× (32)第1925号 令和2年8月25日(火)発行 ランスのミネラルウォーターについての取材でした。当時は1990年代で、エビアンやヴィッテル、ヴォルビックなどのブランドが次々と日本に輸入され始めた頃でした。フランスの採水地をいくつかめぐり、ミネラルウォーターの効能に関するルポと、企業による地下水の保全活動に関するルポの2つを執筆しました。当時は健康ブームだったこともあり、前者はいろんな雑誌に取り上げられ評判だったのですが、後者の企業の保全活動の方は全く反応がありませんでした。加藤 今だったら企業活動の方も注目されそうですけどね。橋本 当時は全然でしたね。水を守るということ自体、何を言っているのか理解されないという時代でした。加藤 でもフランスではすでにその頃から企業にそういうマインドがあったわけですよね。橋本 はい、ありました。ヴィッテルを取材した時に驚いた光景があります。出荷用のトラックが工場の脇を通ると、雨が降った後だったので垂れたオイルが虹色に光っていたのですが、それを見つけた工場の人たちが駆けつけ、土の上を雑巾掛けしていました。「このオイル、まさか水源までは到達しないと思いますよ」と言ったら、「こうした習慣が水を守ることにつながるんだ」と言われ、びっくりしました。加藤 私も何度かフランスを訪れましたが、確かにフランス人の水に対する意識の高さは実感しました。生態系を守るために水を大切にすることが目標になっています。橋本 フランスから帰国すると、続けてバングラディシュを取材する機会を得ました。水道が整備されていない国で、井戸のまわりに集まって水を飲んでいる女性や子供たちをよく見かけましたが、その中に赤く塗られた井戸がありました。「これは何ですか」と聞くと、地下からヒ素が出る井戸とのこと。実際、肌が褐色になるなどヒ素障害を抱えた子どももいました。義憤にかられた私が「子どもにこんなものを飲ませたらダメですよ」と注意したら、ある女性から「そんなことは分かっている。けれど、これしかないんです」と言われました。当時の私にとって水は美しく、美味しく、いろんな病気に効くなど、ポジティブな面しか頭になかったので、女性の言葉にショックを受けてしまい、水にかかわる仕事はこれで辞めようとさえ思いま第3種郵便物認可イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第13回】(特別対談「熱い人と語ろう!」Vol.4)~未来志向の上下水道~ 「コンセプト下水道」の特別編として、ゲストを迎え、下水道やコンセプトについて語り合う「熱い人と語ろう!」シリーズ。第4回のゲストは水ジャーナリストの橋本淳司さんに登場いただきました。水の概念が覆ったバングラディシュの女性の一言加藤 先日、橋本さんが出演されているYouTubeの番組「じゅんかん'sBAR #7」にゲストとして呼ばれ、ビストロ下水道などをテーマに話をさせていただきました。今回は私がホストで橋本さんがゲストということで立場が逆になりますね。はじめに水との出会いを含めてこれまでのご経歴を話していただけますか。橋本 巷で「水ハカセ」などと呼ばれることもあって恥ずかしいのですが、これまで水を学問としてきちんと学んだことはありません。言ってしまえば趣味の延長線上みたいなものです。水に興味を持ったきっかけの1つが、東京の水道水です。大学で上京して初めて飲んだのですが、実家のある群馬県の水とずいぶん違うなと思いました。場所によって水の味が変わることが非常に新鮮で面白く感じ、それから全国の浄水場や水源地を訪れるようになりました。いい水を見つけると持って帰って友だちにお裾分けしたりしていたのですが、大抵、引かれましたね(笑)。 大学卒業後は出版社に勤めました。水とは関係ないビジネス書やエンターテイメント系の新書の編集などに携わっていましたが、自らルポを書きたいと思い、20代の半ばに会社を辞め、フリーのジャーナリストとして独立しました。フリーになって初めての仕事がフ橋本 淳司水ジャーナリストアクアスフィア・水教育研究所代表武蔵野大学客員教授 流域生活加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授
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