(38)第1919号 令和2年6月2日(火)発行 ともあるし、走り出したら修正がききにくい。しかし高橋さんの場合は、ある程度、シーズを見つけたらスタートアップし、目的に向かって一歩動き出し、社会の受け止め方を見ながら絶えず方向を修正しています。これがイノベーションを続ける高橋さんの動き方の1つの特徴であり、コンセプトなのかなと思いました。高橋 やりながら修正していくことを“アジャイル開発”と言って、最近はわりと主流になってきている考え方だと思います。ジャンプ・インの精神で加藤 水やエネルギーは、地域の問題であると同時に、世界的な問題でもあります。水やエネルギーの問題を考える時は、ローカリティ(地域振興)とグローバル(海外展開)の両方の視点が必要です。また、大学教員の立場から言わせてもらえば、そうした視点を持った学生を育てなければならないと考えています。 地域振興も海外展開も、外部の知恵を持ち込んで初めて動き出す点など、その方法は似ているところも多い。それぞれの視点から、ご経験も踏まえて成功の秘訣のようなものがあればお聞きしたいと思います。まず“ローカリティ”から、いかがでしょうか。高橋 “よそ者、若者、馬鹿者”という言葉がありますが、外部の人間がその町に引っ越してきたら、ジャンプ・インの精神で、様々なことに挑戦できるはずです。私も佐賀市では、佐賀大アメフト部の監督やまちおこしの活動など、いろんなことをやりました。そして、結果的にですが、これらが全てつながりました。アメフトの監督をやっていた縁で佐賀大と仲良くなり、勉強会に呼ばれ、ご当地グルメによるまちおこしのボランティア団体を立ち上げました。そこで佐賀市役所と親しくなり、前田さんを紹介いただき、プロジェクトにつながりました。 気合いの入ったボランティアを“プロボノ”と言います。こうした場は、仕事とは直接関係ないのでいろんなことを試せますし、新たなアイデアに刺激され、仕事の活性化にもつながります。加藤 副業でもないし、単なるボランティアでもない、仕事に薄く関わりうるような場に積極的に出かける。そこで生まれたアイデアや人脈が本来業務に還ってきたり、本来業務になってしまうという理論ですね。私も好きな理論ですし実感しています。アート下水道も、市民科学もそうですし、私が教員になったのもそうです。 佐賀市のプロジェクトは、この連載でも幾度も取り上げているように、自治体からは話をよく聞いていましたが、企業の立場からの話は新鮮でした。成功までには様々なチャレンジや努力、工夫があったことがよく分かりました。高橋 失敗もかなりありましたね。そんな中、佐賀市で成功したのは、やはり前田さんというキーマンに出会えたのが大きかったですね。それと、行政と民間の連携においてスピード感の違いがネックになることがありますが、佐賀市とはその摺り合わせができたことも成功の要因だったと思います。加藤 官と民で知識やノウハウの融合というのはよくありますが、「時間軸」を合わせるのは官民連携の成功のために官側の努力として必要なことだと思います。通常の役所の「時間軸」や決済などの手順やルールは独特ですからね。高橋 そうですね。佐賀市の場合、はじめに当方から「1年経って成果がなければ(会社のスピード感と合わせられないので)止めざるを得ません」と宣言したのが良かったのかもしれません。“グローバル”における官民連携加藤 続いて“グローバル”の視点から、高橋さんが現在取り組まれているガーナ栄養改善プロジェクトについて伺いたいと思います。高橋 ガーナ栄養改善プロジェクトは、当財団(味の素ファンデーション)の主要事業の1つです。ガーナ政府と連携しながら「KOKO Plus」という離乳児向けの栄養サプリメントを販売する栄養改善のソーシャルビジネスモデルを構築しています。例えばガーナ政府との官民連携の契約に漕ぎつけるまでに4年かかるなど、何をするにもとても苦労して、2009年のスタートから10年以上が経過しましたが、ようやく成長の軌道に乗り始めました。この経験を踏まえ、現在は内閣官房が主導するアフリカ健康構想などと組んで、日本企業がガーナで仕事をする際、我々が培ったガーナ政府との関係性を生かせるような仕組みづくりにも取り組んでいます。その結果、アフリカでのビジネス進出の期間を短縮するお手伝いができればと考えています。加藤 海外ビジネスにおける成功の秘訣は何だと思いますか。高橋 我々のケースで言えば、官とタッグを組めたのが大きなターニングポイントでした。ガーナのプロジェクトではお客さんは離乳児のいるお母さんたちです。栄養改善の製品は薬に比べると効果がすぐにあらわれないので解りにくいのですが、栄養改善を確実にするにはお母さんにその製品の価値を認めてもらい、継続して使ってもらうことが大切です。また、製品を真に 第3種郵便物認可
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