第3種郵便物認可 いですね。料金が安くなるといったお金のことばかり注目されていますが、上工下水一体によるシナジー効果を含め、民間ならではの発想という点に私は期待したいと思っています。頭を使って「考える」研究を加藤 話は変わりますが、先生がウイルス研究をはじめたきっかけは何だったんですか。大村 もともと大学の学部時代に橋梁工学を学んでいたこともあり、数値計算が好きでした。当時東京湾や大阪湾の有機汚濁解析に数値計算を活用する研究が盛んに行われていたこともあり、大学院では数値計算を用いて宮城県女川湾の細菌の海洋汚染の研究をやっていました。博士号はこの研究成果で取りました。ですから当初は大腸菌などの細菌がメインだったのですが、当時から何となく細菌よりウイルスの方が面白そうだなという気はしていました。その後、東北大学で1年ほど助手を務めた後、岩手大学に移り、1981年から2年間、タイ・バンコクのアジア工科大学院(AIT)に派遣されることになりました。 現地で私の研究をサポートしてくれるリサーチアソシエイト(助手)を募集したところ、10名程の募集があり、その中から医療科学分野に強いマヒドール大学出身のアウラピンさんという女性を選びました。彼女にウイルス研究をやりたいという話をしたところ、AITでは専用の実験施設がないためウイルス研究は難しいけれど、ファージと呼ばれる細菌ウイルスの研究であればAITでも実験可能なことが分かり、ウイルス研究の第一歩を踏み出すことができました。加藤 AITで雇った助手が偶然にもウイルスの知識を持った人だったというわけですね。大村 そういうことです。英語でかけがえのない出会いのことを「Come across a gem」と言いますが、私にとってはまさにそれでしたね。ちなみに彼女は、その後もファージの研究を続け、東大で博士号も取得しました。今はバンコクの石油公社で副社長を務めていると聞いています。 私は、その後、約40年にわたってウイルス研究を続けてきました。東北大学に戻った後は、偶然が重なって病原ウイルスを扱うことができるP2レベルの実験施設が手に入るなど幸運もありました。研究室の学生も優秀で、人にも恵まれましたね。加藤 全国にいらっしゃる先生の教え子の方たちは、皆さん、意欲的というか、先生にかなり影響を受けている印象があります。何か特別な秘策とか指導方針があるのかなと思っているのですが。大村 特別なことはやっていませんよ。というか、指導方針など一回も考えたことはありません(笑)。加藤 そうですか。話が終わっちゃいましたね(笑)。では質問の角度を変えますが、これからの水関係の若手研究者に期待することはありますか。不満に思うことでもいいですよ。大村 今は下水道の研究自体が遺伝子解析などのバイオテクノロジー的なものに移っており、「考える」ことが少なくなってきているのは心配しています。例えば以前であれば、反応槽の中でどういう反応が起こっているかということを、仮説を立てたり実験したり解析したりと頭を使って考える必要がありました。今はどちらかというと、反応槽の中にどんな微生物がいて、その微生物の進化の過程を調べるというような世界です。これは一見高度なことをやっているようで、実は「考える」という行為はそれほど必要ないのではないでしょうか。そういう研究社会になってしまったと言えばそれまでなのですが、新進気鋭の若手研究者が皆、遺伝子関係の研究ばかりに目が向いていることに一抹の寂しさも感じています。解析的な研究へのブレークスルーが起きて欲しいですね。加藤 なるほど。私も新米の一教員として参考になります。本日は多岐にわたる熱いお話をありがとうございました。 第1923号 令和2年7月28日(火)発行(31)
元のページ ../index.html#30