コンセプト下水道 第1回~20回
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第3種郵便物認可 分野ではこれまで主に技術系の研究者が活躍されてきました。21世紀に入って成熟社会を迎え、マネジメントの重要性が強く意識されてきた中で、我々社会科学系の研究者がもっと活躍できるようになっていかなければならないと考えています。知れば知るほど複雑な事業ですが、だからこそやりがいもあり、楽しく研究させてもらっています。加藤 経営学の研究者で上下水道分野を扱う人が絶対に必要ですよね。ただ、道路や鉄道など他のインフラに比べても少ない気がします。そこが大きな課題であり、私も、どうしたら経営学の若い先生や学生に上下水道に目を向けてもらえるかを考えて、商学部の授業に参加したり、講義をしたりしました。もしかすると、地域独占であることが魅力を減じているのかと考えたこともありましたが、最近の官民連携(PPP)の動きは惹きつける要素になるかもしれません。ただ、研究者数は現状では少ないです。浦上 圧倒的に少ないですね。これまで建設の時代はマネジメントがそれほど重視されてこなかったからではないかと思います。加藤 オープンデータが少ないということも研究者が少ない理由として考えたこともありましたが、世界と比べてどうなのですか?浦上 いえ、その理由は考えづらいですね。逆に日本の上下水道のデータは海外に比べて豊富で、海外では分析できないようなことが日本では分析可能な場合があります。ですから、なぜ、その豊富なデータを生かしてこなかったのかという残念な気持ちの方が強いです。もっと国内で上下水道経営を研究する人間が増えれば、今以上に面白い成果を発信できるはずだと信じています。加藤 下水道に関する全国的な統計なども、単純にこれまで通りでなく、研究者の声を聞いてデータのとり方を工夫するということもありえます。要は関係者の問題意識の共有です。 さて、上下水道経営学の世界でも人材不足という課題を抱えているとのことですが、若い研究者に入ってきてもらうにはどうしたら良いと思いますか?浦上 少子化で大学の数も減るのではないかという話もありますし、大学の学部学生を上下水道分野に引き上げてくるというよりは、今後は、ある程度、実務経験を持った若い人に研究の世界に入ってきてもらうのも1つの方法です。合わせて、これからは技術者をマネジメントのできる人材に育てていくことも考えていく必要があると思っています。加藤 自治体や民間企業は経営を学びたいが誰に学べばいいか分からないという声がたくさんあります。そういう意味では、学とマッチングする部分もあるかもしれません。民間との共同研究で人材も受け入れる制度は多くの大学で取り入れています。私の研究室でも昨年は共同研究として会社業務と兼務で1名派遣いただいた会社がありました。リーダーの発掘・育成がカギ加藤 中小自治体の経営改善策として広域化・共同化や官民連携といった施策が求められていますが、経営学の専門家から見て、こうした施策の課題や成功のカギは何だと思いますか。水道と下水道の相違点なども踏まえお話しください。浦上 まず思うのが、水道と下水道の2つはかなり違う事業であるということです。上下水道で「垂直統合」という言葉が使われることもありますが、それぞれの目的やシステムを考えると全く垂直ではないですよね。産業としても異質なものだと思います。 一方、自治体の動きとしては上下水道の組織を統合する傾向が強く、事実、我々がアンケートをとっても上下水道化をめざす自治体が非常に多いという結果が得られました。しかしながら、海外における最新の研究では、上下水道の組織統合は経済的にメリットが少ないという成果が報告されています。特にメリットが見込めないのが、それなりの規模がある水道と下水道の統合だと言われています。英国では上下水道事業が民営化されており、全国に10の上下水道会社があるのですが、一時期、水道と下水道を分離しようという議論もあったくらいです。加藤 確かに規模の大きい自治体が組織統合しても、結局、組織内は水道関連組織と下水道関連組織に分割されて融合しないため、シナジー効果が出にくいです。かえって分割されている方が、それぞれのワークフローとしては効率的な場合もあります。新たなValueは生まれないですが。私も現職時代に水道との連携政策によるValueがないか、厚生労働省と定期的に議論しました 第1935号 令和3年1月26日(火)発行(37)

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