コンセプト下水道 第1回~20回
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(36)第1935号 令和3年1月26日(火)発行 変わりますよね。私も学生時代は、違う分野を目指して勉強していましたが、建設省のOBでもあった恩師である指導教官が「加藤は建設省が向いている」との根拠不明でかつ強引な勧めから就職し、たまたま最初のポストが下水道。そこから下水道の「道」に入り、気がつけば水ビシネスでは世界の各地に渡航して日本の下水道を発信し、今は下水道イノベーション研究室の教員として学生や企業の若手の指導をしています。考えてみれば、恩師と同じ道ですね。神様の計画やプレゼントとしか思えないような、ある意味、スピリチュアルな世界です(笑)。 ところで、まじめな話に戻りますが、上下水道経営の具体的な研究テーマはどういうものになるのですか。浦上 広域化・共同化や官民連携の実証分析がテーマです。アプロ―チとしては統計学、すなわちデータ分析が主で、具体的には事業の生産性や効率性を計測します。私の博士論文は“規模の経済”の計測でした。加藤 経済学などでは頻繁に聞くキーワードですが、上下水道事業における“規模の経済”はどういうふうに捉えればよいとお考えですか。言葉としてはよく聞くのですが、正しく理解している自信がなく、この機会にお聞きしたいです。浦上 “規模の経済”はもともと経済学の基礎的な考え方です。基本的には規模が大きくなるほど平均費用は下がりますが、最適となる規模を超えると非効率な部分も出てきます。この費用的にメリットが出る最適な規模までの範囲を“規模の経済”と呼んでいます。規模の経済は独占を認める有力な根拠となりうるのですが、上下水道事業は装置産業ですから、初期投資が大きく、規模の経済はある程度大きな規模まで働くだろうと考えられていますので、経済学的には上下水道は地域独占を認めなければならない産業ということになります。 一方で、当然ですが、上下水道事業は地理的・地形的な制約を大きく受けますので、規模の拡大は容易ではありません。我々がこれくらいの規模が最適ですよと言ったところで、それが現実的でないケースが多々あります。“規模の経済”自体をそもそも議論する意味はあるのかという趣旨のコメントをいただくこともあります。現場で何か起こっているかを理解しなければ、いかに我々がデータを使って分析しても「絵に描いた餅」になってしまいます。現場との整合性がないと意味がありません。ですから私自身は積極的に下水処理場や浄水場に足を運びますし、道を歩くときはマンホールの位置に気を配るなど上下水道の存在を肌で感じるよう心がけています。こうした肌感を研究に反映させながら国の政策との整合も図っていきたいと考えています。研究成果は積極的に海外で発表加藤 私は、集合型の下水道と浄化槽のどちらが効率的かというような議論に若い頃から慣れてきてしまっているので、「規模の経済」の理論が上下水道の地域独占性の話につながるというのは気が付きませんでした。また、今後、着実に進む広域化の理論構築としても先生の研究は重要です。 ご自身で大事にされている研究活動のスタンスやモットーはありますか。浦上 上下水道は地域に根差した事業ですから、どこかローカルなイメージを持たれることが多いのですが、実は非常にグローバルなテーマでもあります。そういう意味でも、海外の人たちは日本の上下水道の事情を知りたがっています。しかし日本では、衛生工学などの技術系の研究成果は積極的に発信してきたと思いますが、残念ながらマネジメントに関する情報は外に出ていかなった。世界中の研究成果を見ても日本発のものは非常に少ない状況です。 こうした状況だからこそ、海外で研究成果を発表しなければという使命感もありますし、日本を背負って海外の舞台で勝負をしたいという強い気持ちも持っています。グローバルなスタンダードの中で、日本の上下水道事業がどういう立ち位置にあるのか、今後どういう方向に向かうべきなのか。こうした研究を必ず誰かがやらなければいけないとするならば、そこに私の存在意義があるのではないかと思い、積極的に海外に出て活動をしています。 また、上下水道事業は今後ますます、産官学の連携が強く求められるのではないかと思っています。学の 第3種郵便物認可浦上先生(対談は12月上旬にオンライン上で収録)

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