(32)第1929号 令和2年10月20日(火)発行 イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー) 「コンセプト下水道」の特別編として、ゲストを迎え、下水道やコンセプトについて語り合う「熱い人と語ろう!」シリーズ。第6回のゲストは市民科学の第一人者である東京都市大学の小堀洋美先生に登場いただきました。の最前線や下水道との親和性などについてお話を伺えればと考えています。その前にまず、先生のプロフィールをご紹介いただけますか。小堀 今は市民科学の研究とその実践が中心になっていますが、もともとは微生物生態学が専門でした。生態学の本来の目的は、人的な影響がない自然のシステムの構造と機能を調べることです。私が大学院生だった1970年代でも、人的な影響が全くないところを探すのはなかなか大変でしたね。日本海溝やフィリピン海溝といった深海、太平洋のど真ん中や南極の海が私の研究フィールドでした。 しかし、ある時にふと気がつきました。海底に細かいプラスチックが溜まっていることもありますし、南極の海にも人間の影響がおよんでいる。自然や生き物に対し人間がどういう影響を与えているのかということに、私の興味や関心は次第に移っていきました。そんな時、当時はまだ日本になかった保全生物学という学問に出会いました。事実を知るだけでなく、何が原因なのか。その原因を解決するにはどういう解決策を用いるのがよいのか。こうしたことを研究者だけでなく、市民や企業、行政、NPOが同じテーブルについて考え、それぞれの強みを発揮して課題解決を実践する。また、解決策が期待したとおりの成果をあげたかを評価し、次の取り組みに活かす。Plan Do Check Actionを動かして理論と実践をつなぐ学問で、基礎と応用の2つの分野から成り立っています。これが保全生物学です。医学も基礎と臨床の2つの分野から成る学問で、似ているかもしれません。 この保全生物学に長年携わる中で、冒頭お話したとおり、もっとみんなが科学に参加し、科学を見える形にしたいという思いから市民科学に携わることになりました。8年くらい前のことです。実は市民科学という言葉が辞書に載ったのは2014年で、世界的にも市民科学という言葉は新しい言葉です。とはいえ、科学の歴史と同じくらい古くから日本でも世界でも市民が自然現象に興味を持ち、仮説を立て、検証するようなことはやられてきました。江戸時代には江戸時代の市民科学者がたくさんいたはずです。 市民科学を勉強するうちに、私がやってきた保全生物学と市民科学には多くの類似性があることに気がつきました。保全生物学でアクション・リサーチやコミュニティー・リサーチと呼んでいるものは市民科学とほぼ同じものと考えています。加藤 生態学、保全生物学、市民科学と、長年研究を 第3種郵便物認可コンセプト下水道【第15回】(特別対談「熱い人と語ろう!」Vol.6)市民科学と下水道~“見える化”で信頼関係を築く~生態学、保全生物学から市民科学へ加藤 国交省下水道部の流域管理官を務めていた時に下水道と市民を結びつける方法を考えていたのですが、下水道には河川のような市民にとって身近な空間がなく、どうしようかと悩んでいました。そんな時、河川環境課が主催し、NPOの方たちが集まる勉強会に誘われ、面白半分で参加することになったのですが、小堀先生はその勉強会のメンバーでした。そして、その夜の懇親会の席が偶然近くだったことから話が弾み、市民科学の存在もそこで初めて教えていただきました。小堀 科学は大学などに勤める研究者が職業としてやるものと思われています。そのため一般の人たちにとっては、遠い存在で、内容も難しく敬遠されがちです。また、最近では、研究者の不正などもあり、不信感を持たれているきらいもあります。それを何とか払拭したいなと考えていた時に市民科学を知りました。研究者ではない一般の人たちが自ら科学のプロセスにかかわることにより、科学を“見える化”する。それから、科学を科学者のものだけでなく、社会全体の共通の財産とする。つまり私がやりたいことは、科学の“社会化”や“見える化”です。加藤先生と出会い、下水道も“見える化”という共通の課題を抱えていることを知り、お酒もありましたが(笑)、意気投合したという次第です。加藤 今日は市民科学と下水道をテーマに、市民科学小堀 洋美東京都市大学特別教授(一社)生物多様性アカデミー代表理事× 加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授
元のページ ../index.html#39