コンセプト下水道 第1回~20回
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第3種郵便物認可 災害時ではあくまで市民の目線に立って最善策を考えることが大切です。電車の振替輸送に学べ 2つ目が「電車の振替輸送に学べ」です。電車はトラブルが発生して運行がストップすると、必ず他の路線やバスなどによる振替輸送があたりまえのように用意されます。つまり緊急時に代替手段を用意する意識が確立しているのです。 一方で下水道はそのあたりの意識がまだ弱い気がしています。マンホールトイレの普及は喜ばしいことですが、例えば携帯用トイレを配布する、誰が仮設トイレを設置するのか役割分担を確認するなど、もっと簡易な代替策も含めて下水道管理者が考えておくべきこともあります。新潟中越地震では高齢者がトイレを我慢して水を飲まずに亡くなるという悲劇も起こりました。インテリジェントな情報収集 3つ目は「インテリジェントな情報収集」です。災害対応において情報収集は必須ですが、施設の被害情報などを漫然と集めても現場では用をなしません。それよりも、復旧の優先順位を考える上で重要な情報、例えばネットワークの「急所」である水管橋の被害の有無、被災した処理場が水源の上流か下流か、などはピンポイントで把握すべきです。 東日本震災では釜石市の水管橋が被災しました。水管橋の復旧には多くの時間を要しネットワーク全体の復旧の急所です。そのため資機材を有していた地元企業(新日鉄釜石)と東北地方整備局道路部の協力を得て、「急所」に対して極めて例外的な措置として橋の歩道の上に大きな鉄管を仮設して対応しました(のちに国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」を受賞)。こうしたアイデアも、現場がインテリジェントな情報収集を心がけていたことから生まれた知恵、戦術です。決断力と笑顔 4つ目はコンセプトと言えるかは微妙ですが、ハートの話で「決断力と笑顔」です。これは主に現場のリーダーに向けてのコンセプトです。災害時には常に想定外のことが起こるので、住民目線で即決する「決断力」が求められるのが1つ。 また災害対応では、時間が経つにつれ、支援者も含め現場が疲弊してきます。そうした時に、皆が笑顔で楽しめるようなことができないか。些細なことで構いません。私が東日本大震災で現場にいた時は、国交省下水道部への報告の中に“ビッグニュース”というコーナーを設け、その日にあった現場での心温まる(?)笑いのエピソードを皆で探して毎日綴っていました。厳しい状況の中でも、現場の人間の気持ちまで思いやり、マネジメントする「包摂力」が求められます。 私は、もう現地支援者、特にリーダーとして派遣されることはないと思いますが、これから派遣される方々は、どんなにマニュアルを読んでも、戦略を策定できても、戦術は現場でしか生まれないということを心に刻んでいただきたいと思います。どんな状況でも、落ち着いて、あきらめずに、関係者の士気を高めつつ、新たな知恵、戦術を生み出し実行してください。そして、そのコンセプトを伝えやすい言葉にして積極的に発信して欲しいと思います。「壊す勇気」「電車の振替輸送に学べ」のように……。 第1903号 令和元年10月8日(火)発行(35)水道橋が被災した釜石市では橋の上に鉄管を仮設して対応東日本大震災では全国から多くの自治体が被災地に駆けつけた(写真は仙台市の青葉体育館で北九州市と札幌市の支援チームと一緒に撮影、真ん中が筆者、左端は日本下水道協会職員)

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