コンセプト下水道 第1回~20回
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(42)第1913号 令和2年3月10日(火)発行 下水道には市民と密接な「空間」が少ないことがネックになっているからです。下水処理場もデザイン化やリノベーションの動きがありますが、現在のところ「日常的に密接か?」「美しい魅力的な空間になってるか?」と言われるとどうでしょうか? 必ずしもYesとは言い切れません。そこで、空間を伴わないサイエンス、科学を切り口にすれば市民と下水道を結びつけられるかもしれない。市民の中でも環境意識の高い方や地域リーダーと近づけるかもしれない。また、データ収集や蓄積には近年進歩が著しいICTがそれを後押しするとも考えました。 サイエンスを切り口にという意味では、ビストロ下水道も「食べ物」に注目した市民科学の1つです。ビストロ下水道の場合、市民は農家にあたりますが、農家の協力なしに、汚泥由来肥料を使った場合の収穫量のアップや品質の向上について科学的な根拠を得ることができないからです。「生きもの」「生態」が最も市民の感性に刺さる 下水道の大きな役割、本流は水環境の保全です。しかしその保全状況をモニタリングし、把握するのは、地方公共団体や大学だけではなかなか難しいものがあると思います。そこで市民の出番というわけです。 市民が下水処理場からの放流水などを調べるのは現実的でないと思う向きもあるかもしれません。しかし、身近な環境を調べることは市民でも十分可能です。下水道の整備が進んだことで、河川の水環境を調べることは下水道の放流水を調べることと等しいと言ってもいい状況になってきました。 市民が下水道の水環境を調べることは、下水道の“見える化”にもつながります。下水道処理場や管きょなどの“構造物”を見せることも大事かもしれませんが、水環境を通じて下水道の「効果や目的」を見せることが、真の“見える化”ではないでしょうか。 では具体的に何を調べるか。水環境と一口に言っても、その構成要素には大きく「水量」「水質」「水辺」「生態」の4つがあります。何を調べればいいか悩んだら、個人的にはまずは「生態」をお勧めします。「生態」、すなわち生き物が、最も分かりやすく、最も市民の感性に刺さると思うからです。しばしば地球温暖化の問題で、絶滅の危機に瀕しているホッキョクグマが第3種郵便物認可イラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第7回】~「生きもの」を経営戦略の柱に~サイエンスを切り口に市民と下水道を結びつける 市民科学を知ったのは偶然でした。国交省で流域管理官を務めている時、どうやったら市民と下水道を結びつけることができるか思案していました。もともと下水道は、河川等のインフラに比べて、使用料のやりとりがある分、市民とより直接的な関係にあるとは考えてましたが、その関係だけでは寂しいです。ある時、ふと河川環境課が主催するNPO団体との勉強会に誘われ参加しました。その夜の懇親会でたまたま席が隣りでお酒を注ぎ合ったのが東京都市大学特別教授の小堀洋美先生です。 その席で小堀先生から世界中に市民科学が広がっていることを教えてもらいました。市民科学とは、先生の定義では、市民が能力や時間、エネルギーを使ってサイエンスにアプローチする取り組みのこと。その効果・役割として、①市民と大学等の協働により研究を深めることができる、②その研究成果が社会に貢献する、③研究を通じて環境教育につながる、の大きく3つがあるとのことでした。 分かりやすい例えで言うと、アフリカに生息する動物を調査する場合、研究者だけでその個体の数などのデータを集めるのは大きな労力を要します。そこで現地に精通した市民にデータ収集を協力してもらうわけです。クワガタや蝶など日本でも庭先に生息する昆虫の採集や研究も、その家の住民の協力が必要になります。こうした協力だけでなく、市民が研究者と一緒にテーマを決め、研究論文を出す段階まで行ければ理想的です。 先生からこれらの説明を聞き、もしかすると市民科学は下水道に向いているのではないか、と直感的に思いました。というのも市民と下水道を結びつける際、市民科学加藤 裕之東北大学特任教授㈱日水コン技術統括フェロー

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