがいくつかありました。岩手県大船渡市の熊井勝幸さんもその一人です。 大船渡市を訪れ、初めて熊井さんに会った時の印象は忘れられないものがあります。どこでも、被災された自治体の方々は支援に赴いた我々に感謝の言葉をかけてくださったのですが、熊井さんの表情にはいぶかしむような、少し不機嫌そうなもの(と言ったら失礼かもしれませんが)を感じました。他にそういうタイプの自治体職員に出会わなかったので、「どうしたんだろう? 何か自分が悪いことをしたのか?」と考えたことを覚えています。被災状況や対応経過を聞いてみると、熊井さんは、免許を持っている重機を自ら運転していち早くガラを排除したり、既存の水路を破壊してでも汚水の流路を確保、同時に漁業組合に汚水を流大船渡市の熊井さん(左)との初協議

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