止第3種郵便物認可 楠田 私が教授になったばかりの40代の前半だったと思いますが、京都大学の末石富太郎先生に言われた「目の前に見えているものは50年後にはすべてゴミになっている」という一言ですね。たとえ今は有用なものでもいずれは価値がなくなっていく。では、そうなった後にどうするのか。こうした“時間軸”というモノの見方の必要性を教えてくださり、驚きを受けました。加藤 私の認識では、科学者は、今起こっている事象を数値化により「見える化」することで真実を客観的、論理的に表現することが大きな仕事だと思っていますが、そこに未来社会のあり方も考える“時間軸”が入ってくるのは、確かに全く別の発想ですよね。ありそうでなかった発想で、今日のテーマの1つである「思考の先」を考える上でも大事なエピソードかもしれません。技術の原点回帰、再発見加藤 少しずつ本題に近づいていきたいと思うのですが、先生は今、持続可能な社会のために技術がどのように貢献していくかという「環境技術思想」をテーマに、土木学会などで主張されています。これはどういう思いから始められたのですか。 先生の提言されている「持続型社会の条件」には、水・食糧・エネルギー・資源等の安定的供給、自然・生態系の維持のような下水道が直接または間接的に貢献している項目が、世界平和や国際ガバナンスと並列に述べられていることはとても刺激的でした。下水道法にある、生活環境の改善や水質汚染の防止が我々の目的でなく、全く別の世界のように感じていた戦争のない社会を実現するための活動等とともに、「持続型社会の構築」を究極の目的として我々は下水道事業に携わっているのだという気持ちになります。楠田 最近、下水道でよく言われる「事業の継続」という言葉があります。しかし、よくよく考えてみると、下水道が継続するには、まずは社会が継続していなければいけません。そこで、持続可能な社会であるにはどんな条件が求められているのかをまずは整理する必要があると考えました。 合わせて、持続可能な社会にふさわしい下水道事業とはどういう形なのかも考えたいと思いました。とりわけ日本の場合は、時間軸の中で「人口減少」を受け入れる必要があります。そこに技術の連続性があるのか、それとも全く新規の技術が登場してくるのか。とても難しい問いですが、興味深いテーマです。加藤 技術の連続性を確保する場合は、オペレーターが新技術にスムーズに移行できるかがポイントになりそうです。PPPにより技術開発と維持管理が同一会社になったり、ICT管理の拡大で暗黙知の領域が少なくなれば、確保が容易になるかもしれません。 一方、移動手段が馬車から自動車になったように、下水道の技術がガラッと変わる可能性もあるわけですね。楠田 ただ、自動車などの個人の所有物と、公共的な社会資本の場合は勝手が違うかなという気もします。個人の所有物は選択が可能です。しかし、社会資本はそうはいきません。 下水道は人が密集している地域から整備していきま【参考】持続型社会であることに求められる要件・ 地域的・世界的な治安と平和の維持(世界的戦争のないこと)・ 気候が人類や生態系が対応できるより速く変化しないようにすること・安定的生活を崩壊させる災害の抑制・死に至る感染症の大流行(パンデミック)の抑制・水・食糧・エネルギー・資源等の必要物質の安定的供給・人類の持続性を担保できる自然や生態系の維持・持続性を担保できる経済システムの維持・ 持続性を直接的、間接的に妨げる技術の使用禁止と開発の停・ 所得格差を是正する仕組みを含む安定的国内・国際ガバナンスシステムの維持・持続性を妨げない意思決定システムの維持・持続型社会を維持することについての人々の合意 など※ 環境新聞社『月刊下水道Vol.43 No.8』楠田氏執筆「環境技術思想のパースペクティブ」67ページより引用第1931号 令和2年11月17日(火)発行(37)
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