コンセプト下水道 第1回~20回
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(46)第1915号 令和2年4月7日(火)発行 が参考になると考えていました。そんな中、先日、ドイツ全体のシュタットベルケの連合協議会に所属する人からお話しを聞く機会がありました。 ドイツにシュタットベルケの基礎ができたのはなんと、ドイツ連邦共和国ができるより早く、今から約800年前に遡るとのこと。当時の中世ドイツでは地域や都市単位で小国が分立しており、それぞれの領主から市民が自治権を取り戻す過程で、インフラも市民自らが面倒を見る、そのためにお金を負担し合って構築した仕組みがシュタットベルケだったと言います。この市民による自治を成立させた背景には、ギルド(職業別組合)を基調としたヨコの連帯と相互扶助の精神がありました。こうした歴史があるため、ドイツでは市民に「インフラは自分たちで管理しなければならない」という意識が高い。だから、市民が出資し、市民が選んだ市長や議員が監査という立場でガバナンスする組織、まさに自分たちがつくった組織であるシュタットベルケを信頼し一体的にインフラを任せる。そして、よりよいサービスのために経営ノウハウや技術力のある民間を活用する、という構図です。この歴史の長さや社会背景を聞いたときに、そのままの形で簡単には日本にフィットできないと感じました。 フランスのPPPも同様です。歴史は違いますが、市民革命が起こったフランスでも、ドイツと同様、「インフラは自分たちで管理するもの」という意識が根付いていると想像してもそれ程おかしくはないと思います。フランスでは下水道事業と経営状況の市民への透明性の確保を徹底的にやっています。評価するためのKPIも法的に統一し、データベースとして公開されています。 翻って日本を見てみると、市民が主体的にインフラの管理を考える、という意識は希薄と言わざるをえません。PPPを導入しようとすると「上下水道は官にやってほしい」という声が上がることもありますが、それは官と市民との密接な関係性やコミュニケーションによる信頼感に基づいてあがってくる声なのでしょうか。欧州と歴史的な背景が違うとはいえ、PPPを活用してこれから下水道事業の持続性を確保していくためには、より一層、官と市民が固く結びついていく必要があります。市民の意識を変えることは容易ではありませんが、知恵の出しどころです。この連載でも紹介した経営戦略としての「市民科学」やビストロ下水道はそのための方法の1つになると思っています。官のリーダーシップが求められます。 フランスのPPPは150年、ドイツのシュタットベルケは800年の歴史があります。日本では、市民の信頼を得ながら、どのような官民連携の形を創っていくべきか。その「目的」、人・もの・カネという「リソース」、技術・ICT等による「効率性」、そして「体制」(すなわち「業界の構図」)という4つを考えていく必要があります。多様性の時代だからこそイノベーションを考える 下水道事業は今、大きな“変曲点”にあります。建設を推進してきた“成長”の時代から、雨やエネルギーなど様々な課題に直面する“多様性”の時代に移りつつあります。そのための組織体制も同時に構築していく必要があります。多様性の時代であるゆえに、今の組織や発想のままでは、エントロピー(乱雑さ)が増大し、いずれ行き詰まり、崩壊してしまうのが生き物、社会の法則です。成長時代につくったシステムや体制等についてリセットし、次のステージを支える新たな調和性を生み出すべき時であり、そのためにも新たな価値の創造、イノベーションが必要です。 この4月から東京大学に新設された「下水道システムイノベーション研究室」を担当することになりました。この多様性の時代に耐えられる下水道システムはどうあるべきか。PPPを含め、下水道事業の体制が今のままでいいのか。柔軟な発想を持った人材をいかに育てるか。こうした問題意識をベースに、産官学、そして市民の拠点として、「グローバルとローカル」「異分野連携」などの視点から様々なプロジェクトに取り組んでいく考えです。 第3種郵便物認可生下水が流れるフランス下水道博物館(筆者撮影)

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