第3種郵便物認可 した。けれど、何もやらないまま終わるのも嫌だなと思い直し、情報発信をすることで何か役に立てるかもしれない、いろんな問題を抱えている人たちの話をできる限り聞いてみようと考え、水ジャーナリストとしての活動を本格的に始めることになりました。子どもたちの将来を考えた議論を加藤 橋本さんはジャーナリストとしての活動だけなく、水に関する教育にも国内外を問わず熱心に取り組まれています。橋本 ジャーナリストの立場でどこまで教育の現場に携わっていいものか葛藤もあるのですが、2002年に学校教育で「総合的な学習の時間」が設置された時、ある小学校の校長先生から海外で見聞したことを伝えてくれないかと依頼を受けました。それまでは人前で話すのも苦手だったのですが、それを機にペラペラと喋る人間になってしまいました(笑)。 私が撮影した写真を1枚ずつ解説すると、学生からは「海外にはそんな可哀そうな人がいるのか」という同情的な反応がほとんどでした。しかし、その言葉の裏には「自分には関係ないけどね」という、どこか他人事のニュアンスを感じました。そこで私は、これは伝えれば伝えるほど逆効果だと思いました。こんな意識を子どもたちに持たせてはよくない。自分たちの問題として考えてもらうにはどうしたらいいのか。最初はその答えがなかなか見えず、ワークショップ形式の授業をやったり、子どもたちを実際の河川に連れていったりと、試行錯誤を繰り返しました。そのうち7割は失敗、残る3割も上手くいったのかどうかよく分からないような状態でしたね。 そんな中、国交省から打診をいただき、中国で節水リーダーを育てる外務省(JICA)のプロジェクトに参加しました。2007年から2011年にかけて短期滞在を繰り返し、中国の人たちに水の大切さを知ってもらう環境を整備するため、教育指導者の育成や教育プログラムの作成などを行いました。教育の仕事を続ける上でこの経験は大きかったですね。加藤 私も海外のことを伝える機会がこれまで何度かありましたが、聴き手のリアクションがあるだけで満足してしまい、その反応の仕方に問題意識を持つことはありませんでした。ですから、橋本さんの今のお話はとても新鮮でしたし、ドキッとしました。子どもたちに海外の悲惨な状況を自分ゴト化させる何かよい方法は見つかりましたか。橋本 海外で起こっていることと自分たちの身の周りで起こっていることを比較させるのは、1つの方法だと思います。例えばエチオピアでは水道が未整備で毎日のように水を汲みに行かなければなりません。日本では地震や大雨などの災害で水道が使えなくなり、同じような状況が起こりえます。その状況が1日、10日、1ヵ月と長くなるにつれてどうなるか子どもたちに想像してもらいます。その上でエチオピアと日本の違いについても考えてもらいます。日本の子どもたちは教科書を背負って通学しますが、エチオピアの子どもたちは生活のために教科書の代わりに水を背負って運びます。その教科書と水という時間の使い方の違いが、10年、20年後にどう影響していくのか。そう考えると、皆さんが彼らにできることは、ただ水を提供することだけでなく、教育の支援など別の方法もあるのではないか。こんなことを皆で議論してもらいます。 地理的に似ている環境を持っているところは比較しやすいですね。例えば印旛沼や霞ケ浦でワークショップを開く時はカンボジアにある東南アジア最大の湖・トンレサップと比べてみたり、地下水の活用で有名な静岡県三島市と、先程お話したバングラディシュの井戸水からヒ素が検出される話を対比させてみるとか。加藤 同じようなところもあるが、違うところもたくさんある。類似性と異質性の両面から考えるということですかね。橋本 はい。その際、地理環境だけでなく、経済と文化も含めた3つの視点が重要だと考えています。例えば水の問題と言ってもお金があれば解決できるものもあり、同じ地理環境でも経済性の違いで変わってくると思います。文化も然りです。加藤 橋本さんはジャーナリストと教育者の2つの顔を持っていますが、2つの仕事を手がけることによる相乗効果みたいなものはありますか。 第1925号 令和2年8月25日(火)発行(33)橋本氏
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