第3種郵便物認可 生活していきたいかという視点が重なった時に賛同者が一気に増えたという感覚があります。下水道と下水道以外の2つの視点で考える。そうしたところにまだまだ大きな可能性が眠っているのではないかと思っています。加藤 特に役所に多いと思いますが、何をやるにしてもまず現状分析と課題抽出が定石です。これは大切ですし、ロジカルに上司や先生方に説明しやすいです。しかし現状分析だけではイノベーションはうまれません。「どうなったらいいか」という「構想」も必要になります。「どう生活したいか」は、市民目線で構想するということですね。阿部 「あるものを使いたおさないと損」という主婦的な目線も大事だと思います。こんなことをやりたいという構想があっても、お金や人手の制約はつきまといます。そんな中で、使えるものは使うという視点に立てば知恵も絞りやすいのではないでしょうか。 私は以前、国交省の国土政策局で「新たな公」をテーマにした地域づくりに携わっていたのですが、その中にはいわゆる限界集落の事例も多くありました。お金もないし人もいない。行政の支援にも限界がある。けれど、そこに住み続けたい。ではどうするか。そこで行われていたのが、住民一人ひとりが公的サービスも含めいろんな役割を担い、協同してその地域をまわしていくという取り組みです。一人が三役、四役も担うことで少ないリソースでも地域を運営していける。これはとても示唆に富んでいると思います。下水道も今後、場所によっては人口減少により使用料収入が減り、施設に余裕が出てくることが予想されます。そのとき、下水道も整備済みの施設を使って新たな役割を担うことで、地域の運営を支えるとともに下水道の経営にも貢献する。「as a Service」という考え方がそれを可能にするのではないかと考えています。加藤 私は主婦ではないですが、興味深いお話です。様々な業務で貴重な人材をシェアするという発想にもつながるかもしれません。地域全体を見渡す視点加藤 紙オムツ受入に向けたプロジェクトの進捗状況はどうなっていますか。阿部 制度的・技術的なルールの検討を進めており、2022年度までにガイドラインとして取りまとめたい考えです。今年度は、装置を実際の介護施設等に設置してデータを取る「社会実験」を実施する予定です。ただし、今は新型コロナウイルスの影響で介護施設に入れないため、少し足踏みしているような状況ですね。加藤 プロジェクトを進める上でネックになっていることはありますか。阿部 紙オムツと汚れを分離する装置を新たに開発する必要があるのですが、全く新しい装置ですので、最初のプロトタイプはできても、次の10台、20台をつくって試しに使ってみていただく、というところがなかなか進んでいないようです。イノベーションにおける一般的な悩みだとは思いますが。 また、下水道ならではのハードルとして、やはり下水道はインフラですので、新たな技術や取り組みの導入には慎重な検討が求められますね。 開発した装置を使ってどうサービスを提供するのかという問題もあります。サービス提供という意味では、モノ(装置)を売って終わりではなく、リース形式にしてメンテンナンスも含めて一体的にすべきと考えていますが、ではどういう人たちがどのように面倒を見続けてくれるのか。これは非常に大事なところだと思いますし、「下水道 as a Service」を実現させる肝になる気がしています。加藤 それは、誰がどういう役割を担うのかという体制・フォーメーションを考える必要があるということですね。 例えば午前中は公園を管理し、午後は下水道管内を点検するというように、下水道だけでなく、道路や公園など他のインフラの管理も合わせて地元で行うという動きが出てきています。そうした観点で言えば、すぐには難しいかもしれませんが、紙オムツ受入装置のメンテナンスについても、地域インフラの管理のフォーメーションの中に組み込んでいければ面白いかもしれません。効率性もアップしますよね。阿部 そうなると、なおさら地域の中で下水道が何をできるのかという視点が大切で、まち全体を見渡せるようなフォーメーション・体制が求められる気がします。また、その担い手は行政だけでは難しいと思います。加藤 確かに紙オムツの話だけで考えると答えはなかなか出ないかもしれません。意外に、地域インフラの総合管理型やPPPの視点から糸口が見つかるかもしれませんよ。阿部 紙オムツの話は案外、コンセッションなど官民連携の仕組みと相性がいいのではと思ったりもします。民間事業者は、必要とされるサービスを積極的に提供して利益を出そうとするので、イノベーションも出てきやすいのではないかと。加藤 上下水道や他のインフラも合わせて、20年間に 第1921号 令和2年6月30日(火)発行(37)DeasyConferenceで講演する阿部さん
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