コンセプト下水道 第1回~20回
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(38)第1931号 令和2年11月17日(火)発行 す。いわば都会向けの施策です。一方、人口減少は都会では起こりません。都会の周辺で起こります。これからは都会の周辺に焦点を当てなければいけないと考えます。 今後、人口減少が進む地域では集中処理がなくなり、個別処理に移るだろうと考えています。その際、選択肢としては浄化槽もあると思いますが、土地が広いアメリカでは既に普及している「土壌処理」という方法もありかと思います。個人が管理できる日曜大工的な処理方法で、アメリカに住む私の友人はそれを採用し、詰まった汚泥を掃除したり、管を引き直したり、そうした判断をすべて自分でやっているそうです。加藤 それは昔に帰るというか、原点回帰に近いイメージでしょうか。技術やシステムは新しいけれども、個人でモノをつくり管理し、自らの生活様式を大切にする。未来型でありつつ、コンセプトとしては昔を学ぶ。佐賀市が提唱しているスローガン「昔に帰る未来型」のような。これからは、こうした発想が必要になってくると。楠田 そうですね。皆、忘れているだけとも言えますけどもね。そういう意味では「再発見」がキーワードかもしれません。 私は、技術開発が持続可能な社会の実現に貢献すると信じています。例えば再生可能エネルギーです。効率的な太陽光技術や風力発電技術が台頭し、石油など限りのある資源に頼る方法がゼロになれば、有限性を技術で消すことができるわけです。 エネルギーは技術で解決できる可能性があります。同時に、では下水道はどうだろうかと考える必要があります。個人的には日曜大工的に自らメンテ可能な小型の膜処理技術に期待しています。今後将来に向けて大きく時代が変わる時には分散型にしておく必要があるのではないかという気がしています。加藤 先生の話を聞いていると、今の技術開発に足りないのは「この技術でこういう社会をつくりたい」という熱意ではないかという気がしてきました。例えば「資源循環」などのお題目に沿った技術はありますが、いかにもテーマに合わせましたという感じで、どこかでアイデアに限界をつくってしまっている。楠田 思考の境界を今より広げることができればアイデアは増えるはずです。 企業が商売のことを第一に考えることもよく分かります。しかし長い目でみれば、目先の商売を度外視して、技術の芽を育てるという視点も大事です。そして、そうした技術開発には公的資金を入れざるをえないと考えます。そこが「基礎研究」と称される部分です。加藤 その技術がものになるかどうか、確率が低くてもやるしかないというわけですね。楠田 そうです。大学の基礎研究でものになるのは100個に1個ですから。ただ最近は大学でも「目的設定型」の研究が主流になっており、基礎研究が生まれず、日本人のノーベル賞が出てこないのではと危惧されています。イノベーションは周辺で起こる加藤 持続可能な下水道を考える上で時間軸の視点が大事だという話がありましたが、もう1つ、地域の歴史や風土、文化を考慮したインフラという視点も大事ではないかと考えています。先生はどう思われますか。楠田 インフラを使う人は、その土地に馴染む生活様式を持っています。その生活様式は長い歴史の中でつくられたもので、それとインフラは適合しているのがベストだと考えます。国や地域の本質を地理的条件から説明する「地政学」という学問がありますが、インフラは地政学に従わざるを得ないという気がしますね。加藤 改めて、自分たちのインフラに愛着や誇りを持つためには、インフラそのものを地域の歴史や文化の1つと捉えることが大切かなと思います。楠田 そうですね。ただ、日本の文化が日本の下水道をつくり出したかと言われると違いますよね。欧州の地政で育った技術を明治時代に“借り物”として受け取ったわけで、それが今も続いています。加藤 日本で言うと、“一周目”は早く進める必要があったため、技術を標準化し、効率性を高めるために金太郎飴のように整備を進めてきました。これは、決して間違った方法ではなかったと思います。ただ、これからの“二周目”、つくりなおしの時代は、本当に“借り物”でよいのかをじっくりと考え直さなければなりませんね。耐用年数から考えると、これからの50年、場合によっては100年先まで残る施設をつくるのですか 第3種郵便物認可

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