第3種郵便物認可 日本のPPPが戦略的になりきれない理由の1つは、PPPの政策動機が、ヒト・もの・お金というリソースのみの議論から始まったからだと思います。この「仕方がないから民間に任せる」という空気は、今も基本的に変わっていないように思います。そうではなく、「イノベーションを興すため」「自分たちの能力を向上させるため」という前向きな目的からPPPの導入を考えれば、自治体独自のPPPのコンセプトが見つかるはずです。民間を“賢く使って”イノベーションを興す。これが戦略的PPPの重要なコンセプトです。民の得意な“広域的視点”や“分野横断” では、官より民が優れている部分は具体的に何か。自治体や個人で様々な意見があるとは思いますが、私が考える民の強みとして、まず1つは、広域的な活動、モノの見方ができるという点です。民間には市境や県境がありません。仕事をする上で、市境や県境を意識せざるをえない公務員が最も苦手とする部分だと思います。また、分野横断も民が得意とするところです。「縦割り行政をなくす」と言っても、結局のところ官は業務範囲が明確で柔軟性がありません。範囲が法令で決められているという制約もあります。官では余程意識の高い人でないとセクションを飛び超えた仕事はしませんが、民にはトップの判断さえあればそうした縛りはありません。 サービス意識も民の方が優れていると、個人的には思います。よく災害時対応は官がすべきという議論がありますが、何か起こった時、本当に官の方が早く駆けつける方法を持っているのか、よく考えなければいけません。大津市のガスコンセッションでは非常時対応は民間に任せる領域に整理しました。市民とのコミュニケーションも同様です。場合によっては官より民の方がノウハウを持っていることも十分考えられます。 こうした分野ごとのノウハウは自治体によって様々です。だからこそ、前述したボルドー幹部の行っていた自己分析からPPPを考え、民間に任せる部分と自ら行う部分を仕分ける方法には、学ぶべきところが多いと思います。ドイツのシュタットベルケに学ぶ「官と市民の距離」 もう1つ、PPPで大事だと考えているのが、官と民でなく、官と市民の関係性、距離です。市民が税金を納めていることを考えると、本来、官は市民の意向を代表する組織でなければなりませんし、官のバックグラウンドには必ず市民が存在する表裏一体の関係にあることは言うまでもないことですが、これはPPPの持続性のためにも特に重要なポイントです。なぜなら、税金であれ、使用料であれ、資金提供者である市民からの「信頼」があれば持続性についてのリスクは大きく下がるはずだからです。そこがPPPの生命線なのです。下水道政策において、下水道の運営主体と市民との距離を縮めるコミュニケーションは経営戦略そのものです。これがPPPにおいてもファンダメンタルな部分として不可欠だと考えます。 ドイツに「シュタットベルケ」という仕組みがあります。直訳すると“まちの事業”を意味する言葉で、電気やガス、上下水道、通信、プールなどの公共インフラを一体的に整備・運営するほぼ100%自治体出資の企業です。プールなど市民のためには赤字で構わないと考える事業を、他の黒字の事業で補うポートフォリオを形成して経営します。日本で言えば公社に近い組織と考えてもらっていいと思いますが、監査役は市長や議員がつとめ、社長は経営能力のある民間出身者が辣腕をふるうという形が基本となっています。自治体単位で組織されており、都市ごとにほぼ1つ、ドイツ国内に約8400の組織が存在しています。 人口減の激しい日本の地方都市で、上下水道の効率性を上げるには、地域的な水平統合と、分野を束ねる垂直統合という方法があります。水平統合は既に規制的手法により広域化を図るフランスがリードしていますが、垂直統合についてはドイツのシュタットベルケ 第1915号 令和2年4月7日(火)発行(45)シュタットベルケの概要
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