(30)第1905号 令和元年11月5日(火)発行 グローバルへの思いはもともと持っていたのですが、ローカルの視点を持ったのは佐賀市の取り組みを偶然に知ったのが大きかったと思っています。 佐賀市では、下水道資源を使ったガス発電に加え、コンポストによる農業利用、下水処理水の季節別運転による海苔の品質向上など、まさに水、食、エネルギーのネクサスを体現した取り組みを行っています。なかでも、農業利用については、市役所、農家、地域の環境NPOが一体となって取り組んで飛躍的に利用者を増やしていることに驚きました。コンポスト等の農業利用が政策的になぜチャレンジかと言うと、農家の理解、消費者の理解、下水道管理者のやる気、この3つが全て揃う必要があるからです。佐賀市はまさにこれが上手くいった世界的なモデルです。佐賀市を調査して、農業利用を通じて下水道を地域振興の核にすることは決して不可能ではないと思いましたし、イノベーションの水平展開の方法論についても勉強しました(その方法論については次回以降に詳しく書きます)。 このような、いろいろな方との偶然の出会いや変化球のようなミッションから生み出したのが「日本の下水道を世界ブランドに」と「水・食・エネルギーで地域振興」という2つのコンセプトです。このコンセプトは今でも「私の下水道ビジョン」の中核になっています。 広く知られている「ビストロ下水道」は、コンセプトではありません。あくまで、世の中の空気感を変えるためのキャッチフレーズです。名付け親だからこそ言わせてもらうと、実は、ビストロ下水道というネーミングを前面に出したのは多少の後悔もあります。というのも、ビストロ下水道というワードが想定以上に当たってしまったことで、フレーズだけが独り歩きしてしまい、本来のコンセプトが忘れられているきらいがあるからです。下水道の知名度アップなどビストロ下水道が果たした役割も大きいと思っていますが、ここらで今一度、コンセプトに立ち戻って、ビストロ下水道がめざす本来の姿をご理解いただけると嬉しいです。「ビストロ下水道」成功のための3つの戦略と地域愛 下水道と食を融合し、国際展開と地域振興につなげる「ビストロ下水道」に求められる戦略は大きく3つあると考えています。第3種郵便物認可イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第3回】水、エネルギー、食の融合 国交省の下水道事業調整官を務めていた頃、当時の岡久宏史部長が突然、「農業利用にもっと光を当てたいので、誰かアイデアを出してほしい」と言われました。当時、資源利用のターゲットはエネルギーと考えていたため、「はぁ? 今さらコンポスト?」というのが居合わせた部内職員の反応。これは何を目的とした、どういう視点で考えるべきなのか? なかなかチャレンジングで当惑(?)のミッションでした。 それからしばらくして、北海道大学の丹保憲仁教授に日本の下水道の国際展開についてご意見をうかがう機会がありました。丹保先生が「大事なことは、水、食、エネルギー、この3つをいかにネクサス(融合)させるか。例えばシンガポールにない日本の強みは農業」と言われました。その言葉でピンときました。日本には農業という世界に誇れる文化がある。水ビジネスの国際展開にも力を入れて取り組んでいた私は、日本の下水道ブランドを国際舞台に出していく時に、食との融合が必須だと考え、俄然、農業利用への意欲が湧いてきたのです。 今振り返ると、岡久部長から与えられた突然のミッションと丹保先生のご指摘、この2つが「ビストロ下水道」を生んだ原動力になっています。そして、ほぼ時を同じくして佐賀市との出会いがありました。グローバルとローカル 「下水道と食の融合」の具体化に向け、まずはコンセプトを思案しました。考えれば考えるほど、コンセプトには、グローバル(世界)とローカル(地域)の双方へのアプローチが必要との認識が強くなっていきました。「日本の下水道を世界ブランドにしたい」というBISTRO下水道~グローバルとローカル~加藤 裕之東北大学特任教授㈱日水コン技術統括フェロー
元のページ ../index.html#5