コンセプト下水道 第1回~20回
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(34)第1903号 令和元年10月8日(火)発行  これを強く意識したのは、新潟中越地震の時です。当時の国交大臣に下水道施設の被害を報告すると、「施設の被害は分かった。では下水道を使えない住民は何人いるのか」と聞かれました。確かに、電力は停電、水道は断水、道路は不通と、他のライフラインには使用者目線のワードがありますが、下水道にはありません。かつて「不便」というワードを提唱したこともあるのですが、さすがにあまり定着しませんでした(笑)。 「モノより人」。この哲学を理論化し、かつ被災地に応援に駆けつけた支援者たちの気持ちを鼓舞するためにも、目的に向かって組織を1つにするコンセプトが必要だと考えます。壊す勇気 1つ目は「壊す勇気」です。災害時で最も大事なのは人の命です。こう言うと、異論を唱える方もいるかも知れませんが、被災時の下水道の使命のトップ・プライオリティは水環境より、地域が汚水まみれになることを防ぐこと、衛生環境を守ることです。いかに早く汚水を都市の外に出すかということを最優先に考えるべきで、場合によっては下水道施設を「壊す」という選択肢も頭に入れておく必要があります。 東日本大震災では、仙台市の南蒲生浄化センターの放流ゲートが津波の直撃を受け、閉まった状態で動かなくなりました。一刻も早く汚水を排除して住民の健康を守る必要がある中、決断したのは放流ゲートを叩き壊すことでした。同様のエピソードが大船渡市でもありました。処理場の放流水を海に送る必要に迫られたため、被災していない既存の水路の壁を叩き壊してルートを確保しました。 下水道管理者の心情としては自らつくった施設を自らの手で壊すことに躊躇を感じるかもしれませんが、第3種郵便物認可イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー)東日本大震災で津波被害を受けた仙台市・南蒲生浄化センターの放流ゲートコンセプト下水道【第2回】~「戦術」のコンセプト~「戦略」と「戦術」 今後30年以内に80%の確率で起きると言われている南海トラフ地震をはじめ、日本は常に大規模な自然災害の脅威にさらされています。下水道の災害対応は大きく「戦略」と「戦術」の2つに分けられると思っています。 BCPの策定や資機材の準備、支援体制の構築など、関係者が連携して事前に何をしておくべきか決めておき、災害が起こったあとに時間軸に沿って、全体をマネジメントしていく視点が「戦略」です。一方、被災地の各現場で、被災自治体や支援者らが、刻々と変わるその場の状況に応じて個別に、臨機応変に対応していく視点が「戦術」です。いわばゲリラ戦のようなもの。このうち特に「戦術」に関しては、その現場にいる人が想定していなかった場面でどう対応するかを、知恵を出して経験知を積み上げ共有し、伝えていくことでのみ進化していくものと考えています。私は、新潟中越地震、東日本大震災と大きな地震被害の現場対応を2度経験しましたが、そこで生まれた「戦術」に関するコンセプトをいくつか紹介したいと思います。 戦術は、現場ごとに生まれ、また、技術的なことだけでなく支援メンバーの士気向上に関することも含まれます。なので、学識者らで検討され、全国統一的に取りまとめるBCPマニュアルや指針類を議論する場では取り上げられることはありません。現場記録や経験談、また、それらを取りまとめた記録本の中にのみ、いくつか見ることができます。「モノより人」という哲学 まず災害対応全体を通じての哲学があります。それが「モノより人」です。非常時では、下水道施設(モノ)よりも、住民目線で優先順位を考えるべきと思うからです。災害対応加藤 裕之東北大学特任教授

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