× (36)第1931号 令和2年11月17日(火)発行 まずは先生のプロフィール的な話から。ご出身はどちらになるのですか。楠田 生まれは大阪の岸和田市になります。冒頭に加藤さんがビジネスセンスを感じると言ってくださいましたが、それはもしかすると生まれ育った環境が影響しているのかもしれません。大阪は商人の町ですからね。実家が商売をやっていたわけではありませんが、大阪の人は大なり小なり商売感覚が備わっているように思います。 大阪の高校を卒業後、九州大学に入学し、土木工学を専攻しました。九州大学には大学院修了後も教員として残り、定年まで勤めました。その後、北九州市立大学の国際環境工学部化学科で教鞭をとり、2年前からは広島大学の客員教授を務めています。広島大学では環境倫理や環境原論などを教えています。 これまでやってきた研究は大きく「要素研究」と「システム系研究」の2つに分けられます。要素研究では、凝集や沈降濃縮など「水と粒子」にかかわるテーマを皮切りに、間欠曝気や嫌気性処理、埋立地浸出水の処理、スマートゲル利用、ディスポーザー処理後の資源回収、マンホール部のエネルギーロスなど、様々な研究に取り組んできました。硝化の研究の一環として河川で粒子の24時間観測を敢行したこともあります。深夜にボートを出して水質計測を行うこともあり、学生には嫌がられましたが、ボートから見上げる夜空の星は格別に綺麗でしたね(笑)。 一方、1980年代にアメリカへ留学したことをきっかけに、当時、ハワード・オダムという学者が唱えた「システム」という概念に影響を受け、要素研究だけでなく、生態系をシステムと捉える「システム系研究」の必要性も痛感しました。その後、システム系研究としては、中国・黄河の水資源有効利用調査や有明海の再生プロジェクトなどに携わりました。加藤 先生は教育者としても多くの人材を輩出されてきたわけですが、逆に先生が人から言われて印象に残っている言葉などありますか。第3種郵便物認可イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー)楠田先生コンセプト下水道【第16回】(特別対談「熱い人と語ろう!」Vol.7) 「コンセプト下水道」の特別編として、ゲストを迎え、下水道やコンセプトについて語り合う「熱い人と語ろう!」シリーズ。第7回のゲストは九州大学名誉教授の楠田哲也先生に登場いただきました。「50年後にはすべてゴミに」加藤 国交省の現職の時は、何か大きな問題が起こるとまずは楠田先生に相談していました。先生の教え子の皆様によると、研究への姿勢は厳しく、逃げ出した人もいたと聞いていますが、幸い私はそういう経験をせず済みました(笑)。学識者としての見識と実績はもちろん、それにとどまらないビジネス的なセンスをお持ちだという印象を当初から持っていますが、最近はより一層、科学研究の枠を超えた根源的な哲学とも言える思想を発信されているように見受けられます。本日はそのあたりの思いも含め、いろいろと伺いたいと考えています。楠田 私にとっても困った時に相談する相手が加藤さんで、必ず実行可能な案を示してくれますし、何度も救われました。普通は自らの思考に境界線を引いてしまうのですが、加藤さんにはその境界線がなく、無限の広がりがあるのではないかと思うことが多々あります。その発想方法や思考形態は大いに参考にさせていただきました。加藤 褒めていただき嬉しいですが、私の場合は何も考えていないだけかもしれません(笑)。いずれにせよ、境界線を超えるという話は今回のテーマの1つだと考えています。楠田 哲也九州大学名誉教授持続のための技術思想~時間、思考、領域の境界を超えて~加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授
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