コンセプト下水道 第1回~20回
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第3種郵便物認可  2つ目のコンセプトが「『選択』と『集中』」です。浸水対策のハード整備を行うにあたって、計画区域内をまんべんなく同じレベルに整備するのではなく、時間とお金の制約がある中、命に係わる地下街、資産が集中し社会的影響の大きい主要ターミナル駅周辺など、仮に浸水被害が起こった際に甚大な危険が想定される箇所を優先的に進めるという考え方です。これも平成16年度の政策研で議論したコンセプトで、今では「重点地区」として一般的になっていますが、同じ市町村内でも整備する時間もレベルもエリアによって差をつけることから、当時は、住民に向き合う自治体の方々の理解を得るのに苦労しました。 3つ目も同じく平成16年度の政策研で議論した「受け手主体の目標」です。浸水対策を考える上で、「施設」ではなく、「人(住民)」に光をあてたもので、具体的には被害を受ける住民目線に立てば「床下浸水」と「床上浸水」では被害の度合いに大きな差がある、という考え方がベースです。床下浸水は、床上浸水に比べれば、生命の危険も少なく、財産の被害額も抑えられる傾向があります。現行制度の多くで床上浸水被害の有無が1つの基準になっていることを考えると、このコンセプトがのちの施策に与えた影響は大きかったと思っています。 4つ目は、私が流域管理官を務めていた平成25年度に打ち出した「ストック活用」というコンセプトです。この頃になると、雨水整備も進捗し、様々なデータが揃ってきており、例えば50mm/h対応の整備を終えた地域で、それ以上の雨が降っても浸水しないという事実が分かってきました。その理由を簡単にいうと、その地域の一部に局所的に50mm/hを超える雨が降っても、形成された管路網全体の能力でみると、雨が弱い、または降っていない地域もあり、受け入れることができるからです。これが既存ストックを最大限に活用するという発想の源になりました。ストック活用というと、下水管きょのネットワーク化やバイパス化がまず頭に浮かびますが、他のインフラ・ストックとの連携、例えば「河川事業との連携」という考え方にも影響を与え、ここから「100mm/h安心プラン」などの施策がうまれました。さらに、近年では雨水貯留浸透と緑化を組み合わせた「グリーンインフラ」なども、このコンセプトの1つの施策に該当すると思います。また、施設というハードのストックだけなく、ソフト、すなわち降雨情報や水位情報などの「情報のストック」という考え方も重視し、これはのちの「水位周知下水道」などの施策につながっていきました。「水位主義」というスローガンも作りましたが、最近は積極的に水位を測る自治体が増加しており、河川水位との関係把握はもちろん、統計データとしてストックしていくことで精度を高めていく新たな予測技術の開発にも結びついています。知識のストック 今回のタイトルもそうですが、「雨水対策」や「浸水対策」という言葉を使わず、あえて「雨水管理」という言い方をするようにしています。これは「ストック活用」などのコンセプトにも通じるのですが、下水道事業が管理運営の時代になり、人やカネ、モノだけでなく、雨もマネジメントしなければならないと思うからです。もっと言えば、「雨をコントロール下に置くエリアマネジメント」という意識が重要ではないでしょうか。根本的な課題解決はなかなか難しいかもしれませんが、今話題になっている雨天時浸入水の問題も、この意識を持つことがポイントになってくる気がしています。 それから最近思っているのが、デジタルに頼りすぎると「デジタル化されない事実」を見落とすということです。技術の進歩で浸水シミュレーションの精度も向上し、机上で浸水被害の危険箇所が分かるようになってきました。それをもとに内水ハザードマップなども作成されますが、マップ上では安全とされていた地域で被害が発生することもあるようです。シミュレーションで拾いきれなかった、デジタル化できない情報があるということも認識する必要があります。長年培った経験や知恵、風土や歴史などについての知識。雨水管理のコンセプトとして新たに「知識のストック」も加えるべきかもしれません。 筆者プロフィールかとう・ひろゆき 早稲田大学大学院修了後、昭和61年建設省(現・国土交通省)に入省。下水道部で下水道事業調整官、流域管理官、下水道事業課長を務めるなど、長年、国の下水道行政に携わった。横浜市出身。第1901号 令和元年9月10日(火)発行(39)新連載「コンセプト下水道」は月1回程度掲載していく予定です。

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