コンセプト下水道 第1回~20回
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×(36)第1919号 令和2年6月2日(火)発行  研究職時代は、豚やニワトリの飼料用トウモロコシの栄養を補う“リジン”というアミノ酸を発酵して製造するための研究開発を行っていました。私たちの体をつくり、整え、動かしているタンパク質は、20種類のアミノ酸がつながってできています。順調な成長や健康の維持には、その20種類のバランスを適切に摂ることが重要です。例えば、トウモロコシは豚やニワトリの餌にもよく使われるのですが、残念ながらそのアミノ酸バランスは偏っており、リジンというアミノ酸が不足しています。しかもリジンは自分でつくり出すことができないので食べ物からしか摂取できません。そこで、餌にリジンを加えてあげると、豚やニワトリの成長効率が劇的に改善されます。人間も同様です。ガーナでは伝統的な離乳食として子どもにトウモロコシを使ったお粥を与えるのですが、これが栄養失調の原因になっていました。この問題を何とかしたいと思ったのです。加藤 世界的な課題に挑戦されているのですね。そのお話の前に佐賀市のプロジェクトにはどういう経緯で関わることになったのですか。高橋 当時、九州事業所の工場では、アミノ酸の発酵製造過程で年間何千トンも生じる発酵副生バイオマスを肥料として販売していました。発酵副生バイオマスは酒粕のような形状で、水分を多量に含んでいるため、肥料として販売するには、乾燥を行う必要がありました。乾燥させるには相当量の石油が必要で、コストが嵩みます。私に与えられたミッションは、3年以内にこのコストダウンを実現することでした。乾燥には、石油の燃焼により炭酸ガスを排出してしまうため、私はゼロエミッションの観点からも矛盾を感じていました。しかし積極的な投資も制限されており、社内で解決することに限界を感じたため、「外に頼るしかない」と考え、会社を飛び出しました。今ならこれをオープンイノベーションと呼ぶのかもしれませんが……。とにかく発酵副生バイオマスをうまく使ってくれるところがないか、片っ端から探していきました。そんなある時、佐賀市役所の方々から上下水道局職員の前田純二さんを紹介いただきました。佐賀市役所とは、私が“シシリアンライス”という佐賀市のご当地B級グルメを盛り上げるボランティア活動に参加していた関係で懇意にさせていただいていました。 前田さんとはお会いしたその日に4時間近くお話ししたのですが、結論としては、佐賀市の下水処理場にある汚泥の堆肥化施設では発酵の際に温度が100度近くまで上がるため、ここに発酵副生バイオマスを混ぜればその発酵熱で乾燥でき、石油の燃焼による乾燥の代第3種郵便物認可イラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第10回】(特別対談「熱い人と語ろう!」Vol.1)官民連携とSDGs~ローカリティとグローバルの視点から~ 「コンセプト下水道」の特別編「熱い人と語ろう!」として、ゲストを迎え、下水道やコンセプトについて語り合います。初回のゲストは公益財団法人味の素ファンデーションの高橋裕典さん。味の素株式会社九州事業所勤務時代に佐賀市のビストロ下水道を成功に導いた立役者の一人で、発酵副生バイオマスと下水汚泥を混ぜた堆肥を使って、地域で栽培された野菜や果物のブランド化を推進しました。現在は、世界に舞台を広げ、佐賀で培った経験も生かしながら、公益財団法人味の素ファンデーションでガーナの子どもたちの栄養改善を図るプロジェクトに携わっています。研究職から営業職へキャリアチェンジ加藤 これまで本連載ではイノベーションの起こし方や異分野との連携をテーマについて私自身の経験を語ってきましたが、今回は、「熱い人と語ろう!」シリーズの第1回として民間企業の立場で国内外を走り回られている高橋さんから、イノベーションの成功の秘訣や苦労されたエピソード、そして民間ビジネスとして継続するにはどうしたらいいか、などを熱く話していただきたいと考えています。高橋さんとは、2011年頃に佐賀市のビストロ下水道をきっかけに出会ったのですが、こんなアクティブで突き抜けた人がいるんだなと驚いたことを覚えています。高橋さんが元々は研究職だったとは最近まで知りませんでした。高橋 2000年に味の素社に入社し、約10年、研究者としてアミノ酸の発酵製造に従事しました。途中、2006年に佐賀市の九州事業所内にあるバイオ工業化センターという研究所に異動になったのですが、2009年から始まった「ガーナ栄養改善プロジェクト」に携わりたいという思いが募り、2011年に研究職から営業職へとキャリアチェンジを図りました。高橋 裕典公益財団法人 味の素ファンデーション加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授

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