(46)第1938号 令和3年3月9日(火)発行 積もるべきだと思っています。仮に余ったとしても、他の地域にまわすなど、あとで調整できるからです。 東日本大震災では、6月1日までに109市町村から延べ7000人もの職員が現地で支援にあたりました。民間企業を含めると、その人数は膨大です。余震による津波警報も毎日のように出ていましたので、各支援本部の支援者が毎日、安全に現場から戻ったかどうかは確認していました。 また、少し落ち着いてくると現地で大変だったのは、マスコミや、国会議員・学会など視察者への対応です。これは私がほぼ一手に対応しました。ある自治体で起こったことですが、「逆流した下水がマンホールから溢れている」とラジオで報道されたことをきっかけに、一気に他の報道陣や心配する市民、本省への対応に追われました。災害時に機能停止した処理場で仮設の沈殿池を設置して塩素消毒する方法を取りますが、正直、濁水の中での消毒効果には限界があります。ただ、これにはマスコミ対応の側面があるのです。「生下水が溢れている、垂れ流している」と報道されないために、「消毒して放流しています」と伝えることで大げさな報道による混乱を抑えるとともに視覚的なアピール効果にもなるのです。技術委員会の役割 自治体にとって早期復旧とともに、最大の関心事は災害査定で復旧費用が認められるかどうかです。このため、本省で技術委員会をすぐに立ち上げてくれました。技術委員会は、復旧や復興のあり方を示すだけでなく、実は当面の目的として現場で必要となる技術基準を迅速に示すという重要な役割があります。技術委員会で設定した基準に沿った復旧であれば通常は災害復旧事業費として国がその費用を負担してくれるからです。例えば東日本震災では大規模な処理場は暫定施設で数年にわたり水処理を行うことになりましたが、暫定施設の放流水質基準はなく、その費用が災害復旧として認められるかどうかは自治体にとって大きな問題でした。そのため、技術委員会で暫定施設の放流水質基準を決めていただき、自治体は安心して基準に沿った復旧を行うことにつながりました。これ以外にも、私が現場で自治体の方々と様々な応急復旧方法等を検討し、それが過去の大震災などで前例のない方法であれば、すぐに本省に連絡し、新たな技術基準を技術委員会で迅速に協議してもらう、という流れをつくっていました。もちろん、前例がなくても国交省下水道部と財務省の協議だけで済むものも多数あります。要は、遠慮しないで国交省に相談することです。 さて、現地にいる時は当然、国交省下水道部とのコミュニケーションも密にとっていました。本省から財務省に駆け込んでくれたり、助けられたことも多かったのですが、お互いに反省すべきはもっと責任分界点を明確にしておけばよかったなと思っています。本省からは逐一詳細な情報を上げるよう求められていましたが、私としてはもっと現場に任せていいのではないか、もっと現場に分権してもらった方が迅速な復旧には効果的ではないかと思っていました。災害体制の分権問題ですね。 それから、下水道以外のインフラの復旧情報をチェックしておく大切さも学びました。下水道の復旧作業に直接関係している水道や電気はもちろんですが、道路が復旧されておらず現場へ行けなかったことがありました。「横(のインフラ)を見る」、この心がけは災害時には特に大事だと思います。縦の命令系統と横の情報共有。縦糸と横糸。コンセプトは「糸」ですね。何でもモノが言える雰囲気づくりを 復旧作業は、BCPに書かれていることをそのままなぞれば良いわけではありません。当意即妙というか、その場に応じた最も適切な解決策を臨機応変に考えることが求められています。これには経験も必要ですが、もう1つ、チーム力も問われます。様々な自治体や組織から応援に来ているチームで、いかに自由にアイデアを発言できる雰囲気をつくるかが大事と考えていました。普段なら一笑に付されるようなアイデアも、災害時には最適な答えになりえます。 例えば津波で処理場が機能を失った岩手県陸前高田市では、応急的な対応としてモバイル型の膜処理システムを設置しました。この製品は、もともとは海外のレイバーキャンプ(季節労働者のための宿泊施設)で使われているシステムの転用です。こうしたアイデアも安心して何でもモノが言える雰囲気だったからこそ出てきたもので、そうした雰囲気づくりこそリーダーの役割だと考えます。このアイデアは、まさに“現場イノベーション”と言えるものですが、災害時だけでなく、平時にも通ずるものではないでしょうか。 第3種郵便物認可
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