コンセプト下水道 第1回~20回
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第3種郵便物認可 紹介されます。我々は、生き物の姿を視覚的に見ることで、「自分たちも何かやらなきゃ」と使命感に駆られるのです。ビストロ下水道の「食べ物」と「生きもの」は強いコンテンツです。 下水道も同じです。下水道事業の重要性を伝える時、最近はよく道路陥没の写真が使われます。というか、私も何百回も使ってきました。しかし、これは市民からすると、「それなら地方公共団体がしっかりやって」「財源が不足なら人件費を削ってでもやればよい」で終わってしまうかもしれません。これは、お金を払う側と、お金をもらってサービスする側の関係性の論理です。これでは職員のやりがいもなく、地域の新たな工夫も生まれにくいです。これからの経営には、この関係性の改革・イノベーションが重要です。市民の感性を揺さぶり、「下水道を持続させなきゃ。自分たちも何か一緒にやらなきゃ」「下水道管理者は生き物を守るという重要な仕事をしてくれている」まで持っていくためには、市民との共通の目標として、生態(生きもの)の持続的な保全はとてもわかりやすいと思います。 昨年、フランスを訪れて驚いたのが、下水処理場のパンフレットの表紙に地域のカエルやトンボの写真が大きく使われていたことです。国の長期計画の投資の目的も生き物。さらに、ある処理場では、生態系を大切にする職業であることを示すため、環境変化に敏感なハチを飼って地域にハチミツを提供していました。下水道の効果や目的は、地域の水環境を復活させること、生き物を守り続けること。この認識の表れだと思いますし、そのために多くの投資が必要というメッセージにもなっています。 現在、日本で市民科学をリードしているのは横浜市です。市役所職員と地元の舞岡中学校の先生と生徒が、水環境とハグロトンボをテーマに研究し、国土交通大舞岡中学校が研究したハグロトンボ臣賞「循環のみち」を受賞しました。ボランティアでもCSRでもない、“経営戦略”としての市民科学 官民連携(PPP)の視点からも、市民科学は重要と考えています。生き物や地域環境に貢献する取り組みは民間企業と市民の交流を深める潤滑油的な役割を果たします。官民連携を、パブリック(官)、プライべート(民)、パートナーシップ(連携)、の頭文字を取ってPPPと呼びますが、これにピープル(市民)を加えた4Pが、これからは大事になってくると思います。それから、これは少し突飛なアイデアかもしれませんが、PPP案件で事業者に求める性能目標に、例えば「カエルが何匹」など、水環境や生態系と直接リンクした目標があっても面白いかもしれません。 最後になりますが、市民科学と言われると、自治体の方も企業の方も何となく業務時間外のボランティア的な活動をイメージされる方が多いようです。実際、「勤務中にはやりにくい」「遊んでいると思われてしまう」といった声も聞きます。しかし、日本ではCSRと混同されがちなSDGs(持続可能な開発目標)も、世界では企業の長期的な経営戦略の柱になっています。長期的な視点で考えるべきインフラである下水道についても、地域の生き物の保全を、市民と考える共通の目標とし、「経営戦略の柱」にするべきと考えています。また、これにより下水道関係者の社会的地位もきっと上がるでしょう。なお、今年の1月にはGKPに市民科学チームが立ち上がり、会員の募集も始まっています。好きな生きもので、一緒にやりませんか?東京都市大学の指導により横浜市内で行われた現地調査 第1913号 令和2年3月10日(火)発行(43)リヨンの下水処理場にあるパンフレット

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