第3種郵便物認可 続けられきた中で、大事されているコンセプトのようなものはありますか。小堀 一人ひとりの強みを活かし、意義あることをみんなで楽しく。これが、コンセプトと呼べるかは分かりませんが、私が常に心がけていることです。どんな学問も研究、教育、社会貢献の3つの役割があります。いずれも一人ではできませんし、楽しくないと誰もついてきてくれません。特に市民科学の市民は、自分の時間やエネルギーを、いわば無償で提供してくれるわけですから、市民の方たちが「これは面白い、これは楽しい」と思ってもらうことがまずは大事だと考えています。市民科学の4つの要素加藤 それでは本題の市民科学についてより詳しく話を伺っていきたいと思います。まず、市民科学と聞いてピンと来ない読者もいると思いますので、市民科学とは何ぞやということから説明いただけますか。小堀 市民科学とは、「科学を職業としない一般の人が自分の知力、時間、エネルギー、リソースを使って科学研究のプロセスに参加することで、多くの場合、研究者や多様な組織と協力して行う」。これが国際的にも最も一般的な市民科学の定義です。ただ、現在は他にもいろんな定義が出てきており、市民という言葉自体に市民権を持っていない人を除外するような意味合いもあるという理由で市民科学という言葉を使わないようにしているところもあります。例えば市民科学のメッカの1つでもある米国のロサンゼルス自然史博物館では、シチズン・サイエンス(市民科学)と一緒に、“コミュニティー・サイエンス”という言葉を使っています。 話が少しそれましたが、科学を職業としない一般の人が科学研究のプロセスに参加するため、市民科学のプロジェクトは多くの場合、研究者と世の中の多様な組織と協働で行われます。そういう意味でいえば、市民科学には、研究機関や行政、企業、NPOも含まれるかと思います。 市民科学は、特にこの20年で欧米を中心に急速に発展しました。従来は生物多様性(生き物)や気象、天文学が中心だったのですが、今は対象となる分野が歴史や社会科学、健康、伝染病なども含めて非常に多岐にわたっています。参加者の規模も大きくなりました。中には100~150万人が参加する大規模なプロジェクトもあります。手法も多様になり、進展の速度も急速に上がり、得られるデータの量や質も飛躍的に向上しました。私はこれを“市民科学の新たな時代の幕開け”と呼んでいます。この背景として、高学歴化や高齢化、環境意識の高まりなどの“社会の変化”、インターネットやスマートフォン、計測機器の普及により研究者と一般の人が共通の基盤で情報を交換できるようになった“情報社会の進展”があげられると思います。 従来の市民科学は、研究者あるいは行政が企画し、市民は情報収集を担当する「参加型」がほとんどでした。しかし今は、市民がテーマの設定やデータの整理、成果の発表も含めた多様な研究プロセスにかかわる「協働型」、市民が研究者らと対等のパートナーとして科学研究プロセスのすべてに携わる「共創型」も増えてきています。特に「共創型」は、地域の課題解決やまちづくり等にも活用されており、“コミュニティー・サイエンス”と呼ばれることもあります。加藤 先生はよく市民科学には3つの要素、または4つの要素があると言われていますよね。小堀 はい。市民科学というくらいですから、科学の研究プロセスに市民が関わることは、当然で大事な要素です。また、市民が研究活動に関わることを通じて研究の方法を学び、知識を習得し、その結果、価値観や参加意欲、行動の変化など教育的要素による成果も得られます。さらに、研究や教育を通じて得られたこれらの成果を、環境保全や自然災害、温暖化等の社会の課題解決に活かすことも、市民科学の重要な要素です。これら「研究」「教育」「社会貢献」の3つが市民科学の要素であり、重要な役割だと考えています。 しかし、最近はこの3つに、「政策提言」を市民科学の4つ目の要素に加える傾向が高まっています。特にEUでは顕著です。この9月初旬に、イタリアでオンラインのヨーロッパ市民科学学会(EACS)の大会が開催 第1929号 令和2年10月20日(火)発行(33)昨年6月にパラオの保護区で実施した市民科学プロジェクトの参加者と(前列右から3人目が小堀先生)
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