コンセプト下水道 第1回~20回
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(44)第1915号 令和2年4月7日(火)発行 様の話は、官側でなく、フランスの民間組織による団体幹部からも聞きました。そこでは、持続的なDSPのために最も大切なこと、それは「官側の組織堅持と知識である」と。取り巻く背景が異なるとはいえ、「人がいないから、組織縮減のためにPPP」という風潮もある日本とはずいぶんコンセプトが異なります。 官側の組織堅持の裏返しでもあるのですが、フランスの訪問自治体は民間を活用することに対して非常に戦略的でした。民間を“うまく使う”ことに長けている、と言ってもいいかもしれません。ナント市など複数のコミューンで構成される広域自治体「ナント・メトロポール」では、22ヵ所ある下水処理場のうち、2ヵ所を直営に近い形で自ら管理し、残る20ヵ所を7年間を基本とする包括的民間委託で管理しています。ナント・メトロポールでは“官民混合型”と言ってましたが、その目的は何かと問うと、民間のイノベーションを民間委託の処理場で学び、自治体職員が知識を吸収するとともに、直営の処理場に活用するためと答えていました。 また、ボルドー・メトロポールの上下水道局長は、PPPの検討において、メトロポール職員である官と水メジャー・民の優劣を、リスク管理やイノベーション、技術継承、市民とのコミュニケーション、透明性など様々な観点から比較し、官(自ら)と民のどちらが優れているか「自己分析」した上で民間に任せる業務を決めています。民間を使ってイノベーションを興し続け、同時に自分たちの能力も保持し続けたい。これを実現する戦略としての結果が、処理場数や業務における直営部分とコンセッションやアフェルマージュ等の切り分けに表れていると考えます。ボルドー・メトロポールの「自己分析」チャート第3種郵便物認可イラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第8回】~欧州と日本を比較して~民間を“賢く使う”戦略的PPPのススメ 改正水道法をめぐって世間の耳目を集めた官民連携(PPP)。下水道の世界においても、コンセッションという新たな手法が導入されるなど、近年、その関心度は高まっています。今回は、欧州諸国(フランスとドイツ)と日本の比較を通じ感じた、日本で考えるべきPPPのコンセプトについてお話しします。 まず、150年の歴史を持つPPP先進国としての印象が強いフランスには、一昨年、昨年と、これまで2回、現地調査に訪れました。「フランスでは多くのコンセッションが行われている一方でその再公営化が進んでいる」というような内容の報道が日本の一般紙でありましたが、コンセッション導入割合は必ずしも高くなく(1割以下)、また、再公営化も進んでいるわけでもない。官民出資会社など、多様なPPP手法が展開されていました。これらの調査結果については、既に様々な媒体で書いてきましたので、今回はPPP(フランスではDSPと言う)について直接ヒアリングしてきた中で、特に本質的で強い印象を受けたことをお話しします。 まずは、PPPの成否のポイントは、あくまで官(自治体)にあるということです。日本でPPPを考える時、しばしば官と民の役割分担をどうすべきかが話題になりますが、昨年、フランスの水環境保護政策の実行機関である「水管理庁」の方と議論を交わす機会がありました。彼らが強調したのは、「官か民か? という議論はナンセンス。官も民もない。どっちにしろ、結局は官が責任をとるんだ。官のノウハウ、官のリーダーシップなしにDSPはありえない」ということです。これには、改めてPPPの本質に気づかされたようで目が覚めました。官が自分たちの技術力、ノウハウ、知識を堅持し磨き続けることが大前提だと強調されました。同官民連携加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室特任准教授

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