コンセプト下水道 第1回~20回
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第3種郵便物認可 誰かが味方になってくれる加藤 皆さんのお話を伺うと、エネルギーややりがいの源として、人と「つながる」ということが共通したキーワードではないかと感じました。 続いて、ビストロ下水道を進める上で最も困難だったことと、その克服法についてお聞きしたいと思います。また、ビストロ下水道を通じて学んだことや教訓みたいなものがあれば教えてください。有地 大変だったのは風評被害です。きっかけは有機農産物JAS規格の制定でした。自然由来の肥料しか使えないということで、決して下水汚泥由来の肥料について書かれているわけではないのですが、農業関係者に誤った解釈をされてしまい、コンポストが何年か売れない状況が続きました。この状況をどう解決したかというと、コンポストの製造から販売まですべてをJA(農業協同組合)に委託しました。JAの指導員さんから、下水汚泥由来の肥料を使っても問題ないことを説明してもらうことで、農家の皆さんに正しく理解いただき、従来の販売量に回復しました。 この件で得た教訓は「餅は餅屋」です。下水道マンだけでは解決できないこともある。肥料のことはその道の専門家であるJAが一番良く分かっているというわけです。こうした経緯で、平成29年度から行っている やりがいは、誰かに喜んでいただけることと、皆と問題や理想を語り合う時間です。多くの方に出会ってお話をしている時は、あわよくば美味しいお酒もあると尚更いいですね。 私の教訓の1つが、作家の今東光氏による「人生は、冥土までの暇つぶし」です。人生は暇つぶしなので、上等の暇つぶしに全力を注がないといけないと思っています。米国の神話学者、ジョーセフ・キャンベルの「Follow your bliss!」(至上の幸福に従え!)も大事にしている言葉です。映画監督の林弘樹さんから教えていただきました。私に必要だと思ったそうです。他にも、「漂えど、沈まず」(パリ市紋章)や「自分は、自分の言葉通りの人間になる」といった言葉も好きですね。「下水道資源の農業利用に関する共同研究」にあたっては、市、山形大学、日水コンに加えて、JA鶴岡にも参加いただいています。前田 私はかなりのプラス思考であるため、困難だったと思ったことは正直ありません。 平成18年の4月から下水道部局に赴任したのですが、当時は下水汚泥の最終処分として焼却が計画に位置づけられていました。その後、堆肥化に舵を切ると、一部の議員から猛攻撃を受けました。ただ、その攻撃を受けたおかげで、味方になってくれる人がたくさん出てきました。一番大きかったのは地域の人たちです。「あなたが言っていることは正しい、私たち農家としても下水汚泥由来の肥料を使いたい」と言ってくれました。上手くいかないこともありましたが、農家に出向いて失敗例を直接聞きながら、一緒になって解決していきました。斎藤 今でも困難なのは、職場など身内の理解を得ることです。凝り固まったパラダイムを揉みほぐすのは骨の折れる作業です。 克服法として大切しているのは“常にポジティブに素直に”という考え方です。その時点で最良だと思うことは、ことあるごとにいろんな人たちに話しますが、それで間違いや改良点を学ぶこともあり、より最適な理論を手に入れることができます。時に味方が現れて、協力を得られることもあります。 魯迅の『阿Q正伝』に描かれる「精神的勝利法」のように、しぶとく、根拠のない自信を持ちつつ、でも明るく前向きに素直に考えて、克服できるまで克服し続ける。好きな言葉の「漂えど、沈まず」にも通じる精神かもしれません。 農業は広く奥深いもので、個々の経営方針によっても理想は様々です。理想像を一概にまとめるのではなく、多様性を受け入れ、尊敬の気持ちで農家に接すること。これがビストロ下水道を通じて得た教訓の1つです。加藤 一人ではできないプロジェクトですし、「誰かが味方になってくれる」ということは皆さんに共通するポイントですね。現場の人 第1933号 令和2年12月15日(火)発行(41)有地氏(鶴岡市)前田氏(佐賀市)

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