第3種郵便物認可 わりとなり良いのではないかという話になりました。また、味の素社の発酵副生バイオマス入りということで下水汚泥堆肥のブランディングにもつながるのではないかという期待もありました。こうして佐賀市と混合実験を行うことになりました。2011年のことです。 本当は発酵副生バイオマスをそのまま農家に使ってもらえれば便利だったのですが、大半の農家からは水分が多すぎて使えないと言われました。乾燥していないと機械で撒けないというのです。そんな中、1人だけ、来年もほしいと言ってくれた宮崎県の農家がありました。「堆肥に混ぜるから問題ない」という理由でした。前田さんの出会いと同じ頃の話です。加藤 イノベーション普及理論という話をこの連載の第5回でしましたが、新たな価値創造が、最初は1人の興味からスタートすることが分かるエピソードです。“三方良し”の佐賀市のプロジェクト高橋 混合実験では市に加えて、国の協力も仰ぎました。国交省でビストロ下水道を推進していた加藤さんともそこで出会いました。そして国交省のアドバイスを受け、ビストロ下水道連携協議会を立ち上げるなど、いい流れが生まれました。 その他の一連のプロジェクトと合わせた成果として、600klの重油を使っていた工場が廃止になり、2000tのCO2削減と大幅なコストダウンにつながりました。また、下水汚泥と発酵副生バイオマスの混合堆肥を使って栽培した野菜は“じゅんかん育ち”として販売され、好評を得ています。こうして市と民間企業が連携して農家や住民など地域に新たな価値を提供する「官民連携モデル」を構築することができました。一方、同時並行でイオン九州と組んで“九州力作野菜”というブランドをつくる「民民連携」も進めました。これは、ひょっとすると行政(佐賀市)との連携に時間がかかる可能性があると考え、選択肢を増やす意味合いもありました。結果的にそれは杞憂で、佐賀市との連携はスピーディーに物事が進み、1年程度で形になりました。加藤 佐賀市のプロジェクトが一段落した後、一橋大学大学院でMBA(経営学修士)を取得されていますよね。高橋 冒頭でも話しましたが、今携わっている「ガーナ栄養改善プロジェクト」をやるためには、技術者からマーケターへのキャリアチェンジが必要だと考えたのがMBA取得の一番の理由です。英語力を鍛えたいという思いもありました。 それから、当時言われ始めたCSVを学びたいという思惑もありました。CSVはCreating Shared Valueの略で、経済価値と社会価値を両立させるという考え方です。リーマンショック後に利益追求だけではダメだろうという反省から欧米で確立されたものですが、日本では古くから近江商人の“三方良し”(売り手に良し、買い手に良し、世間に良し)に代表されるように商売を通じた社会貢献の意識がありました。佐賀市のプロジェクトも、味の素社や佐賀市はもちろん、農家は安価な肥料が手に入る、住民は美味しい野菜や果物が食べられるというメリットがあり、それぞれがWin-Winの関係にあります。CO2削減にも貢献しているので“世間に良し”にも当てはまります。動きながら方向を修正加藤 コロナ問題でCSVの流れは強くなりますね。ところで、この連載は「コンセプト下水道」というタイトルで、毎回、コンセプトを1つずつ取り上げています。いろんな経験をされている高橋さんが大事にしているコンセプトは何ですか?高橋 コンセプトと呼べるかは分かりませんが、「官民連携」という考え方は大切にしています。官は社会価値、民は経済価値をつくることができます。まさにCSVです。官だけでやれる仕事、民だけでやれる仕事は次第に減っていくと思うので、双方の強みを活かせないかという考え方は常に持っています。佐賀市のプロジェクトでも、ご当地グルメの活動でもそうでした。今はガーナ政府や国際機関と組んで官民連携を進めています。加藤 イノベーションを起こすには、まず価値を探す必要があります。高橋さんの場合、佐賀市に接触したことで、佐賀市が味の素社の発酵副生バイオマスに価値を見い出す形になりました。価値を見つけるためには、部屋に閉じこもっていてはダメで、高橋さんのように走り回って、いろんな人と接触することが大事ですね。高橋 当事者としては偶然が数珠つなぎに起こったという感覚です。加藤 修正主義的な考え方は、とても共感しますし、私が新しいプロジェクトをスタートアップする時の考え方と同じです。役所にも企業にも言えることですが、新たな取り組みを始める時、幹部や関係者に説明するために、まず膨大な全国的なデータを集めて分析し、シナリオを明確につくった上で一直線に動き出します。これは一定の枠組みの中でものごとを進める時の1つのやり方です。ただ、これには時間とコストを要し、急速で多様な時代の変化やニーズについていけないこ 第1919号 令和2年6月2日(火)発行(37)
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