第3種郵便物認可 ら。 また、欧州と日本のインフラのつくり方の違いで思い出したのですが、西洋の庭園は、上空から見ると美しくつくられている。なぜならキリスト教思想のため神の視点から美しく見えるように設計されるから。一方、日本の和風庭園は、人が自然と相対し、同じ目線から美しく見えるように設計される、と著名な造園家の方に聞いたことがあります。少し大げさかもしれませんが、宗教もインフラのあり方に影響するのかもしれません。 ところで、人口減少期の新たなシステムのあり方を考える上で留意すべきことはなんでしょうか。楠田 人口減少期は次のシステムに変える必要があります。その際、都会からではなく、その周辺からという意識を持つべきです。私は、イノベーションは周辺で起こると考えています。そして、そのノウハウを都会に戻すイメージを描いています。加藤 あとは、こういうことを考えられる人材がいるかという問題ですね。楠田 私は、出てくると思いますけどね。人間は誰だって必要に迫られれば考えますから。「必要は発明の母」です。加藤 持続的な社会を実現させるという観点で、これからの人材に求められる資質とはどういうものだとお考えですか。楠田 国内の市場が小さくなっており、海外でモノやサービスを売らざるをえないという現実がありますが、企業の若手も学生も海外に出たがらないという印象があります。そこには国内の方が生活しやすいからという理由があるように思います。若い人は今の生活が未来永劫続くものだと思い込んでいるようですが、これは誤解です。歴史を見れば分かるように、今の平和な世の中がむしろレアケースです。レアケースを信じるとリスク管理にはなりません。どんな事態が起こっても動じない、リスク管理に長けた人材が求められるのではないかと思いますし、そのために常に実力を磨き続けていくことが大事ではないかと考えます。自然も含む「インフラ」という大きな概念加藤 人間は物質的に裕福でなくとも、集まってコミュニティーを形成することで幸福感を得られるのではないかと最近感じています。そういう意味で言えば、「コミュニティー形成に貢献できるインフラ」という思考もこれから大切になってくるのではないかと考えているのですが。楠田 インフラを上下水道だけでなく、例えば文化施設などにも拡大して考えれば、地域のフェスティバルとして捉えることもできるのではないでしょうか。しかし、これも都会というよりは地方に馴染みそうですけどね。加藤 なるほど。お祭りもインフラの1つというわけですね。インフラを考えるときに、平常時と非常時という視点がありますが、ハレとケの視点からも考えると幅が広がるとともに、先生のお話しされるようなインフラが地域の文化や市民の生活、さらには心理にまで影響を与えてくる気がします。楠田 インフラには定義があるのでしょうが、その時その時の社会の状況に応じてその定義も変えていく必要があるでしょうね。加藤 インフラは素材でできた「モノ」という固定観念があったのですが、自然や生態系、風土との融合や、目に見えない地域の文化をつくる役割があると感じました。そして、何よりも目的は「持続的な社会づくり」です。インフラに携わる一人としての意識がまだまだ足りなかったことを反省するとともに、プライドも持つべきと感じました。 本日はどうもありがとうございました。 ◆「下水道イノベーションセミナー@本郷」のお知らせ◆東京大学下水道システムイノベーション研究室主催のセミナー、第1回「地域の歴史・文化・風土から考える未来のインフラ」が12月17日(木)の15:00~17:00にZoomによるオンライン形式で開催されます。今回のゲスト、九州大学の楠田哲也先生のほか、国総研主任研究員の田本典秀氏、日水コン事業統括本部事業戦略部長の服部貴彦氏の3名を講師にお招きし、地域の歴史・文化・風土の視点からインフラのあり方について語っていただきます。後半は私(加藤)を加えた4名でディスカッションも行います。参加の申し込みは研究室HP(https://www.envssil.t.u-tokyo.ac.jp/)に掲載中の専用フォームからお願いします。第1931号 令和2年11月17日(火)発行(39)
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